表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/60

第10話:ラストワン賞と、魔王の大人買い

「……また売れ残ったな」

深夜1時。

タナカはレジ横に設置された**『くじ引きボックス』**の中を覗き込み、深いため息をついた。

現在発売中の商品は**『ダンジョン・ドリームくじ Vol.1』**。

1回800円。ハズレなしで豪華景品が当たるキャラクターくじだ。

• A賞: 大賢者モーガンのリアルフィギュア

• B賞: ドラゴンの特大ぬいぐるみ

• C賞: 聖女の抱き枕カバー

• ……

• F賞: モンスター名場面クリアファイル(全10種)

「A賞とかの上位賞はまだ残ってるのに、なんでみんな引かないんだ?」

タナカがボヤくと、隣で品出しをしていたリリスが答えた。

「だって店長ぉ、F賞のクリアファイル、絵柄が『ゴブリンの食事風景』とか『オークの寝顔』とか、誰得なやつばっかりなんですもん」

「メーカーの在庫処分だよな、これ……」

このままでは不良在庫になってしまう。

タナカが頭を抱えていた、その時。


チャララ・チャララ・チャラララ~♪


自動ドアが開き、黒いジャージ姿の巨漢――魔王ヴェルザードが入店してきた。

彼はいつものようにチキンを注文しようとして、ふとレジ横のサンプル棚に釘付けになった。

「……ほう」

魔王の視線の先にあるのは、このくじの目玉商品。

最後の1枚を引いた者が必ず貰える**『ラストワン賞』**だ。


【ラストワン賞:聖剣エクスカリバー(1/1スケール・発光ギミック付きレプリカ)】


「なんと……。勇者の聖剣が、プラスチック製とはいえ手に入るとは」

魔王がニヤリと口角を上げた。

「これを余の寝室に飾り、毎晩見下ろして優越感に浸るのも悪くない」

「いらっしゃいませー」

タナカは商機を逃さなかった。


「魔王さん、今ならチャンスですよ。残り枚数少ないんで、聖剣ゲットの確率は高いっす」

「フン。余の財力と運をもってすれば、造作もないことだ」

魔王は財布から金貨を取り出した。

「店員、5回だ」

「はい、4000円になりまーす」

魔王はボックスに手を突っ込み、5枚のくじを鷲掴みにした。

そして、期待を込めてペリッ……と捲る。


【F賞】

【F賞】

【F賞】

E賞ハンドタオル

【F賞】


「……」

魔王の手元には、ゴブリンのクリアファイルが4枚と、ペラペラのタオルが1枚。

「ぬぐぐ……! なぜだ! なぜゴミばかり出る!?」

「確率っすね。F賞が一番数多いんで」

「ええい、次だ! 次の5回だ!」

魔王はムキになって引き続けた。

ペリッ、ペリッ、ペリッ……。


【F賞】

【F賞】

G賞ラバーストラップ

【F賞】

【F賞】


「貴様ァ!! レアを抜いているな!? 上位賞が入っていないではないか!」

「いや、箱見てくださいよ。A賞の紙、まだ残ってるでしょ」

タナカは冷静に箱の中を指差した。

確かに、まだA賞などの当たりは残っている。しかし、魔王の指はそれらを華麗に回避し続けているのだ。

「はぁ……はぁ……」

魔王の足元には、開封されたくじ紙と、大量のクリアファイルが散乱していた。

「お客さん、残りあと10枚ですね」

タナカが箱の中を数えて告げた。

「10枚……だと?」

魔王の脳内で、高速の計算が行われる。

(1回800円×10枚=8000円。たったそれだけで、確実に『ラストワン賞』が手に入る……!)

魔王はニヤリと笑った。これが大人の、いや魔王の戦い方だ。


「店員。財布の中身は十分にある」

魔王は万札をカウンターに叩きつけた。

「**『ここから全部』**だ。余が買い占める」

伝家の宝刀、大人買い。

コンビニくじにおける最強の禁じ手である。

「はい、毎度ありー」

タナカが承諾し、レジを打とうとした、その瞬間。


「待て!」

自動ドアが開き、一人の青年が飛び込んできた。

勇者アレンだ。

「タナカ! そのくじ、まだ残ってるか!? A賞の大賢者フィギュアが欲しいんだ!」

「遅いぞ勇者!」

魔王が勝ち誇った顔で振り返る。


「商談は成立した! 残りのくじは全て余が買い占めた! 貴様に出る幕はない!」

「なっ、なんだと!? 買い占めだと!? 卑怯だぞ魔王!」

「フハハハ! これが資本主義の力よ! 悔しくば金を積め!」

睨み合う二人。

タナカは面倒くさそうに頭をかいた。

「あー、魔王さん。まだ会計済んでないんで、商談成立前っすね。勇者さん、先に並んでたってことで、1回だけなら引いていいっすよ」

「なっ!? 貴様、魔王の爆買いを止める気か!」

「いや、独占禁止法的なアレで。勇者さん、1回だけね」

タナカは箱を勇者に差し出した。


残り10枚。その中に、A賞フィギュアは1本だけ入っている。確率は1/10。

「くっ……! 1回勝負か……!」

勇者アレンはゴクリと唾を飲み込んだ。

彼は知っていた。自分のステータス**【運(LUCK):999】**の力を。

「いくぞ……! 俺のドローを見ろ!」

勇者は迷いなく箱に手を入れ、一番上にあった一枚をスッと引いた。

ペリッ。

【A賞:大賢者モーガン リアルフィギュア】

「きたぁぁぁぁぁ!! 一発ツモォォォ!!」

「ば、馬鹿な……!?」

魔王が愕然と膝をついた。

「1/10の確率を、たった一度の試行で……!? これが勇者の補正……主人公補正なのか……!」

「へへっ、悪いな魔王! お先!」

勇者はフィギュアの箱を抱え、満面の笑みで帰っていった。


店内に残されたのは、敗北感に打ちひしがれる魔王と、タナカ。

「……で、魔王さん。残りどうします? 買います?」

「……買う。聖剣ラストワンは必要なのだ」

結局、魔王は残りの10枚を全て買い取った。

中身はすべてゴミだった。

「はい、これラストワン賞の聖剣です。あと、F賞のクリアファイル9枚ね」

タナカは巨大な聖剣の箱と、大量のクリアファイルの束を魔王に渡した。

魔王は念願の聖剣を手に入れた。

しかし、その背中は哀愁に満ちていた。

「……勝ったはずなのに、なぜこんなに虚しいのだ……」


魔王は脇に抱えた大量のゴブリン柄クリアファイルを見て、重いため息をついた。

「こんなもの、配る部下もいないぞ……」

「それが『くじ』の魔力っすよ。またの挑戦お待ちしてまーす」

タナカは空になったボックスを片付けながら、晴れやかな顔をした。

不良在庫が一掃された。今夜はぐっすり眠れそうだ。


ダンジョン地下99階。

くじの闇は、魔王の心さえも蝕むほどに深いのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ