表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王進化譚  作者: 趣味に生きる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/18

弱者の戦い方

 ネズミが飛びかかってきた。

 速い。

 思ったよりずっと速い。


「ギィッ!!」


 反射的に体を横に倒す。

 風を切る音がした。

 ほんの少し遅れていたら、首を噛まれていた。


(速すぎる……!)


 心臓が暴れている。

 呼吸が乱れる。

 怖い。

 正直めちゃくちゃ怖い。

 でも逃げられない。

 後ろにはあいつがいる。


 小さいゴブリン。

 俺にキノコをくれたやつ。


(やるしかない……!)


 その時だった。

 視界に文字が浮かんだ。


 ――解析可能――


 そうだ。

 スキル。

 念じる。

 解析。

 するとネズミの上に文字が浮かんだ。


 ――――――――


 洞窟ラット


 レベル:3


 HP:24


 筋力:12


 敏捷:14


 スキル:

 噛みつき


 ――――――――


 ……終わった。

 完全に格上だ。

 俺を見る。


 自分のステータス:


 レベル1


 HP10


 筋力5


 敏捷6


 勝てるわけがない。


(正面からは無理だ)

(絶対に)


 ネズミがまた構える。

 低い姿勢。

 飛びかかる準備。

 俺は石を握る。

 武器はこれだけ。


(考えろ)

(どうすれば勝てる)


 ネズミが動いた。

 突進。

 速い。

 また避ける。


 今度は間に合わない。

 牙が肩に食い込んだ。


「ッ!!」


 声にならない悲鳴。

 熱い。

 痛い。

 骨まで響く痛み。

 肉が裂ける感覚。

 引き裂かれる。

 血が流れる。


 HP表示:


 10 → 6


(やばい……!)

(もう余裕ない!)


 ネズミが離れる。

 血の匂いを嗅いでいる。

 次で終わる。

 そう分かった。

 震える。

 体が勝手に震える。


(怖い)

(死にたくない)

(また死ぬのか)


 でも。

 逃げたら。

 後ろのあいつが死ぬ。

 ちらっと見る。

 小さいゴブリン。

 動けない。

 震えている。

 逃げられない。

 目が合った。

 恐怖の目。


 でも――


 俺を見てる。

 信じてるみたいに。

 ……なんでだよ。


 俺、そんな大した奴じゃない。

 ただの元社畜だぞ。

 戦ったこともない。


 でも――


 やるしかない。


(力じゃ勝てない)

(なら)

(弱点だ)


 考える。

 動物。

 大きさ。

 戦い方。

 人間時代の知識。

 そして思い出す。


(目だ)


 目は弱い。

 どんな生き物でも。

 ネズミも同じはず。

 俺は石を握る。


(当てられるか?)

(外したら終わり)


 ネズミがまた飛ぶ。

 今度は避けない。

 ギリギリまで引きつける。

 怖い。

 足が逃げようとする。

 でも耐える。

 限界まで。

 牙が見える。

 口の中まで見える。

 臭い。


 その瞬間――


 投げた。

 全力で。

 石を。


 狙いは――


 右目。

 コンッ!!

 当たった。

 運が良かった。

 本当に運だけ。


「ギィイイイ!!」


 ネズミが暴れる。

 目に命中。

 怯む。

 隙ができた。


(今だ!!)


 走る。

 痛い肩を無視。

 石を拾う。

 振り上げる。

 頭に叩きつける。


 ゴッ!!


 硬い。

 でもやめない。

 もう一度


 ゴッ!!

 また。


 ゴッ!!


 ネズミが暴れる。

 爪で引っかかれる。


 HP:


 6 → 4


 でも止めない。


(やめたら死ぬ)

(やめたら殺される)


 叩く。

 叩く。

 叩く。


 腕が震える。

 息ができない。

 視界が揺れる。


 でも――


 叩く。


 ゴッ!!


 ゴッ!!


 ゴッ!!


 そして――


 動きが止まった。

 ネズミが崩れた。

 完全に。

 静かになった。

 俺も倒れた。

 仰向け。

 動けない。

 呼吸だけ。

 荒い呼吸。


(……勝った?)


 信じられない。

 本当に?

 俺が?

 レベル1が?

 震える手でネズミを見る。

 動かない。

 死んでいる。


(勝った……)


 その瞬間。

 全身から力が抜けた。

 HP表示:


 残り2


(危なかった……)


 本当にギリギリ。

 あと一撃もらってたら終わりだった。

 その時だった。

 文字が浮かんだ。


 ――経験値獲得――


 ――レベルアップ――


 え?

 体が光った。

 淡い光。

 暖かい。

 肩の痛みが消える。

 傷が閉じる。

 血が止まる。

 呼吸が楽になる。

 体が軽い。


 HP表示:


 2 → 12


 最大値も増えている。

 立てる。


 さっきまで死にかけだったのに。


(回復してる……)


(レベルアップで?)


 理解した。

 この世界のルール。

 強くなると回復する。


 つまり――


 戦えば戦うほど生き延びる可能性が上がる。

 悪くない。

 むしろ最高だ。

 その時だった。

 小さい足音。

 振り向く。あいつだ。

 小さいゴブリン。

 恐る恐る近づく。

 逃げない。

 俺を見る。

 そして小さく鳴いた。


「ギャ」


 短い声。

 でも分かった。

 意味は。

 多分。

 ありがとう。だと思う。

 俺はネズミを見る。

 そして思った。


(守れたか)


 ただそれだけ。

 でも。

 少しだけ。

 悪くない気分だった。

 あいつは俺の横に座った。

 安心したみたいに。

 もう震えてない。

 俺の近くにいる。


 仲間みたいに。


(……まあいいか)


 俺は思った。

 この世界は厳しい。

 でも。

 一人じゃないなら。

 少しはマシかもしれない。

 俺はネズミを見る。

 そして思った。


(もっと強くならないとな)

(次は勝てないかもしれない)

(守れないかもしれない)


 拳を握る。


(強くなる)

(もっと)

(誰にも負けないくらい)


 小さいゴブリンが俺を見る。

 信頼の目で。

 その瞬間。

 決まった。


 俺の目的。


 ただ生きるだけじゃない。

 強くなる理由。


(守れるくらい強くなる)


 それが――俺がこの世界で最初に決めた目標だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ