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魔王進化譚  作者: 趣味に生きる


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手にするもの

 朝。

 空気は、昨日よりも軽かった。

 完全ではない。


 だが――


 止まってはいない。

 群れが、動き始めている。

 俺は集落の中央に立つ。

 全員を見る。

 視線が集まる。

 もう迷いは少ない。

 完全ではないが――

 従う。

 その意思がある。


(……いい)


 ここからだ。

 俺は地面に線を引く。

 今度は、昨日よりもはっきりと。


「……分ける」


 短く言う。

 だが、今は通じる。

 理解する個体が増えている。

 桜花が横に立つ。

 言葉を補う。


「……みはり、こっち」

「……かり、こっち」

「……はこぶ、こっち」


 明確になる。

 役割。

 責任。

 ゴブリンたちが頷く。

 動く。

 迷いが減っている。

 そして――

 ガルが前に出る。


「……ガル」


 俺を見る。

 指示を待つ。

 完全に副官の動きだ。

 俺は頷く。


「……ガル、まえ」


 前衛。

 戦闘部隊。

 ガルはすぐに理解する。

 槍を持ち、数匹を引き連れて移動する。

 統率が生まれる。


(……いい流れだ)


 その時。

 視界に表示が浮かぶ。


――簡易指揮:発動――

――統率補正:適用――


(……やっぱり来てるな)


 群れが、繋がる。

 俺を中心に。

 動きが揃う。

 それだけで、戦力が上がる。

 だが。


(……まだ足りない)


 戦い方。

 個の強さ。

 そこが、弱い。

 俺は周囲を見る。

 ゴブリンたちの武器。

 石。

 槍。

 手。

 雑だ。

 荒い。


 それでも戦えていたのは――


 今までは、それでよかったからだ。

 だが、これからは違う。


(……俺も含めてな)


 その時、足元に転がっていた枝が目に入った。

 長い。

 まっすぐ。

 手に取る。

 少し重い。

 だが、悪くない。

 俺は軽く振ってみる。

 風を切る音。

 距離がある。

 届く。


(……これ)


 悪くない。

 石よりも。

 拳よりも。

 “間合い”が取れる。

 俺はもう一度振る。

 今度はゆっくりと。

 前へ。

 横へ。

 突く。

 払う。

 まだ荒い。


 だが――


(……使えるな)


 その時。

 ガルがこちらを見ていた。

 少し不思議そうに。


「……ヴァル?」


 短く問う。

 俺は枝――いや、棒を持ち上げる。


「……これ、使う」


 ガルは首を傾げる。

 槍の方が強いと思っているのだろう。

 当然だ。


 だが――


 俺は振る。

 石を置く。

 そして、棒で弾く。

 正確に。

 飛ばす。

 距離。

 速度。

 制御。

 ガルの目が変わる。


「……速い」


 短く、評価。

 桜花も近づいてくる。


「……とどく」


 そう。

 届く。

 安全な距離から。

 崩せる。


(……これだ)


 俺は確信する。

 俺の戦い方に合っている。

 力じゃない。

 間合い。

 制御。

 崩し。

 全部が噛み合う。

 その時。

 視界に表示が浮かんだ。


――新規武器適性確認――

――棒術:未習得――


(……未習得か)


 つまり――


 まだ伸びる。

 これから、強くなる。

 俺は棒を握り直す。

 そして、周囲を見る。


「……これ、やる」


 数本の枝を拾う。

 ゴブリンたちに渡す。

 戸惑う。

 だが、受け取る。

 試す。

 振る。

 ぶつける。

 まだ雑だ。


 だが――


 可能性がある。

 俺は言う。


「……まねろ」


 短く。

 だが、意味は通じる。

 俺はゆっくり動く。

 振る。

 止める。

 突く。

 払う。

 単純な動き。

 だが、意識して。

 見せる。

 ゴブリンたちが、それを真似る。

 ぎこちない。

 でも、やる。


(……いい)


 これが、始まりだ。

 ただの戦いじゃない。

 技術。

 積み重ね。

 強さの“形”。

 その時。

 桜花がぽつりと言った。


「……つよく、なる」


 その言葉に、全員が反応する。

 意識が揃う。

 目が変わる。

 俺は小さく頷いた。


(……ああ)


 なる。

 確実に。

 この群れは。

 そして、俺も。もっと強く。もっと上へ。

 そのために。

 俺は棒を構えた。

 初めての武器。

 まだ粗い。


 だが――


 確かな手応えがあった。


(……これでいく)


 俺の戦い方。

 俺の武器。

 そして――


 これから出会うであろうものへ。

 繋がる道。

 それは、まだ始まったばかりだった。

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