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魔王進化譚  作者: 趣味に生きる


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16/20

牙を向ける者

 ――さらに、二ヶ月が過ぎた。

 火の扱いに、誰も迷わなくなった。

 狩りの形も変わった。

 前に出る者。

 回る者。

 石を投げる者。

 動きに“意図”が生まれていた。

 以前はただ突っ込むだけだった戦いが、今では明らかに違う。

 連携。

 役割。

 そして――勝率。

 確実に上がっていた。

 その中心にいたのは、間違いなく俺だった。


 俺は今、三匹ほどの小隊を任されていた。

 リーダーから直接ではない。

 だが、自然とそうなった。

 狩りに出る時、俺の周りに集まる個体が増えたのだ。

 言葉はまだ完全じゃない。

 それでも、簡単な指示なら通じる。


「……まわる」

「……まて」

「……いま」


 それだけで十分だった。

 ゴブリンたちは、理解する。

 動く。

 結果が出る。

 それが、さらに信頼を生む。


 だが――


 全員がそうではなかった。



「ギャッ!」


 鋭い声。

 振り向くと、一匹のゴブリンがこちらを睨んでいた。

 槍を持っている。

 細身だが、筋肉はしっかりしている。

 動きも悪くない。

 初期に見た個体。

 あからさまに敵意を向けてきていたやつだ。


(……こいつか)


 こいつは、最初から気に入らなかった。

 俺が。

 外から来た存在で。

 きづけば上位に近い立場になっている。

 納得できない。

 そういう目だった。

 槍ゴブリンは一歩前に出る。

 俺を指す。


「ギャ、ギャ!」


 何か言っている。

 意味は分からない。

 だが、感情は分かる。

 挑発。

 否定。

 拒絶。


(……面倒だな)


 無視することもできる。

 だが、それでは終わらない。

 こういう個体は、必ずどこかでぶつかる。


 なら――


 今、やるべきか。

 周囲のゴブリンたちがざわつく。

 距離を取る。

 円ができる。

 自然と。

 それが何を意味するかは、明白だった。


(……決闘か)


 リーダーは止めない。

 少し離れた場所から見ている。

 介入しない。


 つまり――


 許可されている。

 俺はゆっくり前に出た。

 槍ゴブリンと向かい合う。

 距離。

 数歩。

 近い。

 槍の間合い。

 不利だ。

 明らかに。


(どうする)


 考える。

 相手は突いてくる。

 速さもある。


 だが――


 単調だ。

 今まで見てきた。

 動きは読める。

 槍ゴブリンが構える。

 低く。

 鋭く。


 そして――


 突き出してきた。

 速い。

 だが。


(見える)


 俺は一歩、横にずれる。

 ギリギリでかわす。

 土が削れる。

 すぐに引いて、もう一度突き。

 連続。

 速い。

 だが直線的。

 俺は下がりながら、間合いを測る。

 焦るな。

 近づけば死ぬ。


 なら――


 崩す。

 タイミングを。

 三度目の突き。

 俺はあえて、少し遅れて動いた。

 槍が肩をかすめる。

 痛み。

 だが――

 その瞬間、距離が近づいた。


(今だ)


 俺は槍を掴んだ。

 軸をずらす。

 引く。

 槍ゴブリンの体勢が崩れる。

 そのまま踏み込む。

 体をぶつける。

 倒す。

 地面に叩きつける。

 砂が舞う。

 すぐに起き上がろうとする。

 だが、その前に――

 俺は喉元に手を当てた。

 止まる。

 完全に。

 静寂。

 槍ゴブリンの目が見開かれている。

 呼吸が荒い。

 悔しさ。

 怒り。

 そして――

 ほんのわずかな恐怖。

 俺は、そのまま動かなかった。

 殺せる。

 でも、やらない。

 必要ない。

 ゆっくりと手を離す。

 後ろに下がる。

 槍ゴブリンはその場に座り込んだまま、俺を睨んでいる。

 だが――

 さっきとは違う目だった。


(……変わったな)

 敵意だけじゃない。

 理解し始めている。

 力の差を。

 やり方の違いを。

 その時だった。

 後ろから足音。

 リーダーが前に出る。

 倒れている槍ゴブリンを見る。

 そして、俺を見る。

 少しだけ間を置いて――

 頷いた。


「……良い」


 短い評価。

 だが、重い。

 周囲の空気が変わる。

 完全に。

 認められた。

 力で。

 結果で。

 そして。

 “殺さなかった”ことで。

 リーダーは槍ゴブリンの方を見る。

 低く鳴く。


「……立て」


 槍ゴブリンはゆっくりと立ち上がる。

 まだ悔しそうだ。

 だが、もう飛びかかってはこない。

 リーダーはそのまま言った。


「見ろ」


 俺を指す。


「学べ」


 静かに。

 だが、強く。

 命令だった。

 槍ゴブリンが、ほんの一瞬だけ迷う。


 そして――


 小さく、頷いた。

 悔しさを飲み込むように。

 その様子を見て、俺は思った。


(……こいつ)

(使えるな)


 強い。

 素直じゃないが、折れてはいない。

 そして、ちゃんと理解する頭がある。

 今は敵。


 でも――


 いずれ。

 変わる。

 その可能性を感じた。

 桜花が隣に来る。


「……だいじょうぶ?」


 心配そうに、俺の肩を見る。

 さっきの傷だ。

 俺は軽く頷いた。


「だいじょうぶ」


 桜花は安心したように息を吐く。

 そして、ちらっと槍ゴブリンの方を見る。

 少しだけ、優しい目で。


(……こいつも、変えるかもな)


 桜花は、繋ぐ。

 俺も。

 ゴブリンも。

 関係も。

 俺は空を見上げた。

 煙が上がっている。

 集落の上に。


(……揃ってきたな)


 力。

 信頼。

 仲間。

 そして――

 従う可能性のある個体。

 まだ先だ。

 だが、確実に近づいている。

 群れの中心へ。

 そして、その先へ。

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