戦闘は、ただの実演販売です
「タダで済むと思うなよ!?その車も、女も、肉片に変えてやる!!」
ガメル伯爵の絶叫と共に、鎖が解かれた。
解き放たれた合成魔獣が、飢えた獣の速度で猛り狂う。
獅子の頭が咆哮し、山羊の胴が震え、蛇の尾が空を裂く。
その巨体からは、鼻をつく獣臭と、圧倒的な殺気が放たれている。
「キシャアアアアアッ!!」
魔獣が、アルトたちと避難民の群れに向かって突進を開始した。
地面を揺らす轟音。
さっきまで水を求めていた住民たちが、パニックに陥って逃げ惑う。
「ひっ、ひいいっ!?」
「り、領主様がキメラを解き放ったぞ!?」
「殺される!みんな逃げろぉぉ!」
せっかく整列した列が崩れ、阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。
ガメル伯爵は、その様子を見て嗜虐的な笑みを浮かべた。
「はーっはっは!見ろ、人がゴミのようだ!恐怖に怯えろ!絶望しろ!それが余に逆らった報いだ!」
圧倒的な暴力による支配。
誰もが死を覚悟した、その時だった。
ピンポンパンポーン♪
戦場にはおよそ似つかわしくない、軽快なチャイム音が響き渡った。
『――あー、テステス。マイクのテスト中。……本日ご来店の皆様、落ち着いてください』
要塞のスピーカーから流れるアルトの声は、まるでテレビの通販番組の司会者のように明るく、そして不気味なほど落ち着いていた。
『ただいまより、当店自慢の「移動要塞・防衛パッケージ」の実演販売を行います!拍手!』
彼は指を鳴らした。
「展開しろ!『広域多重結界』!!」
ブォンッ!!
要塞の天頂部から、半透明の光の波動が爆発的に広がった。
それは巨大なドームとなって、広場にいる数千人の難民たちをすっぽりと包み込んだ。
「ひっ、来るぞぉぉぉ!」
「死ぬッ!お母ちゃーん!!」
住民たちが絶望の悲鳴を上げ、目を覆った。
ドォォォォォォォォォンッ!!!
鼓膜を破るような轟音が広場を揺らした。
だが――衝撃は来なかった。
「……え?」
恐る恐る目を開けた住民たちは、信じられない光景を目にした。
鼻先数センチのところで、半透明の光の壁――『広域多重結界』が、キメラの突進を完全に受け止めていたのだ。
5トンの巨体が時速80キロで体当たりした衝撃。普通の城壁なら粉々になっている威力だ。
だが、結界はガラス一枚割れるような音すらせず、波紋ひとつ立てていない。
「な、なんだこの光は……?」
「嘘だろ……無傷だ……!?」
「あんな怪物の体当たりを、傷一つなく……?」
住民たちが驚愕する中、カウンターの裏でアルトはマイク片手にウィンクをした。
『ご覧ください、この圧倒的な衝撃吸収性能!当店の結界なら、S級魔獣のタックルも「無かったこと」にします!お子様やペットがいるご家庭でも安心ですね!』
「す、すげえ……!」
「なんて頑丈なんだ……!」
「社長、素晴らしいプレゼンです!」
その横で、セレスが目を輝かせていた。
彼女の腰からは太い魔力ケーブルが伸び、コンソールに直結している。その体は青白く発光し、要塞の結界に莫大なエネルギーを供給し続けている最中だ。
まさに「電池」としてフル稼働中。だが、彼女の意識は別のところにあった。
「社長……あの子を見てください」
「ん?なんだ?」
「あの右足の筋肉……!程よい運動量で引き締まっていますが、きっと中は綺麗な霜降り(サシ)が入っていますよ……!」
セレスは、うっとりとした表情で頬を染め、懐からギラリと光るものを取り出した。
それは、要塞のキッチンに備え付けてあったはずの、「解体用包丁(ミスリル製)」だった。
「なっ……お前、いつの間にキッチンから持ち出した!?」
「え?戦闘準備(お料理の支度)の基本ですよね?」
セレスは聖女の微笑みで答えると、ケーブルを引きずりながら包丁を逆手に構えた。
「出力は安定しています。……私、このままケーブルの届く範囲で飛び出して『活け締め』にしてきましょうか?」
「座ってろ!断線したら停電だろ!」
初めて出会ったときの怯えていた少女はどこへ行ったのか。
美味しいご飯を与えすぎた結果、彼女の中で「魔獣=ごちそう」という図式が完全に成立してしまっている。
聖女の慈愛に満ちた笑顔で「脊髄切断」を提案する姿は、ある意味キメラよりも恐ろしかった。
「お前は店員(売り子)だ。……肉屋の仕事は『専門家』に任せろ」
アルトはセレスを制止すると、こほんと一呼吸置いて再びマイクに向かった。
『さて、安全性が証明されたところで……次は「害獣駆除機能」のご紹介です!シスターズ、3分クッキングの時間だ!』
『了解、マスター!粗大ゴミ、処理シマス!』
『食材ノ鮮度ハ、命デス!』
要塞の上部ハッチが開き、SDシスターズと、数機の小型撮影ドローンが飛び出した。
シスターズは可愛らしい手から、身の丈ほどもある「高出力レーザー・チェーンソー」を取り出す。
ブォンッ!ギュイイイイイイイッ!!
凶悪な駆動音。
キメラが本能的な恐怖を感じて後ずさる。だが、もう遅い。
『解体、開始!』
シスターズは残像を残すほどの高速で飛び回り、キメラに肉薄した。
『まずは下処理デス!筋ヲ切リマス!』
スパパンッ!
一瞬でキメラの手足の腱が切断され、巨体が地面に崩れ落ちる。
「ギ、ギャッ……!?」
『続イテ、硬イ骨ヲ外シマス!』
ズババババッ!!
外科手術のような精密さで、しかし暴力的な速度で、骨と肉が分離されていく。
アルトが実況を入れる。
『見てくださいこの切れ味!従来品の魔剣では刃こぼれしていたドラゴンの鱗も、当店のレーザー・チェーンソーなら、まるでバターのように!』
「すごい……!あの手際、勉強になります!」
セレスがメモを取りながら感心している。
「き、貴様らぁぁぁ!!」
その光景を見たガメル伯爵が、泡を飛ばして絶叫した。
「やめろ!やめるんだ!それは余の最高傑作だぞ!?最強の生物兵器だぞ!!」
「へえ。だから?」
「それを……それを!『豚肉』を見るような目で見るなァァァッ!!余の芸術を、食材扱いするなァァァ!!」
自分の切り札が、恐怖の対象ではなく「今日の晩ごはん」として処理されている。
その生理的な嫌悪感と屈辱に、ガメルは顔を歪めた。
だが、シスターズは止まらない。キメラを空中に放り投げ、空中で乱舞する。
『最後ニ、食ベヤスイサイズニ、カァァァァット!!』
空中で、肉塊が幾何学的な美しさで賽の目に刻まれる。
同時に、切断面が高熱で焼かれ、旨味を閉じ込める。
スタタンッ!
着地と同時に、シスターズの手には、綺麗に真空パックされた「高級肉のブロック」と「素材(骨・皮)」が、ピラミッド状に積み上げられていた。
所要時間、わずか30秒。
血の一滴すら飛び散っていない。
戦闘ではない。これは、ただの「食品加工プロセス」だ。
『清掃完了。……次ノゴミハ、ドコデスカ?』
返り血ひとつ浴びていないシスターズが、無垢な瞳で、残った領主を見つめる。
ウィィン、とチェーンソーが唸りを上げる。
その瞬間、結界の中で観戦していた住民たちの歓声が、ピタリと止んだ。
「……ひっ」
誰かが息を呑む音がした。
凄い。確かに凄い。だが――怖い。
あんな化け物を、一瞬で「食材」に変えてしまうなんて。
「あ……あぅ……」
ガメルは腰を抜かし、後ずさる。
プライドも、最強のペットも、全てパック詰めの肉にされた。
「さて、デモンストレーションは終了だ。次は――『お会計(請求)』の時間だぞ、領主様」
アルトはタラップを降り、ゆっくりと彼に歩み寄った。
その手には、長い長い羊皮紙――先ほどの「強制執行書」に続く、新たな「請求書」が握られている。
「ああ、安心しろ。そこの粗大ゴミ(キメラ)の『処分費用』と、食肉への『加工手数料』も、きっちり上乗せしておくぞ。……感謝して払えよ?」
ペットを殺され、肉にされ、その加工賃まで請求される。
そのあまりの理不尽と屈辱に、ガメルは白目を剥いて泡を吹いた。
※20251130全体の整合性を踏まえて修正しました。
解体ショー(実演販売)、開幕!
キメラ=高級肉。この世界の常識がまた一つ社長によって書き換えられました。
圧倒的な力の差を見せつけられた領主様、次回どうなる!?
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