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魔王進化譚  作者: 趣味に生きる


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背負うということ

 夜は、静かだった。

 戦いの後とは思えないほどに。

 だが、その静けさは――

 重かった。

 火は灯っている。

 だが、誰も騒がない。

 笑わない。

 ただ、座っている。

 あるいは、うずくまっている。

 失ったものの大きさが、空気に染みついていた。

 その中心に――

 リーダーの亡骸があった。

 横たえられ、静かに。

 誰も近づかない。

 近づけない。

 それだけの存在だった。

 俺は、その前に立つ。

 しばらく、何も言わなかった。

 言葉が見つからない。


 だが――


 言わなければならない。

 俺が。

 今は。

 俺が。

 ゆっくりと、息を吸う。

 そして――


「……埋める」


 短く言った。

 それが、最初の決断だった。

 周囲がわずかにざわつく。


「ギャ……?」

「ギャ……」


 戸惑い。

 理解していない個体もいる。

 だが、逆らう声はない。

 俺は地面を指す。

 そして、リーダーを見る。


「……ここ」


 意味は単純だ。

 ここに、埋める。

 この場所に。

 守ってきた場所に。

 桜花が一歩前に出る。

 そして、静かに言った。


「……ここ、いい」


 言葉が補強される。

 意味が通る。

 ゴブリンたちの中に、理解が広がる。

 やがて。

 一匹が動いた。

 手で地面を掘る。

 次に、もう一匹。

 そして、また一匹。

 広がっていく。

 言葉じゃない。

 行動が、伝わっていく。


(……これが)

(群れか)


 俺は静かに見ていた。

 ガルが俺の隣に立つ。

 何も言わない。

 だが、動かない。

 守るように。

 支えるように。

 そのまま、時間が過ぎる。

 穴が掘られる。

 深く。

 静かに。

 やがて。

 リーダーの体が、そこへ運ばれる。

 誰も乱暴に扱わない。

 慎重に。

 丁寧に。

 それだけで分かる。

 どれだけの存在だったか。

 土がかけられる。

 少しずつ。

 ゆっくりと。

 完全に、覆われるまで。

 終わった。

 完全に。

 その瞬間。

 空気が変わった。

 一区切り。


 だが――


 同時に。

 現実が、押し寄せてくる。

 リーダーはいない。

 もう。

 誰が決める。

 誰が守る。

 誰が導く。

 その視線が、一斉に向く。

 俺へ。


(……来たな)


 逃げられない。

 もう。

 ここからは。

 全部、自分だ。

 俺は一歩、前に出る。

 全員を見る。

 恐怖。

 不安。

 疑い。

 色々な感情が混ざっている。

 当然だ。

 俺は外から来た存在。

 リーダーでも何でもなかった。


 それが――


 今は違う。

 違わなければならない。

 俺は、口を開く。


「……守る」


 短く。

 だが、はっきりと。


「……ここ」


 地面を指す。

 集落を。


「……全部」


 群れを。

 桜花が隣で言う。


「……いっしょに」


 その一言で、空気が変わる。

 柔らかくなる。

 恐怖が、少しだけほどける。

 ガルが前に出る。

 そして、俺の隣に立つ。

 槍を地面に突き立てる。

 強く。


「……ガル」


 それだけ。

 だが――

 宣言だった。

 従う。

 支える。

 その意思。

 周囲のゴブリンたちが、ざわつく。

 視線が揺れる。

 迷っている。

 だが――

 一匹が、前に出た。

 小さな個体。

 震えている。

 それでも。

 俺の前に来る。


 そして――


 頭を下げた。

 深く。

 次に、もう一匹。

 また一匹。

 少しずつ。

 広がっていく。

 完全ではない。

 だが――

 流れはできた。


(……まだ足りない)


 分かっている。

 信頼は、まだ弱い。

 だが。

 今はそれでいい。

 俺はゆっくりと頷いた。

 そして、言う。


「……明日」


 全員を見る。


「……動く」


 ただ守るだけじゃない。

 強くなる。

 変える。

 そのために。

 その時だった。

 視界に、再び表示が浮かぶ。


――群体認識:発動――

――簡易統率:使用可能――


(……来たな)


 力が。

 繋がる。

 俺を中心に。

 群れが見える。

 感じる。

 その状態で、俺は静かに思った。


(……やれる)


 怖くないわけじゃない。

 でも――

 やるしかない。

 やれる。

 ここにいる。

 桜花が。

 ガルが。

 そして――

 この群れが。

 俺は火を見つめた。

 揺れる炎。

 それはまるで。

 リーダーの意志のようだった。


(……見てろ)


 心の中で呟く。

 言葉にはしない。

 だが、確かに決めた。


 ここから先は――


 俺のやり方で。

 この群れを。

 導く。

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