牙を砕く者
森が、裂けた。
重い足音が地面を揺らす。
木々の間から現れたのは――
巨大な影。
ゴブリンより一回りも二回りも大きい体。
分厚い皮膚。
鈍く光る牙。
そして、濁った眼。
オーク。
それが一匹、二匹じゃない。
十を超える。
いや、それ以上。
(……多いな)
想定よりも。
だが、引くわけにはいかない。
ここを越えられれば、集落は終わる。
俺は前に出る。
ガルも隣に立つ。
「……ガル」
「……ガル」
短い返答。
だが、それで十分だ。
後ろには桜花。
そして群れ。
守る対象が、はっきりしている。
その時。
オークの一匹が咆哮した。
「ゴォォォッ!!」
突撃。
地面を踏みしめる音。
速い。
重い。
直線に突っ込んでくる。
「……来るぞ!」
叫ぶ。
まだ拙い言葉。
だが通じる。
ゴブリンたちが構える。
槍を突き出す。
だが――
止まらない。
弾かれる。
押し込まれる。
前衛が吹き飛ぶ。
「ギャッ!!」
悲鳴。
血が飛ぶ。
(……まずい!)
力が違う。
個体差じゃない。
種族差だ。
その時だった。
低い音。
空気が震える。
リーダーが動いた。
地面を蹴る。
一瞬で距離を詰める。
そして――
拳。
振り抜く。
オークの顔面に直撃。
鈍い音。
骨が砕ける。
巨体が浮いた。
そのまま、吹き飛ぶ。
木に叩きつけられ、動かなくなる。
(……っ!?)
一撃。
完全に。
沈めた。
空気が変わる。
ゴブリンたちの目が変わる。
恐怖が――
消える。
代わりに灯る。
闘志。
リーダーは止まらない。
二匹目。
三匹目。
踏み込む。
殴る。
蹴る。
掴む。
投げる。
無駄がない。
圧倒的。
オークが、逆に押されている。
(これが)
(リーダー)
今まで見てきた。
強いのは知っていた。
だが、これは違う。
次元が。
戦いながら、周囲も見ている。
指示も出す。
「……右!」
その一言で、ゴブリンが動く。
連携が生まれる。
戦線が整う。
(……すげぇな)
これが。
導く者。
その時、ガルが前に出た。
槍を構える。
俺も並ぶ。
「……行くぞ」
「……ガル」
踏み込む。
オークの側面へ。
正面はリーダー。
なら、俺たちは横から崩す。
突く。
避けられる。
だが――
リーダーの一撃で体勢が崩れる。
そこを、ガルが突く。
刺さる。
深く。
倒れる。
(……いける)
押している。
確実に。
だが――
違和感。
(……おかしい)
オークの動き。
散漫だ。
統率がない。
ただ突っ込んできているだけ。
まるで――
(……時間稼ぎ?)
その瞬間だった。
空気が、変わった。
重く。
圧がかかる。
オークたちが、わずかに引いた。
道を開けるように。
その奥から――
現れた。
さらに大きい影。
他とは違う。
筋肉の密度が違う。
皮膚が厚い。
目が――
知性を持っている。
(……こいつが)
ボス。
間違いない。
リーダーも止まる。
視線を向ける。
そして――
静かに構えた。
周囲が一瞬、止まる。
戦いの中心が変わる。
ボスと、リーダー。
二つの存在に。
俺は息を呑む。
(……次だ)
ここからが、本番。
本当の戦い。
そして――
何かが起きる。
そんな確信があった。




