第56話:地獄の年賀状作成と、死神による「殺害予告」
ダンジョンマートのバックヤードは、殺伐とした空気に包まれていた。
「……忘れていた」
タナカがデスクに突っ伏して呻いた。
珍しく焦っている。
「て、店長? 何かミスでも?」
リリスが恐る恐る尋ねる。
「『年賀状』だ」
「あー! やってないですね!」
「取引先の魔王軍幹部、地域のギルドマスター、大口顧客のドラゴン……。彼らに新年の挨拶を送らねば、来期の契約に関わる」
タナカは顔を上げた。
「元旦に届けるには、今日の午前中が集荷のタイムリミットだ。……やるぞ。総員、年賀状作成シフトに入れ!」
【工程1:筆耕(メッセージ作成)】
「いいか、今年の年賀状は『ボイス・ストーン』を使う」
タナカは小石の山を指差した。
これに声を吹き込み、相手に投げつけると、着弾と同時にメッセージが再生される仕組みだ。
「手書きは間に合わん。録音で済ませる。……グリム、お前は声が良い。VIP客へのメッセージを吹き込め」
『……分かった。言霊を操るのは得意分野だ』
グリムは咳払いをして、石を手に取った。
相手は、上得意客の『吸血鬼の伯爵』だ。
『……録音開始』
グリムの目が赤く光り、地獄の底から響くような重低音で語り始めた。
『……時は来た……。
新たな年が巡り……貴様の寿命もまた一年、尽きる刻ときへと近づいた……。
首を洗って待っていろ……。
我が鎌が貴様の喉元に届く日を、心より待ちわびている……』
ピッ♪
「……」
「……」
店内が静まり返る。
「……グリムさん?」
リリスが震え声で突っ込む。
「それ、新年の挨拶っていうか、『犯行予告』ですよね?」
『む? 丁寧な言葉を選んだつもりだが?』
「ニュアンスが重すぎるんですよ! 『首を洗って待っていろ』とか絶対ダメでしょ!」
「まあいい」
タナカは許可した。
「吸血鬼なら『死』のジョークは通じるだろう。次だ、時間がない」
【工程2:宛名書き】
次は、石に宛先を刻む作業だ。
「リリス、お前は筆が早いな。この100個の石に、魔法インクで宛名を書け」
「はいはい! 任せてください!」
リリスはサラサラと筆を走らせる。
しかし、急ぐあまり字が崩壊していた。
『宛先:西の森のオークの集落の長』
↓
『宛先:西の森のオークの肉』
「リリス! 『長』が『肉』になってるぞ! 喧嘩売ってんのか!」
「ひぃッ! 急いでてつい本音が!」
『宛先:勇者御一行様』
↓
『宛先:勇者ご臨終様』
「縁起が悪すぎる! お前ら全員、日本語能力どうなってんだ!」
【工程3:投函】
午前11時50分。
なんとか全ての石への録音と宛名書きが終わった。
「あと10分だ! 普通の郵便では間に合わん!」
タナカは店の裏口を開けた。
そこには、巨大な『迫撃砲』が設置されていた。
「て、店長? これは?」
「『超特急・投函システム』だ」
タナカは年賀状を砲身に詰め込んだ。
「宛先の方角に向けて発射する。着弾誤差はプラスマイナス50メートル。……届くか届かないかは、相手の『運』次第だ」
「雑すぎる!!」
「装填完了! 目標、上層のギルドエリア! 仰角45度!」
タナカがトリガーに手をかける。
「撃てぇぇぇ!!」
ドォォォォン!!!
轟音と共に、数百個の『ボイス・ストーン』が空の彼方へ射出された。
ヒュルルルル……という風切り音を残し、新年の挨拶たちは弾道ミサイルのように飛んでいった。
【着弾地点:上層・勇者のキャンプ】
その頃。
勇者一行は、ダンジョン内で年越しそばの準備をしていた。
「ふぅ、今年も生き延びたな」
「来年こそは魔王を倒そうな」
穏やかな大晦日の昼下がり。
突然、空から黒い物体が降ってきた。
ドスッ!!
勇者の足元に、石がめり込む。
「うおっ!? 敵襲か!?」
勇者が剣を抜く。
その時、石から再生音声が流れた。
『……時は来た……』
「!?」
『……首を洗って待っていろ……貴様の喉元に届く日を……待ちわびている……』
勇者の顔色が真っ青になった。
「こ、これは……魔王軍からの『宣戦布告』だ!!」
「なんて禍々しい殺気だ……! 元旦に総攻撃を仕掛けてくる気か!?」
「くそっ! 休んでる場合じゃない! 迎撃準備だ!!」
勇者たちはそばをひっくり返し、臨戦態勢に入った。
【現在地:ダンジョンマート】
「ふぅ……。全部撃ち尽くしたな」
正午。
タナカは空になった迫撃砲を撫でて、満足げに汗を拭った。
「これで義理は果たした。元旦には、顧客たちの元へ年賀状が届くことだろう」
「……店長」
リリスが遠くの空を見上げて呟く。
「なんか遠くの方で、爆発音とか、勇者の叫び声とか聞こえるんですけど……」
「気のせいだ。……さて、次は『門松』の設置だ」
ダンジョンマートから放たれた年賀状は、受け取った者たちを恐怖のどん底に叩き落とし、平和な正月を「厳戒態勢」へと変貌させた。
ダンジョン地下99階。ここでは、「新年の挨拶」は「宣戦布告」と同義である。
【あとがき:返信】
リリス「店長! 大変です! ギルドマスターから返信が来ました!」
タナカ「ほう。早いな。なんて書いてある?」
リリス「手紙じゃなくて……これです」
リリスが指差した先には、店の壁に突き刺さった『巨大な槍』があった。
槍には手紙が結び付けられている。
『謹賀新年。貴殿の熱きメッセージ、確かに受け取った。これがお返しだ』
タナカ「……なるほど。豪快な年賀状だ」
リリス「殺し合いですよこれ!!」




