表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/60

第41話:不在のタナカと、チーム魔界の奮闘

夜2時。

『ダンジョンマート』のバックヤードで、店長のタナカがジャケットを羽織った。

「本部の緊急招集だ。30分で戻る」

タナカは、氷のように冷たい視線を留守番の二人に向けた。

やる気だけは空回りするサキュバスのリリスと、先日おでん鍋を毒沼に変えた死神グリムだ。

「留守を頼む。店の損壊は許さん。グリム、客の凍結および魂の回収は禁止だ。リリス、つまみ食いは発見次第、給料から引く。以上だ」

「は、はいっ! 任せてくださいっ! 私、店長がいなくても完璧にこなしてみせますからっ!」

リリスがビシッと敬礼する。

『フン、承知した……』

グリムは深くフードを被り、背中の大鎌の柄を握りしめた。

『店長の不在……それは即ち、我がこの聖域の守護者となる時。……侵入者は、この「魂狩りの大鎌」の錆としてくれよう』

「鎌はしまうんだ。レジ打ち業務のみ遂行しろ」

タナカは一抹の不安を抱えつつ、業務優先で店を後にした。

店内に残されたのは、ポンコツ悪魔と物騒な死神のみ。

そして、そんなタイミングを見計らったかのように、自動ドアのチャイムが鳴った。


ズシン……ズシン……。

地響きと共に現れたのは、深層の門番『ジャイアント・ゴーレム』だ。

岩塊でできたその身体はあまりに巨大で、入口で詰まってしまった。

ミシミシと自動ドアのフレームが悲鳴を上げる。

「ああっ! お客様! 無理ですぅ! 入れませんってば!」

リリスが悲鳴を上げる。ゴーレムは聞く耳を持たず、さらに身体を押し込もうとする。

『愚か者が……』

レジにいたグリムが、ゆらりと歩み出た。

『我が城壁を破壊しようとは……侵入者と見なす』

ジャキッ!!

グリムが背中の大鎌を構える。

店内が一瞬で絶対零度になり、即時排除 の構えを見せた。

「待ってグリム君! 暴力はんたーいですぅ! お客様! お願いですからご自分でバラして入店してくださいっ!」

ゴゴゴ……?

ゴーレムは一瞬考え込んだが、リリスの必死さと、グリムから放たれる本気の殺気に気圧されたらしい。

彼は自分の頭をガコッと外し、腕を抜き、足を分解した。

そして、ゴロゴロと転がる「岩のパーツ」となって入店してきた。

『チッ。手のかかる客だ』

グリムは舌打ちし、レジカウンターに転がってきた岩(元・頭部)を、冷気で冷やしながら拾い上げた。

『何を所望するか、岩塊よ』

ゴーレムは岩の頭をカタカタ鳴らし、棚の『セメント・インスタントキット』を指さした。

リリスが代金を受け取り、セメントキットを手渡す。

ゴーレムは満足げにバラバラのままゴロゴロと店外へ転がっていった。

「ふぅ……なんとかなりましたねっ。でも、床が岩の粉でザラザラですぅ……」

リリスが岩屑いわくずをモップで掃除していると、次の客がやってきた。


ボロボロの法衣を纏った骸骨、『オールド・リッチ』だ。

「★◆◎▼!! &%$#!!」

リッチはガタガタと震えながらカウンターで叫んでいる。

どうやら、外が寒くて凍えているらしい。

「えっと……『肉まん』ですか? 温かいのが欲しいんですか?」

リリスが聞くが、リッチは言葉が通じない。

『……フム。寒がっているようだな』

グリムが歩み寄る。

『ならば、我が温めてやろう』

「えっ、グリム君できるの?」

『造作もない』

グリムは骨だけの指先をリッチに向けた。

パチン、と指を鳴らす。

ボッ!

青白い『地獄の業火ヘル・ファイア』が、リッチの全身を包み込んだ。

「ギャァァァァァァ!!?」

「ちょっとォォォ!! 燃やしてどうするのっ!?」

リリスが絶叫する。

『安心しろ。リリスよ。この炎は魂まで温める……』

「呪い付与エンチャントされてるでしょ! 色が紫色になってるから!」

リッチは火だるまになりながらのたうち回っている。

リリスは慌ててホットスナックから一番辛い商品を掴み取った。

「お客様! これで中から温まってください! 『激辛デビルチキン』ですっ!」

リッチはそれをひったくり、口に放り込んだ。

カプサイシンの爆発的な熱量が、地獄の冷たさを中和する。

リッチは口から青い炎と赤い炎を同時に吹き出しながら、満足げに昇天していった。

『……解せぬ。我の炎の方が熱効率は良いはずだが』

「そういう問題じゃないから! 店が焦げ臭いよぉ!」

「くそっ、なんだこの店は!」

最後に現れたのは、完全武装の勇者パーティだった。

彼らは店内の惨状――散らばった岩と、焦げ跡、そして異常な室温の低さを感じて剣を抜いた。

「魔物の巣窟め! ここを拠点にするつもりか!」

殺気立つ勇者たち。

タナカがいれば事務的な「いらっしゃいませ」の一言で制圧できるが、今はいない。

「ひぃぃ! ち、違いますぅ! ただのコンビニですってば!」

リリスはパニックになり、マニュアル通りの言葉を叫んだ。

「ほ、滅ぼす前にポイントカード作りますか!? 今なら入会金無料ですっ!」

「うるさい! 問答無用だ!」

勇者が斬りかかろうとした、その時。

『……騒がしいな、生者どもよ』

カウンターの奥から、肺が凍りつくような冷気が噴き出した。

グリムが、大鎌を杖のように床に突き立てて立っていた。

『ここは聖域コンビニだ。……これ以上騒ぐなら、貴様らのソウル、我のコレクションに加えねばならぬ』

カッ。

グリムの眼窩が赤く発光する。

その背後には、ゆらりと本物の死神の幻影が浮かび上がった。

マニュアルを超えた、ガチの殺意だ。

「なっ……!?」

勇者たちの足が止まる。

剣を持つ手が凍りつきそうだ。生物としての本能が警鐘を鳴らしている。こいつはヤバい、ラスボス級だ、と。

「し、死神……!? まさか、ここは魔王軍の最重要拠点……?」

「リーダー、帰ろうぜ。俺、急に寒気が……」

勇者たちは完全に戦意喪失した。

そこへすかさず、リリスがトドメの一撃を放つ。

「お客様! 今ならおにぎり100円セール中でーす!!」

死神の殺気とおにぎりのチラシ。

あまりのギャップに、勇者たちは毒気を完全に抜かれた。

「……お、おにぎりだけ……買っていこう……」

結局、彼らは震える手でツナマヨおにぎりを人数分購入し、逃げるように去っていった。


30分後。

会議から戻ったタナカは、入り口で立ち尽くした。

床には岩が転がり、壁は焦げ、店内は冷蔵庫のように冷え切っている。

「店長! おかえりなさいっ!」

リリスが駆け寄ってくる。

「二人で完璧に接客しました! 売上もバッチリですっ!」

『……うむ。世界は、守られた……』

グリムは満足げに頷いた。

その手には、掃除に使ったのか、刃こぼれした大鎌が握られている。床には鎌で削ったような深い傷跡が無数に残っていた。

「……チッ。余計な仕事を増やしやがって」

タナカは舌打ちし、モップを手に取った。

怒る気力も湧かないほど、二人の顔は達成感に満ちていたが、そんなことはどうでもいい。

「明日は早出で掃除と、床の補修だ。……リリス、グリム。補修材の費用は二人の給料から折半で引いておく」

「ええっ!? そ、そんなぁ……!」

『……解せぬ』


ダンジョン地下99階。ここでは、店主のいない数十分間こそが、最も世界の均衡と人件費を危うくさせる魔の時間なのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ