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魔王進化譚  作者: 趣味に生きる


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22/26

崩れゆく均衡

 重い沈黙が、戦場を包んでいた。

 さっきまでの喧騒が嘘のように消えている。

 動いているのは――

 たった二つの影。

 リーダーと、オークのボス。

 互いに、睨み合っている。

 距離は、数歩。

 だが、その間に流れる空気は、張り詰めていた。


(……やばいな)


 本能が告げる。

 あいつは違う。

 今までのオークとは、明らかに。

 ボスが、ゆっくりと口を開いた。

 低く、濁った声。


「……グルァ」


 意味は分からない。

 だが――

 意思がある。

 理性がある。

 それだけで、十分に脅威だった。

 リーダーは、何も答えない。

 ただ、構える。

 重心を落とし、わずかに前へ。

 その瞬間だった。

 ボスが消えた。


(速い!)


 目で追えない。

 次に見えた時には――

 すでに間合いの内側。

 拳が振り下ろされる。

 だが。

 リーダーは動じない。

 最小限の動きでかわす。

 踏み込む。


 そして――


 打つ。

 腹部へ。

 鈍い音。

 ボスの体が、わずかに浮いた。


(入った……!)


 効いている。

 確かに。

 ボスが後退する。

 だが、すぐに体勢を立て直す。

 リーダーは追う。

 間を与えない。

 連撃。

 拳。

 肘。

 蹴り。

 すべてが正確。

 無駄がない。

 ボスが押される。

 明らかに。


(……すげぇ)


 やっぱり、リーダーは強い。

 この場で、一番。

 間違いなく。

 ゴブリンたちの間にも、ざわめきが広がる。

 勝てる。

 そう思い始めている。


 だが――


(……違う)


 俺は違和感を感じていた。

 ボスの動き。

 確かに押されている。


 だが――


 崩れていない。

 焦っていない。

 むしろ。


(……見てる?)


 リーダーの動き。

 タイミング。

 癖。

 全部を。

 その時。

 ボスの目が、わずかに動いた。

 横へ。

 ほんの一瞬。

 だが、それを俺は見逃さなかった。


(……誰を見た?)


 視線の先。

 追う。


 そして――


 気づいた。

 桜花。

 後方。

 非戦闘位置。

 守られているが、完全ではない。


(……まずい)


 直感が叫ぶ。

 あいつの狙いは――

 リーダーじゃない。

 その次だ。


「……桜花!」


 叫ぶ。

 桜花がこちらを見る。

 驚いた顔。

 だが、その瞬間だった。

 ボスが動いた。

 リーダーの拳を、あえて受ける。

 わずかに体をずらし、衝撃を流す。


 そして――


 踏み込む方向を変えた。

 一直線。

 桜花へ。


(やっぱりか……!)


 速い。

 間に合わない。

 距離がある。

 リーダーも一瞬遅れる。

 俺は走った。

 考えるより先に。

 体が動いていた。

 桜花の前へ。

 間に入る。


 そして――


 振り下ろされる拳。


(間に合え――!)


 衝撃が来る。

 その瞬間。

 視界の端に、影が入った。

 リーダー。

 割り込んでいた。

 俺の前に。

 桜花の前に。


 拳を――


 受けた。

 鈍い音。

 骨が軋む。

 体が揺れる。

 だが、倒れない。

 リーダーは、そのままボスの腕を掴んだ。

 止めた。

 完全に。


(……っ!?)


 あり得ない。

 あの一撃を、正面から受けて。

 それでも。

 止めた。

 リーダーが低く唸る。


「……退け」


 短い言葉。

 俺に。

 命令。

 俺は、歯を食いしばる。


 だが――


 従う。

 桜花を引く。

 後ろへ。

 安全圏へ。

 リーダーは、そのままボスを押し返した。

 距離を作る。

 そして、構え直す。

 だが。

 違和感。


(……動きが)


 わずかに、鈍い。

 さっきまでとは違う。

 ほんの少し。

 でも、確実に。

 ボスが、笑ったように見えた。

 低く。


「……グルァ」


 今度は、理解している。

 自分の一撃が通ったことを。

 リーダーは何も言わない。

 ただ、立つ。

 前に。

 その背中を見ながら、俺は思った。


(……やばい)

(このままじゃ)


 崩れる。

 均衡が。


 そして、それは――


 終わりの始まりだった。

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