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魔王進化譚  作者: 趣味に生きる


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20/22

静かすぎる森

 その違和感に、最初に気づいたのは俺だった。

 朝。

 いつもと同じ時間。

 火は燃えている。

 ゴブリンたちも動き出している。


 だが――


(……静かすぎる)


 森の音が、ない。

 鳥の声。

 虫の音。

 風のざわめき。

 どれもが、薄い。

 いや、違う。


 “消えている”。


 俺はゆっくり立ち上がった。

 火の向こう側。

 柵の外を見る。

 森は、いつもと変わらないように見える。

 だが、違う。

 何かがある。


(……来る)


 理由は分からない。

 でも、本能が警告している。

 今までのどの戦いよりも強く。

 その時だった。


「……どうした?」


 低い声。

 リーダーだ。

 俺の隣に立っていた。

 いつの間にか。

 気配を消していたのか。

 俺は少しだけ視線を向ける。


「……森、変だ」


 短く答える。

 リーダーは目を細める。

 そして、同じように森を見る。

 しばらくの沈黙。


 やがて――


「……ああ」


 短く、肯定した。

 分かっている。

 同じことを感じている。

 その時点で、確信に変わった。


(……やっぱりか)


 ただの違和感じゃない。

 危機だ。



 その日の狩りは中止になった。

 リーダーの判断だった。

 全員を集落内に留める。

 見張りを増やす。

 武器を持たせる。

 明らかに、普段とは違う対応。

 ざわつく。

 当然だ。

 だが、誰も逆らわない。

 リーダーの判断は絶対だ。

 俺も動く。

 ガルを呼ぶ。


「……ガル」


 ガルがすぐに来る。

 反応が早い。


「……見ろ」


 外を指す。

 警戒。

 周囲。

 ガルは頷く。


「……見る」


 短い言葉。

 だが十分。

 もう完全に理解している。

 そして、動く。

 見張りへ。

 他のゴブリンにも指示を出している。


(……いいな)


 もう任せられる。

 戦うだけじゃない。

 動かせる。

 桜花が近づいてくる。

 少しだけ不安そうな顔。


「……なにか、くる?」


 俺は少しだけ考えてから答える。


「……たぶん」


 正直に。

 桜花は唇を噛む。

 怖いのだろう。


 でも――


 逃げない。

 そのまま、俺の隣に立つ。


「……いっしょ」


 小さく言う。

 俺は頷いた。


(ああ)

(一緒だ)



 昼を過ぎた頃だった。

 見張りが叫ぶ。


「ギャッ!!」


 全員が反応する。

 俺もすぐに走る。

 柵の外。


 そこに――


 一匹のゴブリンが倒れていた。

 血まみれ。

 息はない。

 見たことのある個体だ。

 昨日、別方向に狩りに出たやつ。


(……やられたか)


 ただの死亡じゃない。

 体の状態が異常だ。

 潰されている。

 力で。

 圧倒的な。

 噛み跡もある。

 だが、ウルフじゃない。

 もっと大きい。

 もっと重い。


 そして――


 俺は地面を見る。

 足跡。

 大きい。

 深い。

 複数。


(……これ)


 見覚えがある。

 前世の記憶。

 そして、この世界の知識。

 繋がる。


(……オークか)


 その瞬間だった。

 リーダーが横に立つ。

 同じ足跡を見る。

 そして、低く呟いた。


「……オーク」


 はっきりと。

 言葉で。

 確信だった。

 周囲がざわつく。


「ギャ……?」

「ギャッ……!」


 恐怖。

 理解している個体もいる。

 格上だと。

 勝てない相手だと。

 リーダーは振り向く。

 全体を見る。

 そして――


「……戦う」


 短く言った。

 逃げない。

 ここを守る。

 その意思。

 全員に伝わる。

 空気が変わる。

 恐怖が、覚悟に変わる。

 その時。

 俺の視界に、表示が浮かんだ。


――警告――

――外敵接近――

――群体危機レベル:高――


(……来る)


 もうすぐ。

 確実に。

 俺は拳を握る。

 隣には桜花。

 前にはリーダー。

 そして、ガル。

 後ろには群れ。


(守る)


 今度は、自分だけじゃない。

 全部だ。

 この場所。

 この群れ。

 ここにいる全員を。

 森の奥から、低い音が響いた。

 重い足音。

 複数。

 ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。

 木々の間に、影が見えた。

 大きい。

 ゴブリンより、明らかに。


 そして――


 数も多い。

 俺は静かに呟いた。


「……来たな」


 戦いが始まる。

 今までとは違う。

 群れの命運をかけた――

 本当の戦いが。

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