表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/60

第44話:猛暑の紐制服と、絶対零度な「塩対応」

気温40度。

ダンジョンの空調設備が故障し、店内はサウナと化していた。

「て、店長ぉ……溶けますぅ……。修理屋さん呼びましょうよぉ……」

レジカウンターで、サキュバスのリリスがぐったりと伸びている。

汗で制服が張り付き、彼女のライフはゼロだった。

「却下だ。修理見積もりが予算をオーバーしている」

タナカは汗ひとつかかず、氷のように冷たい目で言った。

「修理費を払うくらいなら、現状の設備で耐える。……だが、暑さによる業務効率の低下は見過ごせん」

タナカはバックヤードのダンボールから、一枚の「布切れ」を取り出した。

「これを着用しろ。本部が試作した『究極のクールビズ制服』だ」

「くーるびず……ですか?」

「生地代を限界まで削減し、通気性とコストダウンを追求した最高傑作らしい。すぐに着替えてこい」


数分後。

「あ、あの……店長? これ、ほぼ裸じゃないですか……?」

バックヤードから出てきたリリスは、顔を真っ赤にして身を縮めていた。

彼女が着ているのは、もはや「服」と呼べるか怪しい代物だった。

胸元と腰を隠す最小限の布を、数本の「紐」で繋ぎ止めただけの構造。

背中は全開。横も全開。

動くたびに危うい部分が見え隠れする、防御力ゼロの装備だ。

しかし、タナカはリリスの肢体になど目もくれず、事務的にチェックを始めた。

「ふむ。仕様通り、通気性は完璧のようだな」

「そ、そういう問題ですか!? 恥ずかしいですぅ!」

「……ちょっと待て。動くな」

タナカがズイッとリリスの胸元に顔を近づけた。

「ひゃっ!? て、店長……?」

リリスが期待と羞恥で目を潤ませる。

だが、タナカの指先が触れたのは、彼女の肌ではなく、その上の「プラスチック」だった。

「……名札が1ミリ傾いている。接客業として身だしなみは基本だ」

タナカはリリスの豊満な胸の上にある名札を、指先でコンマ単位の微調整を行った。

その目に欲情の色は一切ない。あるのは「商品棚のラベルを直す目」と同じ、無機質な光だけだ。

「よし、水平だ。……さあ、仕事に戻れ。レジが混んできたぞ」

「(……この人、本当に男の人なのかな)」

リリスは複雑な心境のまま、売り場へと向かった。

店内は地獄絵図となった。

「いらっしゃいませー♡」

リリスが動くたびに、紐だけの制服が揺れる。

高い棚の商品を取ろうと背伸びをすれば、お尻のラインが露わになり。

下の棚を整理しようと屈めば、胸元が重力に従ってこぼれ落ちそうになる。

「ブフォッ!!?」

レジ待ちをしていたオークの戦士が、鼻から盛大に鮮血を噴き出して倒れた。

「あらっ!? お客様!? 大丈夫ですか!? 熱中症ですか!?」

リリスが慌てて駆け寄り、オークの頭を抱きかかえる。

その拍子に、彼女の柔らかい太ももがオークの顔面に密着する。

「グハッ……(成仏)……」

「きゃあぁぁ! お客様が白目を剥いて! 誰か、お水を!」

騒ぎを聞きつけた他の客も振り返り、そしてリリスの姿を見た瞬間――。

ドサッ。バタッ。ズドン。

次々と鼻血を吹いて昏倒していく。

店内は死屍累々。死体の山が出来上がった。

だが、タナカは動じない。

「……通行の妨げだな」

タナカはモップを持って現れると、床に倒れている冒険者を「ただの障害物」として跨いだ。

「お客様。通路での睡眠はご遠慮ください。営業妨害になります」

タナカは気絶している客の体を足先でツンツンと端に寄せると、床に広がった鼻血を淡々と拭き取った。

「……床の清掃が必要になったな。特殊清掃費として追加料金500円、計上しておくか」

客の安否などどうでもいい。

彼が気にしているのは、床のワックスが血で剥がれないか、その一点のみ。

「店長! 皆さん倒れちゃってます! どうしましょう!」

「放っておけ。外部刺激による一時的な血圧上昇だ。……それよりリリス、レジが止まっているぞ。手を動かせ」

「は、はいっ!」


その日の夜。

「店長! 見てください! 売上が過去最高ですよ!」

閉店後、リリスが売上日報を見て歓声を上げた。

鼻血を出した客たちが、止血のための「冷却パック」と、興奮を鎮めるための「精神安定剤」、そして脱水対策の「スポーツドリンク」を爆買いしていった結果だ。

「この制服、すごいですね! 明日もこれ着ますか?」

リリスが期待の眼差しを向ける。

恥ずかしいけれど、売上に貢献できるなら頑張りたい。

そんな彼女の健気な提案を、タナカは即座に切り捨てた。

「いや、運用停止だ」

「えっ? なんでですか? こんなに儲かったのに」

タナカは、血まみれになったモップをバケツに突っ込みながら、不機嫌そうに吐き捨てた。

「床掃除のコストがかかりすぎる。血液の除去作業にどれだけのタイムロスが発生したと思っている」

タナカは電卓を叩く。

「売上の増加分より、清掃にかかる人件費と洗剤代の方が高くつく計算だ。よって、この制服は採用不可とする」

「そ、そんなぁ……(私の色気、洗剤代以下なんだ……)」

リリスはガックリと肩を落とした。

翌日。

店内には、いつもの布面積たっぷりな制服を着たリリスと、

「昨日の天使はどこだぁぁぁ!」と叫ぶゾンビのような客たちの姿があった。

タナカはそれを無視し、壊れたエアコンの前で「修理費、もっと安くならないか?」と業者に電話をかけ続けていた。


ダンジョン地下99階。ここでは、どんなに魅力的なサービスも、「掃除が面倒」という理由で却下されることがある。

【あとがき:試作品の行方】

リリス「店長、あの『紐制服』、どうしたんですか? 捨てちゃったんですか?」


タナカ「いや、『使用済み・激レア衣装』として闇市に流した」


リリス「ええっ!? 売ったんですか!?」


タナカ「エアコンの修理費が捻出できたぞ。お前の汗が染み込んでいるのが高評価だったらしい」


リリス「ひ、ひどい! 私のプライバシーは!?」


タナカ「プライバシーで飯は食えん。……さて、エアコンが直ったから、明日からは通常営業だ。残業してもらうぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
リリスは訴えたら勝てるレベルw 少なくとも売れた代金の何割かは貰う権利あるw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ