第26話:高性能ミミックレジと、残酷な「絶対鑑定スキル」
「……よし、設置完了」
深夜2時。
タナカはレジカウンターの横に、一台の奇妙な機械を据え付けた。
見た目は、禍々しい牙が生えた「宝箱」。
しかし、その正面には最新式の液晶パネルと、バーコードリーダー(目玉)が付いている。
「店長、これなんです?」
品出しを終えたリリスが覗き込む。
「**『自動精算機 ミミック-2000』**だ」
タナカは誇らしげに言った。
「最近、万引きとか、偽造硬貨を使う客が多いだろ? こいつは**『鑑定スキル・レベル99』**を搭載してるんだ。商品のすり替えも、偽金も、一瞬で見抜く最強の防犯システムさ」
「へぇー! すごーい! ハイテクですね!」
「よし、起動テストだ」
タナカがスイッチを入れると、ミミックの目玉がギョロリと動き、機械音声が流れた。
『システム・オールグリーン。真実ヲ、映シ出シマス……』
数分後。最初の利用客が現れた。
魔界のセレブ階級である、貴婦人風のサキュバスだ。
彼女がカゴに入れたのは、店で一番高い化粧品。
**『魔界セレブ愛用・若返り秘薬クリーム(売価:10,000円)』**だ。
「あら、セルフレジ? 便利になったわね」
彼女は優雅に商品をミミックの目の前にかざした。
ピピッ。
スキャン音が鳴る。
ここまでは順調だった。しかし、次の瞬間。ミミックが高らかにアナウンスした。
『商品名:若返リ秘薬クリーム。成分:スライムノ粘液ト、泥ヲ混ゼタ物。原価:5円』
「……は?」
貴婦人の動きが止まった。
店内が静まり返る。
『繰リ返シマス。原価:5円。ボッタクリ商品デス』
「ちょっ……!?」
貴婦人の顔が真っ青になる。
「これ……泥なの……? 私は泥を顔に塗っていたの……? しかも1万円で……?」
「あーーーっ!!」
タナカがカウンターから飛び出した。
「お、お客様! 違います! 容器代とか輸送費とか、いろいろ込みでして!」
「騙したわね! もう二度と買わないわ!」
貴婦人は商品を床に叩きつけ、泣きながら走り去ってしまった。
「……最悪だ。店の利益率(企業秘密)をバラしやがった」
タナカは頭を抱えた。
「フッ……なんだか騒がしい店だな」
次に入ってきたのは、全身を金色の鎧で固めた人間の勇者だった。
腰には立派な装飾の剣を差している。
「小腹が空いたな。おにぎりでも買うか」
彼はセルフレジの前に立ち、おにぎりをスキャンしようとした。
その時、腰に差していた「伝説の聖剣」の柄が、偶然センサーの範囲に入ってしまった。
ピピッ。
ミミックが反応する。
『対象:伝説ノ聖剣(自称)。鑑定結果:メッキ加工サレタ鉄ノ剣』
「……ん?」
勇者の手が止まった。
『製造国:量産工場。攻撃力:3。ゴミデス』
「ぶっ!!」
後ろに並んでいたオークの客が吹き出した。
「き、貴様ぁぁ!!」
勇者の顔が茹でダコのように赤くなる。
「ち、違う! これは予備の剣で……! 本気を出せば光るし! 強いし!」
しかし、ミミックの追撃は止まらない。
『補足:使用者ノ「カリスマ」数値ハ、マイナスデス。見栄ッ張リデス』
「うわぁぁぁぁ!! やめろぉぉぉ!!」
勇者は耐えきれず、おにぎりも買わずに逃走した。
店内の客たちがヒソヒソと噂する。
「聞いたか? あの剣、通販の安物だってよ」「ダッセェ……」
「ちょ、店長! このレジだめですよ!」
リリスが慌てて駆け寄ってくる。
「お客さんがみんな泣いて帰っちゃいます! 電源切ってください!」
「わかってる! 今切るから……」
タナカが停止ボタンを押そうとした時、リリスがミミックの前に立ちはだかった。
ピピッ。
センサーが、リリスの胸元を感知してしまった。
『対象:サキュバス店員ノ「胸」』
「!!?」
リリスが悲鳴を上げる。「いやぁぁ! 読み取らないでぇぇ!」
『鑑定結果:偽装アリ。パッド2枚入リ。虚構ノ膨ラミデス』
シーン……。
店内にいた全員の視線が、リリスの胸元に集中した。
「……う、うぅ……」
リリスはその場に崩れ落ちた。
「……死にたい。悪魔だけど死にたい……」
「……撤去だ」
タナカは静かに呟くと、ミミックの裏側にある設定ハッチを開けた。
そこには【鑑定レベル:MAX】のダイヤルがある。
タナカは無言でダイヤルを回し、【鑑定レベル:OFF】に設定した。
再起動。
『システム・起動。……ポヨ?』
リリスが恐る恐る、自分の胸をスキャンさせてみた。
『対象:オッパイ。大キイデス。スゴイデス』
「……バカになってる」
リリスが涙目で言った。
「ああ。これくらいでいいんだよ」
タナカは遠い目をした。
「商売も、人間関係も……真実ばかりじゃ生きていけないんだ。優しい嘘も必要なんだよ」
「店長……なんかいいこと言った風にしてますけど、セクハラですからね?」
翌日から、このレジの鑑定機能は封印され、ただの「愛想のいい箱」として運用されることになった。
地下99階。
ここでは誰もが、大小さまざまな秘密を抱えて生きている。
【あとがき:深夜の休憩時間】
タナカ「……ふぁ。深夜3時の魔の時間か。客が全く来ないな」
リリス「ヒマですね、店長。そうだ! 私、楽しみなことがあるんです!」
タナカ「なんだ? 勤務中に食べるおやつか?」
リリス「違いますよ! これです、これ! 『お客様満足度・直筆アンケート箱』!」
リリスは、ダンボールにマジックで雑に装飾を施した手作りの箱を抱えてきた。その目はキラキラと輝いている。
リリス「この間店長がレジを直してる間に、作ったんです! お客様が、正直な意見や、私の接客への感想を書いてくれているはずです!」
タナカ「ああ、それか。まあ、期待はするなよ。この深層で、わざわざペンで文字を書くような律儀な客は……」
リリス「大丈夫です! それでは、オープンしますね!」
リリスが箱の蓋を開け、中を覗き込む。
リリス「…………」
箱の中は、空っぽだった。
リリス「う、うぅ……一枚も入ってない……。私の接客、不満だったのかな……」
リリスは目に涙を浮かべ、肩を落とす。
タナカ「……まあ、そう落ち込むな」
タナカはリリスの頭に手を置いた。
タナカ「この店の客は、面倒くさがりが多いんだ。わざわざペンで文字を書くより、スマホでポチッと一回ボタンを押す方が楽だと思ってる」
リリス「ボタン……?」
タナカ「ああ。だから、そっちで何も入ってなかったってことは、下の『簡単な方』で済ませてくれたんだろ。気にするな。それに文句があれば直接言ってくるだろ」
リリス「そっか……! そうですよね、きっと! やったー!」
リリスが立ち直って箱を抱きしめた、その時。
タナカが不意に口を開いた。
タナカ「……で、リリス。そのアンケート箱を自作した分の『資材費と人件費』は、明日の時給から相殺させてもらうぞ」
リリス「えええええええ!?」




