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第8話:石化するメドゥーサと、立ち読み禁止の雑誌コーナー

「て、店長ぉぉぉ!! た、大変ですぅぅ!!」


深夜3時。 バックヤードで廃棄弁当の仕分けをしていたタナカの元へ、リリスが涙目で飛び込んできた。


「どうした? またドワーフが壁を増築したか?」 「違います! 雑誌コーナーです! 通路が……オブジェで塞がれてます!」


「オブジェ?」


タナカは眉をひそめ、店内の雑誌コーナーへと向かった。 そこには、異様な光景が広がっていた。


通路の真ん中に、リアルなオークやゴブリンの**「石像」**が数体、転がっているのだ。 彼らは皆、恐怖に歪んだ顔をしており、手には『おにぎり』や『週刊少年マカイ』が握られたままである。


そして、その中心で、一人の女性が優雅にファッション誌を立ち読みしていた。 髪の毛の一本一本が**「生きた蛇」**になっている美女。 メドゥーサだ。


彼女は雑誌を読むために、愛用のサングラスを頭の上にずらしていた。


「……なるほどな」


タナカは状況を理解した。 彼女は悪気があって石化させたわけではない。 ただ、雑誌のページをめくる合間にふと顔を上げ、**「視界に入った客」**を無差別に石に変えてしまったのだ。


「お客様ー」


タナカは台車を押しながら近づいた。


「困ります。通路で能力スキル使うのやめてもらえます?」


「あら?」 メドゥーサが顔を上げた。 その魔性の瞳が、タナカを直視する。


カッ! (石化の魔力が発動する音)


本来なら、彼女と目が合った生物は、瞬時に石へと変わるはずだった。


しかし。


「……あと、立ち読みもご遠慮ください。買うならレジへどうぞ」


タナカは平然としていた。 石化する気配など微塵もない。


「えっ!?」 メドゥーサが驚愕して目を丸くした。


「な、なんで!? 私、今あなたのことガッツリ見たわよ!? 私に見られたら、どんな生物も石になるはずなのに!」


「あー、僕、ブルーライトカット眼鏡してるんで」


「関係あるのそれ!?」


「あと、連勤続きで**『目が死んでる』**ってよく言われるんで。生物として認識されなかったんじゃないっすかね」


タナカは気だるげに眼鏡の位置を直した。 実際は、魔王の威圧すら通じない彼の精神構造が、石化の呪いすら「業務の邪魔」として無意識に弾いたのかもしれない。


「そ、そう……。ごめんなさいね、つい今月の『魔界セレブ』の占いが気になっちゃって……」


メドゥーサはバツが悪そうにサングラスをかけ直した。 髪の毛の蛇たちが「シャーシャー!」と騒いでいるが、彼女はそれを手で押さえつけた。


「じゃあ、この雑誌買うわ。お会計して」


メドゥーサはレジに向かおうとした。 しかし、タナカが通せんぼをするように立ちはだかった。


「あ、お客様。帰る前に**『こいつら』**どうにかしてもらえます?」


タナカは顎で、通路に転がるオークの石像たちをしゃくった。


「あら。放っておけば、100年くらいで元に戻るわよ?」 メドゥーサは悪びれもせず言った。


「困ります」 タナカの声が低くなった。


「彼らの手元、よく見てください」


「手元?」 メドゥーサがサングラス越しに見る。 石化したオークの手には、未精算の『ツナマヨおにぎり』が握りしめられている。


「彼ら、商品を手に持ったままなんですよ」


「……はぁ。それが?」


「このまま100年も石になられたら、代金の回収ができないでしょう。当店の『万引きロス』扱いになるんですよ」


タナカは電卓を取り出し、カチャカチャと叩き始めた。


「おにぎり120円、週刊誌300円、あとそっちのゴブリンが持ってるポテチ150円……。これ、全部あなたのせいで売上が止まってる状態なんで」


「えっ、そっちの心配!?」 メドゥーサは呆れた。人命よりも、数百円の商品の行方を心配している。


「今すぐ元に戻してください。無理なら、彼らが持ってる商品の代金も、あなたが払ってくださいね」


タナカは真顔で請求書を突きつけた。 その目は、メドゥーサの石化能力よりも冷たく、恐ろしかった。


「わ、わかったわよ……! 直せばいいんでしょ、直せば!」


メドゥーサはしぶしぶ石像たちに近づくと、サングラスを少しずらし、解除の魔眼を飛ばした。


パァァァン!


石化が解け、オークたちがガバッと息を吹き返した。


「ハッ!? お、俺は一体……?」 「急に目の前が真っ暗に……」


混乱する客たち。 しかし、彼らが状況を把握するより早く、タナカの声が響いた。


「はーい、お目覚めですねー。手元の商品、お会計お願いしまーす」


タナカはオークの背中を押し、流れるようにレジへと誘導した。


「えっ、あ、はい……」


まだ意識が朦朧としているオークたちは、言われるがままに財布を開き、おにぎり代を支払った。


「ありがとうございましたー」


レジ打ちを終えたタナカは、最後にメドゥーサに向き直った。


「お客様も。雑誌代600円になります」 「……はい」


メドゥーサは小さくなって支払いを済ませた。 どんな怪物も、この店員の「業務遂行能力」の前では形無しだ。


「リリス、通路の掃除しといて。石の粉が落ちてるから」 「はーい……(最強すぎる……)」


ダンジョン地下99階。 ここでは石化の呪いよりも、未精算の商品ロスの方が重大な罪なのである。

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