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魔王進化譚  作者: 趣味に生きる


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折られるもの

 老人は、ゆっくりと俺の前に立った。

 距離は、数歩。

 だが――

 妙に遠く感じる。

 隙がない。

 立っているだけで分かる。


(……強い)


 今まで戦ってきたどの相手とも違う。

 魔物でもない。

 力の塊でもない。


 だが――


 “完成されている”。

 ガルが低く唸る。


「……危ない」


 槍を構える。

 止める気だ。

 当然だ。

 だが、俺は手を上げて制した。


「……いい」


 短く言う。

 ガルが止まる。

 桜花も、不安そうにこちらを見る。

 だが、何も言わない。

 俺は一歩、前に出る。

 棒を構える。

 正面。

 間合いを測る。

 呼吸を整える。


(……やる)


 老人は、動かない。

 ただ立っている。

 それだけ。


 なのに――


 攻める場所が、ない。


(……なら)


 俺から行く。

 踏み込む。

 棒を振る。

 横から。

 速く。

 正確に。

 当たる。

 はずだった。


 ――空を切る。


(……!?)


 消えた。

 いや、違う。

 “外された”。

 最小限の動きで。

 老人の体は、ほとんど動いていない。


 ただ――


 そこにいなかった。

 次の瞬間。

 軽い衝撃。

 俺の手首に。

 棒が弾かれる。

 力が抜ける。


(なっ)


 間に合わない。

 もう一度、衝撃。

 足。

 払われる。

 視界が揺れる。

 地面。

 叩きつけられる。


「……っ」


 一瞬で。

 終わった。

 完全に。

 すぐに立ち上がる。

 構える。

 呼吸が乱れている。


(まだ終わってない)


 踏み込む。

 今度は突き。

 速く。

 正確に。

 中心を狙う。


 だが――


 届かない。

 当たる直前で、消える。

 いや、違う。


 “ずらされる”。


 そして――


 棒が、絡む。

 軽く触れただけ。

 それだけで。

 俺の棒が、逸れる。

 体勢が崩れる。


 そのまま――


 胸を押される。

 強くない。

 だが。

 止まらない。

 後ろへ。

 倒れる。


(……なんだよ、これ)


 力じゃない。

 速さでもない。

 なのに。

 何もできない。

 俺は歯を食いしばる。

 立つ。

 構える。

 何度でも。

 やる。

 踏み込む。

 振る。

 突く。

 払う。

 全部、やる。


 だが――


 一度も、当たらない。

 全部、外される。

 全部、崩される。

 そして。

 最後。

 棒が、止められた。

 完全に。

 老人の棒に。

 軽く。

 触れただけで。

 動かない。


「……遅ぇ」


 ぽつりと言う。

 低く。

 冷たく。

 俺は歯を食いしばる。

 力を込める。

 だが、動かない。

 その瞬間。

 軽く、弾かれた。

 俺の棒が、宙に舞う。

 空っぽの手。


(……負けた)


 完全に。

 何もできずに。

 その事実が、重くのしかかる。

 俺は動けなかった。

 悔しさ。

 怒り。

 全部が、混ざる。


 だが――


 理解していた。


(……違う)

(俺のやってるのは、ただ振ってるだけだ)


 老人が近づく。

 ゆっくりと。

 俺を見る。

 まっすぐに。


「いいな」


 ぽつりと。

 意外な言葉。

 俺は顔を上げる。


「当てようとしてる」


 棒を拾う。

 軽く振る。


「だが、それじゃ、生当たらねぇ」


 断言。

 俺は黙る。

 何も言えない。

 正しいからだ。

 老人が、棒を構える。

 今度は、ゆっくりと。


「見えるか?」


 そう言って。

 動いた。

 遅い。

 さっきよりも。


 だが――


 次の瞬間。

 俺の喉元に、棒があった。

 触れている。

 完全に。

 反応できなかった。


(……見えなかった)


 老人はそのまま言う。


「棒はな」


 一度引く。

 そして、軽く突く。

 今度は、胸。

 当たる。

 止められない。


「“当てる武器”じゃねぇ」


 さらに一歩。

 間合いに入る。


 そして――


 軽く押す。

 それだけで。

 俺の体が、崩れる。

 バランスが消える。

 立てない。


「崩す武器だ」


 静かに。

 だが、はっきりと。

 言い切った。

 俺は地面に手をついたまま、息を吐く。


(……崩す)


 考えたこともなかった。

 当てることばかり。

 倒すことばかり。


 だが――


 違う。

 その前に。

 崩す。

 その発想が、なかった。

 老人が棒を肩に担ぐ。

 そして、言った。


「お前、面白ぇな」


 少しだけ、口元を歪める。


「ゴブリンのくせに、考えてやがる」


 俺はゆっくりと立ち上がる。

 棒を拾う。

 握る。

 さっきとは、違う感覚。

 まだ分からない。


 だが――


 何かが変わった。


「……教えろ」


 自然に言葉が出た。

 迷いはない。

 必要だと分かっている。

 老人は少しだけ目を細めた。


 そして――


「いいぜ」


 あっさりと。

 軽く。

 だが、確かに。


「その代わり――」


 一歩、近づく。

 目が、鋭くなる。


「死ぬほどやるぞ」


 その言葉に。

 俺は、ほんの少しだけ笑った。


(……望むところだ)


 ここからだ。

 本当の意味で。

 強くなるのは。

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