第28話:豚将軍の「爆弾餃子」と、エルフの「優雅なランチ戦争」
昼12時10分。
ダンジョンのランチタイムは、一瞬の安らぎの時間である。
『ダンジョンマート』のイートインスペースでは、近隣の魔法塔に勤める『エルフの魔法使い(OL風)』たちが、優雅な昼食をとっていた。
「最近の魔王軍、ブラックよね~」
「わかる~。残業代出ないのに『世界征服』とか言われてもねぇ」
彼女たちのテーブルには、彩り豊かな『15品目の森のサラダ』や『ハーブチキンサンド』が並んでいる。
店内に漂うのは、紅茶の香りと、彼女たちが発する高貴な森の香り。
レジに立つタナカは、その平和な光景に目を細めた。
「……平和だ。このまま昼休みが終わればいいのに」
しかし、その願いは、一人の男の来店によって粉砕された。
ドスンドスン!!
自動ドアが悲鳴を上げ、巨体の男が入ってきた。
『オーク・ジェネラル』だ。
彼は部下を引き連れ、飢えた獣の目で弁当棚を物色すると、カゴいっぱいに商品を放り込んだ。
「店長! 会計だ!」
ドンッ! とカウンターに置かれたのは――
『スタミナ特盛・ニンニク増し増し餃子弁当』。
そして『背脂コッテリ・豚骨カップ麺(BIG)』。
暴力的なカロリーの塊だ。
「温めはどうしますか?」
「おう! 電子レンジでガンガンに加熱してくれ! 熱々(アツアツ)でな!」
「承知しました」
タナカは業務用の高出力レンジに弁当を放り込み、ボタンを押した。
ブゥゥゥン……と唸るレンジ。
1分後。
ピーッ!
タナカがレンジの扉を開けた、その瞬間だった。
ボワァァァァァッ!!!
目に見えるほどの「湯気」と共に、凶悪な臭気が店内に解き放たれた。
焦げた醤油、大量のニンニク、そして豚の脂。
それはもはや「香り」ではなく、鼻腔を蹂躙する物理的な「衝撃波」だった。
「ッ!?」
イートインスペースのエルフたちが、一斉に口を押さえる。
「きゃあぁぁ! 何この暴力的な臭い!?」
「く、臭い! 私の『ハーブティー』の香りが死んだわ!」
「鼻が曲がる! 誰か! 浄化魔法をかけなさい!」
エルフたちがパニックになる。
彼女たちのような高尚な種族にとって、ニンニク臭は毒ガスに等しい。
エルフのリーダーが杖を構えた。
「風魔法! この汚らわしい空気を外へ!」
ビュゴォォォォ!!
店内に突風が吹き荒れ、カップ麺の蓋や、POPが舞い飛ぶ。
「な、何をしやがる!」
オーク将軍が激怒した。
「これが男の香りだ! 食欲をそそるだろうが!」
「野蛮よ! 私たちのランチタイムを穢さないで!」
「なんだとぉ!? サラダばかり食ってるから、そんなに貧相な体つきなんだ!」
「ひ、貧相ですってぇぇ!?」
一触即発。
優雅なランチタイムが、一瞬にして種族間戦争の戦場へと変わった。
「やめろお前ら!! 店内で魔法を使うな!!」
タナカがカウンターから身を乗り出して叫ぶ。
このままでは店が壊れる。タナカは瞬時に判断し、レジ横からある商品を掴み取った。
「将軍! 落ち着いてください! 食後にこれをサービスします!」
タナカが投げ渡したのは、『強力ブレスケア(ミント味)』だ。
「え?」
「それを噛めば、吐息が爽やかになります! だから外のベンチで食べてください!」
「む……。爽やか……か。悪くない」
将軍は「タダなら貰うか」と矛を収め、弁当を持って外へ出て行った。
「そ、それからエルフのお客様! お詫びに食後の『アロマ香る紅茶』を半額にします! だから杖をしまってください!」
「……半額? 仕方ないわね」
エルフたちも、タナカの迅速な対応に免じて、席に戻っていった。
「……ふぅ」
13時。
嵐のようなランチタイムが過ぎ去った店内。
タナカは、がらんとした電子レンジを見つめてため息をついた。
「……レンジの中に、ニンニクの臭いが染み付いて取れない」
どれだけ拭いても、あの暴力的な香りは消えない。
「次に温める『あんまん』が、餃子味になっちまうな……」
タナカは諦めて、換気扇を「強」に回した。
ダンジョン地下99階。
ここでは、食欲という名の怪物が、時に平和を乱す最大の敵となる。
【あとがき:残り香の中で】
リリス「店長、まだ餃子の匂いしますね……」
タナカ「ああ。これが『飯テロ』の代償か」
リリス「でも……この匂い嗅いでたら、お腹空いちゃいました。私、今日のお昼は餃子にします!」
タナカ「……お前、さっきのエルフたちの気持ちはどうした」
リリス「美味しいは正義ですから!」
タナカ「まったく……。まあ、しっかり食わないと午後の仕事は持たないからな」




