第46話:厳格すぎるゴミ分別と、勇者の「聖剣廃棄問題」
「おい店長! いい加減にしろよ!」
早朝のダンジョンマート裏口。
ゴミ収集業者のトロールが、ゴミ袋を地面に叩きつけて激怒していた。
「また『燃えるゴミ』の中に『ファイアスライム』が混ざってたぞ! 回収車がボヤ騒ぎだ! 分別もしねぇ店のゴミなんか、もう持ってかねぇからな!」
トロールは唾を吐き捨て、巨大な荷車を引いて去っていった。
残されたのは、山積みになったゴミ袋と、漂い始めた異臭。
「……困りましたね、店長。このままだと店がゴミ屋敷です」
リリスが鼻をつまんで言った。
ゴミ袋の中身は、冒険者たちが捨てていった「ポーションの空き瓶」「折れた武器」「魔物の死骸」など、カオスそのものだ。
「……チッ。民度が低すぎる」
タナカは冷徹にゴミの山を見下ろした。
「業者が持って行かないなら、出させるわけにはいかん。……リリス、店頭のゴミ箱を封鎖しろ」
「えっ? じゃあお客様はどこに捨てれば?」
「俺が直接チェックする。『有人監視・分別ステーション』を設置だ」
数時間後。
店の前には、長机とパイプ椅子に座り、腕組みをするタナカの姿があった。
背後には【ゴミ捨て場:審査制】という張り紙。
そこへ、ダンジョン攻略を終えた勇者パーティがやってきた。
彼らは激戦の後で、ボロボロの装備や戦利品の残骸を抱えている。
「ふぅ、やっと休憩だ。……おい、このゴミ捨ててこい」
勇者が戦士に合図し、戦士がゴミ袋をタナカの前のゴミ箱に放り込もうとした。
「待て」
タナカの声が、ダンジョンの冷気よりも低く響いた。
「え? なんだよ店員」
「中身を確認する。開けろ」
タナカは戦士の手からゴミ袋をひったくり、逆さまにして中身をブチまけた。
ガシャン! ゴトッ! べちゃっ!
出てきたのは、折れた剣、飲み干したポーション瓶、そして討伐したドラゴンの生首。
「なんだ、この惨状は」
タナカは、まるで殺人現場を見るような目で勇者たちを睨んだ。
「……何って、ゴミだけど?」
勇者が怪訝そうに答える。
タナカはゴム手袋をはめ、一つずつ指差して詰問を開始した。
「まず、この剣」
タナカが拾い上げたのは、刀身が半ばから砕けた、かつての聖剣だ。
「な、なんだよ。それはもう折れて使えないから……」
「何ゴミに捨てるつもりだった?」
「え? 燃えるゴミ……?」
「馬鹿野郎」
タナカは即座に切り捨てた。
「素材はなんだ」
「そ、素材? ……伝説の金属、オリハルコンだが……」
「金属製だな。なら『不燃ごみ』だ。いや、待て」
タナカは懐からメジャーを取り出し、折れた剣の長さを測った。
「……35センチあるな。30センチ以上の金属塊は『粗大ゴミ』扱いだ」
「そ、粗大ゴミ……!?」
「コンビニでは回収できん。役所に行って、『粗大ゴミ処理券(500円)』を買ってから出直せ」
勇者が絶句した。
かつて世界を救う光を放った聖剣が、サイズオーバーで回収拒否されたのだ。
「次。このポーションの瓶」
タナカは空き瓶を手に取った。底にはドロドロした紫色の液体が残っている。
「これは……ガラスだから、資源ゴミ……だろ?」
勇者が恐る恐る答える。
「甘い。中身を洗ったか?」
「は? いや、洗ってないけど……」
「中身が残っている瓶は資源ゴミには出せん。それに、キャップとラベルを分別していない」
タナカは鬼の形相で瓶を突き返した。
「トイレの手洗い場で中身を濯げ。キャップは『プラごみ』、ラベルは剥がして『燃えるゴミ』、瓶は『資源ゴミ』だ。『3分別』してから持ってこい」
「め、めんどくせぇぇぇ!!」
戦士が叫ぶ。「魔王と戦うより頭使うぞこれ!!」
「最後。このドラゴンの生首」
タナカは血の滴る生首を無表情で見下ろした。
「これは……生ゴミでいいんだろ!?」
勇者が必死に食い下がる。
「分類上はな。だが」
タナカは生首を持ち上げ、振った。
ボタボタと血が滴り落ちる。
「水切りが甘い」
「ひぃっ!?」
「水分を含んだ生ゴミは焼却炉の温度を下げる。燃焼効率が悪くなるんだよ。完全に血を抜いて、新聞紙で包んでから出せ」
「そんな主婦みたいなこと言われても!!」
「……ううっ……なんで俺たちがこんな……」
数分後。
店の前の手洗い場には、世界を救う英雄たちの哀れな姿があった。
「クソッ! このラベル、粘着力が強くて剥がれねぇ!」
「おい僧侶! 聖剣を洗うな! 粗大ゴミセンターに電話予約しろ!」
「ドラゴンの血抜き終わりました……新聞紙ください……」
勇者たちは、タナカの監視下で、黙々とゴミの分別作業に従事させられていた。
その背中は、魔王に敗北した時よりも小さく見えた。
「はい、これはプラ。これは資源。……よし、合格だ」
すべてのゴミが完璧に仕分けられたのを確認し、タナカはようやく頷いた。
「お手数をおかけしました。ご協力ありがとうございます」
タナカは事務的に礼を言い、ゴミ袋を回収した。
勇者たちは、ダンジョン攻略の報酬よりも、ゴミを受け取ってもらえたことに深い達成感を感じていた。
「……帰ろう。もう疲れた」
「ああ……二度とダンジョンにゴミは持ち込まねぇ……」
勇者パーティはトボトボと帰っていった。
「さすがですね店長! ゴミ捨て場がピカピカです!」
リリスが感心して言う。
「当たり前だ。ルールを守れない奴に、ダンジョンを歩く資格はない」
タナカは満足げに、分別された資源ゴミを眺めた。
「よしリリス。この空き瓶は業者に渡すと1本5円で引き取ってもらえる。勇者が置いていったこの山……300本はあるな」
「えっ、ちゃっかり換金するんですか?」
「分別は金になる。……これぞ『錬金術』だ」
ダンジョン地下99階。ここでは、伝説の聖剣も、30センチを超えればただの「粗大ゴミ」である。
【あとがき:分別のその後】
リリス「店長、さっきの『ドラゴンの生首』、どうしたんですか?」
タナカ「ああ。あれは『燃えるゴミ』に出すのはもったいないからな」
リリス「え?」
タナカ「綺麗に洗って、『ドラゴン・ヘッド・カレー』の出汁に使った」
リリス「うわぁ……。勇者さんが見たら泣きますよ……」
タナカ「SDGsだ。骨までしゃぶるのが流儀だぞ」




