第22話:出し惜しむ勇者と、3円のレジ袋
深夜2時。
「いらっしゃいませー」
その自動ドアをくぐり、カシャンカシャンと金属音を響かせて現れたのは、全身フル装備の勇者パーティ4人組だった。
「よし、ここが最後の補給ポイントだ。ボス戦に備えて食料を買い込むぞ!」
「「「オオーッ!」」」
勇者の号令とともに、彼らは店内の商品を次々とカゴに放り込んでいく。
おにぎり20個。
2リットルの回復水4本。
熱々のカップおでん。
とろけるプリン。
レジ横のホットスナック。
カウンターの上には、瞬く間に商品の山が築かれた。
「……お会計、しめて1万5千円になります」
タナカは淡々とバーコードを読み取り、最後にマニュアル通りの問いかけをした。
「レジ袋は1枚3円になりますが、ご利用になりますか?」
その瞬間、勇者の表情が凍りついた。
「……は? 3円? 今、金を取ると言ったのか?」
「はい。本部の決まりでして。一律3円です」
「ふ、ふざけるな!!」
勇者がバン! とカウンターを叩いた。
「俺たちは世界を救う勇者だぞ!? 1万5千円も買い物したんだぞ!? たかがビニール袋くらいサービスしろよ!」
「いやー、法律なんで。海亀を守るためらしいですよ」
タナカは棒読みで答えた。
「くっ……! 足元を見やがって……!」
勇者はギリリと歯を噛み締める。
「勇者よ、3円あれば『薬草』が買えるぞ。無駄遣いは厳禁だ」
「そうよ。その3円で世界が変わるかもしれないわ」
戦士と魔法使いも口を揃えて反対する。
彼らにとっての3円は、血と汗の結晶らしい。
「よし、決めた! 袋は要らん!」
勇者は高らかに宣言した。
「すべて**『現物』**で持ち帰る!」
タナカは商品の山を見上げた。
どう見ても手で持てる量ではない。それに、ここはダンジョンだ。
「……お客さん、本当にいいんですか? 生身で持つと**『匂い』が……」
「フッ、甘いな店員。俺たちには『装備』**がある!」
忠告を聞かず、勇者たちの涙ぐましい「収納術」が始まった。
「まずは俺だ! 見てろ!」
戦士が自分の頭から、ゴツイ鉄兜を取り外した。
「この兜を逆さにすれば、立派な買い物カゴになる!」
戦士は兜の中に、おにぎり20個をギュウギュウに詰め込み、小脇に抱えた。
「よし! これで両手が空く!」
「あの、頭の防御力がゼロになってますけど」
「ノーガード戦法だ!」
続いて、勇者が腰の剣を抜いた。
「聖剣エクスカリバーの本気を見るがいい!」
勇者は剣の切っ先を、ドーナツの穴に次々と通し始めた。
さらに、ちくわ、フランクフルトと、穴の空いているものを全て串刺しにしていく。
「これぞ秘技、『串団子持ち』!」
「聖剣が油まみれですけど」
「あとで聖水で洗う!」
次は魔法使いだ。
「私の『魔法のローブ』は収納力抜群よ!」
彼女は2リットルのペットボトル4本を、ローブの左右のポケットとフードの中にねじ込んだ。
ズシリ……と重力が彼女を襲う。
「ぐえっ……く、首が……締まる……!」
ローブが後ろに引っ張られ、襟が首を締め上げているが、彼女は白目を剥きながらサムズアップした。
「も、問題……なし……!」
最後は僧侶だ。
残る商品は、「熱々のカップおでん(汁だく)」と「とろけるプリン」。
「わ、私が持ちます! 両手で!」
しかし、僧侶の両手にはすでに杖と盾がある。
「僧侶! 盾の裏にプリンを貼り付けろ!」
「えっ!?」
「おでんは……**『口』**だ!」
「はぁ!?」
勇者が無茶な指示を飛ばす。
「口に含んで運べば容器は要らん! 両手が使えて安全だ!」
「熱っ!! むぐぅー!!」
僧侶は泣きながら熱々の大根と出汁を口に含み、ハムスターのように頬を膨らませた。
数分後。
そこには、異様な集団が完成していた。
頭部剥き出しで兜におにぎりを詰めた戦士。
剣がちくわだらけの勇者。
重さで半死半生の魔法使い。
口から出汁を垂らしながら盾にプリンを貼った僧侶。
「見たか店員! 3円など払わずとも、知恵を使えばこの通りだ!」
勇者が勝ち誇ったように言った。
「へぇー、すごいすごい(棒読み)」
タナカは拍手した。
すごい度胸だ。まさか、自ら**「歩くエサ」**になるとは。
「では行くぞ! ボス討伐だ!」
「「「オオーッ!」」」
勇者たちは意気揚々と自動ドアを出て行った。
「……あ、お客さん」
タナカは最後に、小さく声をかけた。
「今日は**『野良ケルベロス』**が多いんで、気をつけてくださいね」
その警告が届いたかどうか。
自動ドアが閉まり、彼らが闇夜に消えてから3秒後だった。
グルルルルッ……!!
ワンワンワンワンッ!!!
店の外から、獣の咆哮が聞こえてきた。
「な、なんだ!? ケルベロスの群れだ!」
「ひぃぃ! こっちを見てる! よだれがすごいぞ!」
勇者たちの悲鳴が響く。
揚げたてのチキン、おでんの出汁、ドーナツの甘い香り。
それらを全身にまとった彼らは、飢えた魔獣にとって**「極上のディナー」**でしかなかった。
「くそっ、迎撃するぞ! 戦え!」
勇者が叫ぶ。
しかし――。
「だ、ダメだ勇者! 兜におにぎりが入ってて被れない! 頭突きしかできねぇ!」
戦士が叫ぶ。
「わ、私もダメよ! ペットボトルが重くて動けない! 魔法が撃てない!」
魔法使いが座り込む。
「そ、僧侶! 回復魔法だ! 聖なる言葉を唱えろ!」
勇者が指示を出すが、
「むぐぅ〜!! んぐぐぐ!!」
僧侶は首を振るだけだ。口を開けばおでんがこぼれる。詠唱不可能だ。
「ええい、役立たずどもめ! 俺がやる!」
勇者は聖剣エクスカリバーを振り上げた。
その刀身には、ドーナツとちくわが満載されている。
「くらえ! エクスカリバー・スラッ……」
ヒュンッ!
剣を振った遠心力で、先端のドーナツがスポーンと飛んでいった。
パクッ。
空中のドーナツを、ケルベロスがナイスキャッチする。
「ああっ! 俺のオールドファッションが!」
「ワンワン!」
ケルベロスたちは味を占めた。
こいつを襲えば、攻撃されるどころかエサが飛んでくるのだ。
「うわぁぁぁ! 来るな! なめるな!」
「ああっ! 兜の中に顔を突っ込むな! 米を食うな!」
「ローブを引っ張らないで! ペットボトルが割れるぅぅ!」
「むぐーーっ!!」
一方的な蹂躙だった。
勇者たちは戦うことも逃げることもできず、ただ装備品に群がる犬たちに、もみくちゃにされている。
「「「3円払えばよかったぁぁぁぁ!!!」」」
ダンジョン地下99階。ここではたった3円のレジ袋が、どんな装備よりも役に立つのだ。
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ご来店ありがとうございます。
当店では本日より、新しく「ポイントカードシステム」を導入いたしました。
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