第52話:即時撤去と、在庫処分の「闇鍋福袋」
12月26日、午前0時01分。
日付が変わった瞬間、タナカが動いた。
「よし、総員配置につけ。『聖夜抹殺作戦』を開始する」
「イエッサー!」
号令と共に、リリスとグリムが一斉に動き出した。
バリバリバリッ!!
店内の壁に貼られた「メリークリスマス」のPOPが、無慈悲に剥がされる。
キラキラ輝くモールやツリーが、ゴミ袋へと次々に投入されていく。
「ちょ、店長! もう少し余韻に浸りましょうよぉ!」
「甘えるなリリス。日本の小売業に余韻などない」
タナカは脚立に登り、天井の飾りをちぎり投げながら言った。
「12月25日が終わった瞬間、クリスマスは『過去の遺物』だ。今この瞬間から、世界は『迎春』モードに切り替わったんだ」
タナカの指示は神速だった。
クリスマスの赤と緑の装飾が消え、代わりに「謹賀新年」のポスターと、紅白の「しめ縄」が飾られていく。
BGMも『ジングルベル』から、琴と尺八が奏でる『春の海』に切り替わった。
わずか30分。
ダンジョンマートは、厳かな正月の空気に包まれていた。
「ふぅ……完了だ」
タナカは額の汗を拭い、バックヤードを指差した。
「さて、ここからが本番だ。……あの『負の遺産』を処理するぞ」
バックヤードには、山ができていた。
• 売れ残ったクリスマスケーキ:50個
• 冷え切ったローストチキン:30本
• 「聖夜粉砕セット(藁人形)」の在庫:100体
• シャンメリー:200本
「……すごい量ですね。これ、全部廃棄ですか?」
リリスが絶望的な顔をする。
「馬鹿を言え。廃棄コストだけで赤字になる」
タナカは不敵に笑った。
「これらをすべて、定価……いや、付加価値をつけて売りさばく」
「えっ? クリスマス過ぎたケーキなんて誰が買うんですか?」
「単品では売れん。だが、『セット』なら売れる」
タナカは、赤い不透明なビニール袋を大量に取り出した。
袋には金色の文字で大きくこう書かれている。
【年末ジャンボ・ダンジョン福袋】
【中身は開けてのお楽しみ! 総額5,000円相当が入って 3,000円!】
「ふ、福袋……!?」
「そうだ。中身が見えなければ、客は勝手に『良いもの』が入っていると期待する。これを『情報の非対称性を利用したガチャ商法』と呼ぶ」
タナカは手際よく商品を詰め込み始めた。
「まず、メインの『ホールケーキ』を入れる。消費期限は今日までだ、ギリギリセーフ」
「次に、『ローストチキン』。冷えて硬いが、温めれば食える」
「そして隙間埋めに『藁人形』と『シャンメリー』をねじ込む」
「最後に、売れ残りの『おでんの汁(ビニール詰め)』を入れて重さを出す」
「……ゴミ処理じゃないですか!!」
リリスが叫ぶ。「ケーキと藁人形がセットの福袋なんて、誰が喜ぶんですか!」
「安心しろ。ポップの書き方一つで、ゴミは宝に変わる」
タナカは店頭のワゴンに福袋を山積みにし、筆ペンで力強くこう書いた。
『勇者も愛用!? ダンジョン・サバイバル食料セット』
『高カロリー(ケーキ)とタンパク質、さらに呪いの触媒(人形)付き!』
「……詐欺師の才能がありますね、店長」
朝7時。
24時間営業に戻った店内に、早起きの魔物たちがやってきた。
「おっ、なんだこれ? 福袋?」
「『サバイバルセット』だってよ! お得じゃん!」
魔物たちは「限定」「福袋」「お得」という言葉に弱い。
中身が分からないワクワク感に刺激され、次々と袋を手に取っていく。
「俺、これ買うわ! 3,000円なら安い!」
「私も! 重いから中身がいっぱい入ってそう!」
飛ぶように売れていく。
リリスは罪悪感で胃を痛めながらレジを打った。
「あ、ありがとうございますぅ……(開けたらガッカリするんだろうなぁ……)」
数時間後。
店内で休憩していたオークたちが、購入した福袋を開封していた。
「よし、開封の儀だ! ……おりゃっ!」
ビリッ。
袋から出てきたのは、潰れたケーキと、冷たいチキンと、藁人形。
「……なんだこれ?」
オークたちが顔を見合わせる。
リリスが「ひぃッ」と身構えた。
しかし。
「おおっ! すげぇ! 『甘味の塊』が入ってるぞ!」
オークが歓声を上げた。
「ダンジョン探索で疲れた体に、この大量のクリームとスポンジ……最高のエネルギー補給だ!」
「こっちのチキンも、カチカチに凍ってるから『棍棒』として使えるぞ! 殴ってよし、食ってよしだ!」
「この藁人形も、焚き火の着火剤に最適じゃねぇか! 捨てるところがねぇ!」
「「「店長、ありがとう!! 最高の商品だ!!」」」
魔物たちは大喜びでケーキを手掴みで貪り、チキンを振り回して去っていった。
「……えぇぇ……?」
リリスが呆然とする。
「言っただろう」
タナカは空になったワゴンを見て、涼しい顔でコーヒーを啜った。
「価値観は相対的なものだ。我々にとっての『廃棄寸前のゴミ』も、過酷なダンジョンにおいては『貴重な資源』に変わる」
タナカは電卓を叩いた。
廃棄ロスおよそ30万円分が、すべて現金に化けた。しかも感謝されながら。
「さて、在庫も片付いた。……リリス、次は『鏡餅』の発注だ」
「はい……もう何も言いません。ついていきます、錬金術師様……」
12月26日。
ダンジョンマートは、クリスマスの残骸をすべて「福袋」という名のブラックボックスに隠蔽し、新たな年への準備を完璧に整えたのだった。
ダンジョン地下99階。ここでは、売れ残りの在庫すらも、言葉巧みに「冒険の必需品」へと変貌する。
【あとがき:グリムの福袋】
リリス「ねえグリムさん、さっき一個、福袋買ってましたよね?」
グリム『うむ。我も「運試し」をしたくてな』
リリス「中身、どうでした? 」
グリム『……大当たりだった』
リリス「えっ! 何が入ってたんですか!?」
グリム『「タナカのブロマイド(隠し撮り)」が入っていた』
リリス「誰が入れたんですかそんなゴミ!?」




