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魔王進化譚  作者: 趣味に生きる


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27/33

芽吹く群れ

 ――それから、一ヶ月が過ぎた。

 森は、変わらない。

 だが――

 この場所は、もう別物だった。

 木を組んだ柵。

 簡易の屋根。

 火を囲む場所。

 そして、明確に分けられた空間。

 ここはもう、ただの群れじゃない。


(……村だな)


 俺はそう思った。

 そして、その中心に立っている。



「……ヴァル!」


 声が飛ぶ。

 振り向くと、リグが走ってきた。

 背負っているのは木材。

 運搬班。

 動きに迷いはない。


「……おいた」


 地面に下ろす。

 俺は頷く。


「……いい」


 それだけで、リグは満足そうに頷く。

 単純だ。

 だが、それでいい。

 その積み重ねが、群れを強くする。



 視線を巡らせる。

 動きがある。

 はっきりと。

 見張り班は柵の外。

 運搬班は資材を集める。


 そして――


 戦闘班。


「……前、揃えろ」


 ガルの声が響く。

 低く、通る。

 完全に“指揮官”の声だ。

 槍を持ったゴブリンたちが並ぶ。

 数は少ない。


 だが、うごきが揃っている。

 突く。

 引く。

 また突く。

 単純だが、鋭い。


(……いいな)


 ガルは“槍”に特化している。

 真っ直ぐ。

 突破力。

 前線の要だ。

 その少し後ろ。

 別の一団がいる。

 手に持っているのは――


 削った木。

 棒ではない。

 刃の形に近づけた、木の剣。

 ぎこちないが、振っている。

 叩く。

 受ける。

 近距離の動き。


(……剣か)


 悪くない。

 槍とは違う。

 中距離ではなく、接近戦。

 役割が分かれる。

 そして。

 さらに後ろ。

 石を持った個体。

 投げる。

 外れる。

 だが、繰り返す。

 数で押す。

 これもまた戦い方だ。


(……揃ってきたな)


 武器が違う。

 役割が違う。

 だから、群れになる。

 その時だった。


「……ヴァル」


 桜花が隣に立つ。

 落ち着いた目。

 以前よりもずっと。


「……みんな、つよい」


 周囲を見る。

 俺も頷く。


「……ああ」


 強くなっている。

 確実に。

 名前を持ち。

 役割を持ち。

 動いている。


 その中で――


 俺だけが、違う。

 手に持っているのは、一本の棒。

 削ってもいない。

 ただの木。


 だが――


 握る。

 しっくりくる。

 軽く振る。

 風を切る。

 距離。

 制御。

 間合い。


(……これでいい)


 剣じゃない。

 槍でもない。

 これが、俺の武器だ。

 ガルがちらりと見る。


「……それ」


 短く言う。

 疑問。

 当然だ。

 俺は軽く振る。

 地面を払う。

 石を弾く。

 正確に。


「……これが、いい」


 それだけ。

 ガルは少し考え――

 頷いた。


「……ヴァル」


 理解ではない。

 だが、認めている。

 それで十分だ。



 その時だった。

 背後に、違和感が走った。

 気配。


 だが――


 薄い。

 深い。

 俺は振り向く。


 そこに――


 いた。

 知らない存在。

 老人。

 背は低い。

 だが、体は締まっている。

 ボロ布。


 そして――


 手には、長い棒。

 俺と同じ。

 だが、違う。

 立ち方が。

 隙がない。


(……なんだ、こいつ)


 ガルが一歩前に出る。

 槍を構える。

 他のゴブリンも反応する。

 だが、老人は動かない。


 ただ――


 俺を見ている。

 まっすぐに。

 そして、口を開いた。


「……そいつは違うな」


 俺の棒を指す。

 はっきりと。

 否定。

 空気が張り詰める。


(……なんだと)


 だが。

 次の言葉で、全てが変わった。


「それは“武器”じゃねぇ」


 静かに。

 断言する。


「ただの、長い木だ」


 その一言が。

 胸に刺さった。

 俺は無意識に、棒を握り直す。

 反論したい。


 だが――


 できない。

 どこかで分かっている。

 まだ未完成だと。

 老人が一歩、前に出る。

 ゆっくりと。

 だが、圧がある。


「教えてやるか?」


 軽く言う。

 だが。

 その目は本気だ。

 俺は、棒を構える。

 そして思う。


(……来たな)


 次の段階が。

 群れは整った。

 だが、俺はまだだ。

 この老人が。

 それを変える。

 そんな確信があった。

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