長生き
LINEなりインスタなりで人から連絡がきたとき、急ぎじゃなければ私はそのままにする。それが、私が存在する証だから。普段暮らしていて、「生きてるなぁ」と、思うことはある。包丁で手を切って痛いだとか、苦しいだとか。でもそれって、己の存在の証明ではない、って気づいてしまった。自分の中に、自分があるだけ。私のことを見てほしい!! ってTwitterに自分の写真を投稿している彼女たちも、いまやAIに存在を消されつつある。お金を稼いでやろうって目論むおっさんが、暗い目をした女を鏡の前に創り出す。結果、「AIか人か、そんなのどうでもいい」という阿保に消費され、鏡に映る女はどれも透明だ。私は、自分の中じゃなく他人の中で生きたい。
だから私は、他人にスタンプを贈る。それもなるべく日常生活で目に入ってくるキャラの。彼が、人にスタンプを送る度、街でそのキャラを見つける度、私のことを思い出させるために。
だから私は、ノートに曲を貼る。カラオケに行っても1曲は毎回同じ曲を歌う。もちろんリサーチは欠かさない。曲の趣味って、ほんとに多様だから。たくさん聞いてもらわなきゃ意味がない。プレイリストで流れてくるたびに私を思い出せと、強く願いながら。
だから私は、香水を振る。あなたがトイレに立ったその隙に、置いていった上着にも。匂いは一番記憶に残るらしいの。長生きできるといいなぁ、なんて。
だから私は、バレンタインを忘れない。手の込んだものを毎年。たまには「ちょっと失敗しちゃったかも」なんて言ってみたりして。だけどチョコは作らない。クッキーにマカロン、マドレーヌ。ホワイトデーの度によぎるでしょ?
だから私は、冬が好き。今日私手冷たいかもって魔法の言葉が、あなたに温度を渡すから。夏はそうだなぁ。あなた達がいつも楽しそうにやっている腕相撲、私でも勝てると負けに行く。
目と、耳と、鼻と、舌と、手と。その全てで私を思い出して、あなたの中で私を生かし続けて。
『さっき学校行く途中でブルドッグ見かけた。生で見たらたしかに可愛いかも?』
連絡くれてありがとう。今回は1時間で殺しちゃうの、もったいないけど。せっかくだから最後に、電話をかけるね。
あぁ、出なくていい、というか今講義中でしょ? 別に私もすぐ切るし。だってまだまだたくさんにかけないといけないの。
じゃあみんな。あとは私をよろしくね。できれば長生きしたいから




