表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/60

第27話:戦場に向かうオークと、モーニングセット

7時00分。

ダンジョンの朝は、重苦しい空気に包まれていた。

自動ドアが開くたびに、死んだ魚のような目をしたオークやゴブリンたちが、よろよろと入店してくる。

彼らはダンジョンの各階層にある「採掘現場」や「迷宮警備会社」へ出勤するサラリーマンたちだ。


「……いらしゃいませぇ~……」

レジに立つサキュバスのリリスもまた、意識が半分飛んでいた。

昨晩、深夜アニメを一気見してしまったのだ。彼女の目は半開きで、体はゆらゆらと揺れている。

そこへ、一際疲れ切った顔のオークの客がやってきる。

よれたスーツを着て、手には栄養ドリンクを持っている。

「……会計頼む」

「……あーい……」

リリスはオートパイロットでレジを打つ。

オークはため息交じりに、追加で注文した。

「……ああ、あとレジ横の『モーニング』ひとつ」

オークが指差したのは、ホットドッグとコーヒーのお得なセットだ。

しかし、寝ぼけたリリスの脳内変換回路は、致命的なバグを起こしていた。

「……ふぁい。モーニングですねー」

リリスは気だるげにバックヤードへ手を伸ばし、ズシリと重たい物体を取り出した。

そして、カウンターの上にドスン!! と置いた。

それは、直径30センチの棘付き鉄球がついた、凶悪な鈍器。

『モーニング・スター』だった。

「……はい、モーニング」

「……えっ?」

オークの動きが止まった。

目の前には、頭蓋骨を粉砕するための鉄塊が鎮座している。

パンもコーヒーもない。あるのは暴力だけだ。


「い、いや、店員さん? 俺が頼んだのは……」

「……温めますか?」

リリスは虚ろな目で首を傾げた。

オークはゴクリと唾を飲み込んだ。

そして、ハッと気づいたように鉄球を見つめ直した。

(……そうか。これは、店員さんからのメッセージか……)

オークの脳裏に、今日のスケジュールの地獄絵図が浮かんだ。

午前中は理不尽な上司オーガへのプレゼン。午後は納期が遅れている現場の謝罪回り。

それはまさに、食うか食われるかの『戦場』だ。


(パンなんか食ってる場合じゃねぇ……。今の俺に必要なのは、敵を粉砕する力だ……!)

オークの目に、戦士の光が戻った。

「……ああ。もらうよ。温めなくていい。敵の返り血で温まるからな……」

オークが震える手でモーニング・スターの柄を握り、レジを通そうとした。


バシッ。

横から伸びてきた手が、鉄球を押さえた。

店長のタナカだ。

「待て。それは武器だ。食えん」

タナカは真顔でモーニング・スターを没収すると、手際よく本物の『モーニングセット』とすり替えた。

「お客様、当店は武器の提供は行っておりません。あと、上司を殴ると懲戒解雇になりますのでご注意ください」

「ちっ……」

オークは舌打ちし、残念そうにホットドッグを掴んだ。

武器を奪われた彼は、再び死んだ魚のような目に戻り、とぼとぼと店を出て行った。

「……ありがとうございましたー」

リリスはまだ寝ぼけている。

「……どこの職場も大変だな」

タナカはため息をつき、モーニング・スターを棚に戻した。

その鉄球には、かすかにサラリーマンの哀愁がこびりついている気がした。


ダンジョン地下99階。ここでは、朝食よりも武器を求めるほど、労働環境は過酷である。

【あとがき:出勤ラッシュ】

タナカ「リリス、起きろ。また注文間違えてたぞ」


リリス「はっ!? ……あれ? 私、今お客様に武器を売りつけようと……」


タナカ「ああ。でも客の方は満更でもなさそうだったな」


リリス「ええー……みんな疲れてるんですねぇ……」


タナカ「そうだな。……よし、今日から『モーニング・スター』もレジ横に置くか。『※食用ではありません。上司用です』ってPOPを付けて」


リリス「店長、それ労働基準法的に大丈夫ですか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ