表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/60

第28話:豚将軍の「爆弾餃子」と、エルフの「優雅なランチ戦争」

昼12時10分。

ダンジョンのランチタイムは、一瞬の安らぎの時間である。

『ダンジョンマート』のイートインスペースでは、近隣の魔法塔に勤める『エルフの魔法使い(OL風)』たちが、優雅な昼食をとっていた。

「最近の魔王軍、ブラックよね~」

「わかる~。残業代出ないのに『世界征服』とか言われてもねぇ」

彼女たちのテーブルには、彩り豊かな『15品目の森のサラダ』や『ハーブチキンサンド』が並んでいる。

店内に漂うのは、紅茶の香りと、彼女たちが発する高貴な森の香り。

レジに立つタナカは、その平和な光景に目を細めた。

「……平和だ。このまま昼休みが終わればいいのに」

しかし、その願いは、一人の男の来店によって粉砕された。


ドスンドスン!!

自動ドアが悲鳴を上げ、巨体の男が入ってきた。

『オーク・ジェネラル』だ。

彼は部下を引き連れ、飢えた獣の目で弁当棚を物色すると、カゴいっぱいに商品を放り込んだ。

「店長! 会計だ!」

ドンッ! とカウンターに置かれたのは――

『スタミナ特盛・ニンニク増し増し餃子弁当』。

そして『背脂コッテリ・豚骨カップ麺(BIG)』。

暴力的なカロリーの塊だ。

「温めはどうしますか?」

「おう! 電子レンジでガンガンに加熱してくれ! 熱々(アツアツ)でな!」

「承知しました」

タナカは業務用の高出力レンジに弁当を放り込み、ボタンを押した。

ブゥゥゥン……と唸るレンジ。

1分後。

ピーッ!

タナカがレンジの扉を開けた、その瞬間だった。


ボワァァァァァッ!!!

目に見えるほどの「湯気」と共に、凶悪な臭気が店内に解き放たれた。

焦げた醤油、大量のニンニク、そして豚の脂。

それはもはや「香り」ではなく、鼻腔を蹂躙する物理的な「衝撃波ブレス」だった。

「ッ!?」

イートインスペースのエルフたちが、一斉に口を押さえる。

「きゃあぁぁ! 何この暴力的な臭い!?」

「く、臭い! 私の『ハーブティー』の香りが死んだわ!」

「鼻が曲がる! 誰か! 浄化魔法ピュリファイをかけなさい!」

エルフたちがパニックになる。

彼女たちのような高尚な種族にとって、ニンニク臭は毒ガスに等しい。

エルフのリーダーが杖を構えた。

風魔法ウィンド! この汚らわしい空気を外へ!」


ビュゴォォォォ!!

店内に突風が吹き荒れ、カップ麺の蓋や、POPが舞い飛ぶ。

「な、何をしやがる!」

オーク将軍ジェネラルが激怒した。

「これが男の香りだ! 食欲をそそるだろうが!」

「野蛮よ! 私たちのランチタイムを穢さないで!」

「なんだとぉ!? サラダばかり食ってるから、そんなに貧相な体つきなんだ!」

「ひ、貧相ですってぇぇ!?」

一触即発。

優雅なランチタイムが、一瞬にして種族間戦争の戦場へと変わった。


「やめろお前ら!! 店内で魔法を使うな!!」

タナカがカウンターから身を乗り出して叫ぶ。

このままでは店が壊れる。タナカは瞬時に判断し、レジ横からある商品を掴み取った。

「将軍! 落ち着いてください! 食後にこれをサービスします!」

タナカが投げ渡したのは、『強力ブレスケア(ミント味)』だ。

「え?」

「それを噛めば、吐息が爽やかになります! だから外のベンチで食べてください!」

「む……。爽やか……か。悪くない」

将軍は「タダなら貰うか」と矛を収め、弁当を持って外へ出て行った。

「そ、それからエルフのお客様! お詫びに食後の『アロマ香る紅茶』を半額にします! だから杖をしまってください!」

「……半額? 仕方ないわね」

エルフたちも、タナカの迅速な対応に免じて、席に戻っていった。

「……ふぅ」


13時。

嵐のようなランチタイムが過ぎ去った店内。

タナカは、がらんとした電子レンジを見つめてため息をついた。

「……レンジの中に、ニンニクの臭いが染み付いて取れない」

どれだけ拭いても、あの暴力的な香りは消えない。

「次に温める『あんまん』が、餃子味になっちまうな……」

タナカは諦めて、換気扇を「強」に回した。

ダンジョン地下99階。


ここでは、食欲という名の怪物が、時に平和を乱す最大の敵となる。

【あとがき:残り香の中で】

リリス「店長、まだ餃子の匂いしますね……」


タナカ「ああ。これが『飯テロ』の代償か」


リリス「でも……この匂い嗅いでたら、お腹空いちゃいました。私、今日のお昼は餃子にします!」


タナカ「……お前、さっきのエルフたちの気持ちはどうした」


リリス「美味しいは正義ですから!」


タナカ「まったく……。まあ、しっかり食わないと午後の仕事は持たないからな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ