背中を預けるということ
槍ゴブリンと組むことになった時、正直に言えば――
(最悪だな)
そう思った。
向こうも同じだろう。
露骨に不機嫌だった。
視線も合わせない。
だが、逃げない。
それだけは評価できる。
今回の狩りは、四匹。
俺。
槍ゴブリン。
そして、もう二匹。
小隊としては、少し多い。
つまり――
(難しい相手ってことだな)
森の奥へ進む。
空気が重い。
気配が濃い。
いやな予感しかしない。
桜花は今回もいない。
集落に残った。
少し不安そうだったが、頷いてくれた。
だから――
失敗はできない。
しばらく進んだ時だった。
足跡を見つけた。
大きい。
深い。
新しい。
(……いるな)
しかも一匹じゃない。
複数。
俺は手を上げて止まる。
「……まて」
後ろの三匹が止まる。
槍ゴブリンだけは、一瞬遅れた。
だが、止まる。
完全には従っていない。
でも、無視もしない。
(……まあいい)
俺は地面を指す。
足跡。
そして、周囲を指す。
複数。
囲まれる可能性。
簡単な説明。
言葉は足りない。
でも、理解はしているようだった。
槍ゴブリンが鼻を鳴らす。
少しだけ前に出る。
偵察のつもりか。
……無謀だな。
だが、止める言葉が足りない。
(……なら)
俺も動く。
横から回る。
別方向から。
結果的に、挟む形になる。
悪くない。
次の瞬間だった。
茂みが揺れた。
飛び出してきたのは――
三匹。
中型のフォレストウルフ。
レベルはそこそこ。
だが、数が問題だ。
(囲まれる……!)
すぐに動く。
「……まわる!」
叫ぶ。
完全じゃない。
でも通じる。
後ろの二匹が散る。
槍ゴブリンも――
動いた。
俺と逆側へ。
(……いい判断だ)
ウルフが一匹、槍ゴブリンへ向かう。
速い。
だが――
槍の間合い。
突く。
当たる。
浅い。
止まらない。
飛びかかる。
ギリギリでかわす。
だが、バランスを崩す。
(まずい)
俺は走る。
距離を詰める。
石を投げる。
当たる。
顔。
ウルフが怯む。
その隙に、槍ゴブリンが立て直す。
そして――
突く。
今度は深い。
喉。
倒れる。
一匹、撃破。
だが――
もう一匹が来る。
横から。
槍ゴブリンは気づいていない。
(間に合え!)
俺は体ごとぶつかった。
ウルフを弾く。
転がる。
牙が腕をかすめる。
「っ!」
痛み。
だが浅い。
槍ゴブリンが振り返る。
目が見開かれる。
一瞬の驚き。
俺を見る。
(今じゃない)
俺は指さす。
敵。
前。
戦え。
槍ゴブリンは一瞬迷った。
だが――
動いた。
踏み込む。
突く。
連続。
今までより速い。
迷いがない。
俺も横から回る。
二対一。
崩れる。
最後は同時だった。
俺が足を払う。
槍ゴブリンが突く。
倒れる。
残り一匹は、すでに他の二匹が押さえていた。
すぐに終わる。
静寂。
息が荒い。
だが――
全員、生きている。
(……いけたな)
俺は立ち上がる。
腕が少し痛むが、問題ない。
その時。
槍ゴブリンが近づいてきた。
俺を見る。
じっと。
さっきとは違う目。
敵意はない。
代わりにあるのは――
迷い。
そして、理解。
「……ギャ」
短く鳴く。
意味は分からない。
だが。
ありがとう、に近い何か。
そんな感じがした。
俺は軽く頷いた。
それで十分だった。
言葉はいらない。
今の戦いで分かった。
(こいつ、ちゃんとやれる)
素直じゃない。
でも、弱くない。
そして――
背中を預けられる。
少なくとも、戦いでは。
槍ゴブリンは少しだけ視線を逸らし、それからもう一度俺を見る。
そして、小さく頷いた。
初めてだった。
あいつが、俺に対して見せた“肯定”。
集落に戻ると、空気が少し違った。
結果を見ている。
四匹全員無事。
獲物あり。
しかも――
連携して。
リーダーがこちらを見る。
俺を見る。
槍ゴブリンを見る。
そして――
わずかに、口元を緩めた。
「……良い」
それだけ。
だが、十分だった。
桜花が駆け寄ってくる。
「……おかえり」
笑顔。
安心した顔。
俺は小さく頷く。
「……ただいま」
まだ不完全な言葉。
でも、確かに通じる。
桜花は槍ゴブリンの方を見る。
少しだけ、優しく。
槍ゴブリンは視線を逸らす。
照れているのか、警戒しているのか。
多分、両方だ。
俺はその様子を見て、思った。
(……次だな)
敵じゃなくなった。
仲間になり始めた。
なら――
その先
もっと強くする。
もっと使えるようにする。
そしていつか。
完全に。
俺の側に
そのための準備は、もう始まっている。
知らないうちに。
この群れの中で。
少しずつ。
確実に。




