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 ピルー、ピルルピッ


 今日も今日とてエニの祈りで川辺に現れた僕の肩に使い鳥(瑠璃千鳥)の一羽が止まり、僕に耳打ちするかのように鳴いた。


「鳥さんは何て言ってるの?」


「『今日も仕事は済ませたのか?』ってね。」


 僕の眷属である瑠璃千鳥は使い鳥であるが、その実態は補佐役のようなものでもある。どちらかというとお目付け役と言った方が近いかもしれない。


 その使い鳥(お目付け役)たちから小言を貰う前に、今日は一通りの仕事を終わらせてきている。


 管轄の河川全てとその周囲が平穏かどうかや何の滞りも無く水が流れているか。僕で調べきれない事は使い鳥(瑠璃千鳥)たちに調査を頼むのだが最近は頼むほどの用事も無く、僕が司る河川の中でも使い鳥(瑠璃千鳥)たちたちお気に入りの場所(此処)で暮らしていたところ、エニと出会ったという訳だ。


「お仕事?」


「河川に滞りなく水が流れ、まつわるすべてのものに何事も無いかを見守っているのさ。」


「ふうん…?」


 分かったような分からないような、今一つ呑み込めていない顔で首をかしげるエニに、僕は少し説明をしようと更に話しをつづけた。


「水の管理をするだけではなく、関わるもの…例えば川の流れに乗って流れ着いたものや川の流れによって生み出されたもの、勿論川の流れを利用して暮らすものも見守っているんだ。そしてそれは使い鳥(瑠璃千鳥)たちの巣材の小石や小枝、そしてエニが良く拾っていた綺麗な小石もそうなんだ。これらはこの川が運んできたものだから、僕の神としての権限を及ぼせるんだ。」


 エニは少し驚いた顔で胸元のお守りを手繰りだして、中から石を手のひらの上に取り出し始めた。


「その石たちは僕が力を籠める前でも相当の力がある石だよ。黄味がかった色の石は人間の間では高貴な黄色なんて言われているのを聞いたし、そのキラキラと反射する透明の石は良く見ると二種類ある(違う)んだ。」


「全部同じ透明の石に見えるのに違うの?」


 エニの手のひらの上でキラキラ輝いている石たちの中でも、特に透明に輝く石はどれも同じ仲間であるかように思えた。注意深く見たとしても見分けられる人間は少ないだろう。


「ああ、どちらも同じように輝いていて美しいのに片方は偽物の石なんて言われてる。もう片方は真実の石。」


「偽物の石と真実の石…」


 エニはお守り袋の中の石たちを手のひらの上に広げて興味深く見つめ始めたので、僕はエニの眼差しの先にあるキラキラと光る透明の石を指さしながら話を続けた。


「そう、この美しい輝きはそれぞれ偽物を見抜く力と真実を見抜く力を持っていると言われてる。どちらも人間たちの間では好んで取引をされていて、どちらも悪いことから身を遠ざける神秘の力をもつ貴重な石だと珍重されていて、お守りとして身につけているみたいなんだ。」


「ふうん、じゃあこれは本当にお守りの石なんだ。」


 手のひらの石を感心したようにじっとみながら返事をするエニの様子を見て、僕は少し考え込んだ。そうだ、これなら少ない力でエニの為になる事が出来る!


 良いことを思いついた僕は、エニから石をお守り袋ごと渡してくれるように促した。


「僕が居るし、エニがそんな神秘の力(まじない)を必要とすることなんて無いだろうけど、その石たちの持つ力がより強く引き出されるように、少しだけど僕の力を込めておくよ。」


「うん。」


 僕はエニから手のひらの石とお守り袋を受け取ると中身の石を全部取り出して、エニには聞き取れない細やかな言葉を使って石たちの力をより強く引き出すまじないを唱えた。


 無いものを生み出すのではなく有るものを伸ばすだけだから、群体神の一柱でしかない僕でも然程大きな神力を使わずに行えるのだ。


 まじないを唱え始めると同時に石たちがキラキラと輝き始める。僕が言葉を唱え終えると同時に輝きは落ち着いたが、ほんのわずかだけ輝きが増したその石たちをお守り袋に戻すとエニの首にかけ直した。


 ただ、あまり目立ってもいけないだろうから、人間には気づかれ難いようにお守り袋には保護のまじないをかけた。


「はい、石の持つ力が増すようにしたよ。これでこの石たちも力をより強く発揮できるだろう。それとあまり目立ち過ぎても悪いものを引き寄せてしまうから、目立たないように保護のまじないもしておいたよ。」


「すごい、そんなこともできるの?」


「ああ、さっきも言ったようにこの川を辿って流れ着いた石だから、僕の力も及ばせやすいんだよ。」


「へぇー、そうなんだ。」


「このお守りを持っていれば、この川から離れたとしても悪い事を遠ざけられるよ。まあ、そんなことになる前に僕に祈り()が届いてすぐに駆け付ける事が出来るけどね。」


 もし、お守りを通してエニの祈りが僕に届かない事があるとすれば、僕よりも力の強い神がエニに加護を与えた時くらいだろう。


 けれど普通なら、既に他の神との交流がある人間に、勝手に加護を押し付けたりはしない。たとえそれが自分より位の低い神との交流だったとしてもだ。


 勿論、人間の方から別の神に加護を願ったのなら話は別だけど。


 守り袋のおまじないは、すでにエニが僕という神と交流がある証だ。そんな証を持つエニに対して勝手に…エニが望まないのに加護やまじないを与えるような事は、普通ならどんなに高位の神であってもしない。


 だから僕は安心させようとエニの頭を軽く撫でた。


「あ、ありがとう…、ヴィスル。」


 頭を撫でられて恥ずかしそうにほほを赤らめながら、エニは僕の上着の裾をぎゅっと掴んだ。


「どういたしまして。」


 エニは僕の上着の裾を掴んだまま、何か言いたげに僕の顔を見上げたり俯いたりと、もじもじしている。


 僕はもじもじしているエニと共に船着き小屋へ向かうと昨日と同じく小屋の修繕作業にいそしんだ。


 体をこんな風に動かす事はずいぶんと久しぶりだから、慣れない作業(運動)に悪戦苦闘したが、エニも率先して手伝ってくれたおかげで古びた小屋もそれなりに綺麗になってきた。


 そうして今日もエニと過ごす昼間が終わりを告げる頃合いになってきた。


「エニ、そろそろ日が暮れる、僕はそろそろ戻らなくては。」


「…うん。えっとあの、明日もちゃんと会える?」


「ああ、勿論だよ、エニが呼んでくれるならね。」


 離れがたい素振りをするエニを宥めるように励ますように答えると、エニを小屋に残し僕は戻ることにした。




 エニが僕を追いかけてきていないことを確認してから、本来いるべき場所に戻ろうとした時、使い鳥(瑠璃千鳥)たちがやって来た。


 ピルルピ、ピルルー


「エニと僕たちとでは流れる時間が違う。両親ともう会えないだろうエニが人間の間で平穏に過ごせるようになるまで手伝う位が、僕に出来る精いっぱいだろう。」


 僕は肩に乗ってきた使い鳥(瑠璃千鳥)の問いにはそう答えるしかなかった。


 曲がりなりにも神である自分と人間であるエニとではお互いの流れる時間が違う、あまりに深入りすることはエニにとっては悪影響だろうって。


 けれどエニの現状のまま捨て置くことも出来る訳がなかった。それならエニが独り立ちできるまで、せめて村に頼らなくても新しい場所へ旅立てる程度には面倒を見ようとは思っている。


 僕の見た目よりも幼い子供が、たった一人でこんなところ(打ち捨てられた小屋)でずっと暮らしていくなんてどれほど無謀な事なのかは、人間の暮らしなどずいぶん昔の─そう、この朽ちかけた船着き小屋とその桟橋が、大勢の人間で賑わっていた頃位までの─記憶しかないけれど、それでも並外れて難しいことなのは判るつもりだ。


 ピルッピー


「まあ、お前たちの内1-2羽くらいなら、此処を離れる(僕から巣立った)エニに付いていっても良いが…。」


 僕はしばらくの間エニのいる小屋を見守りながら使い鳥(瑠璃千鳥)たちとそんな会話をしていた。

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