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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: Ken
第1章 本日開業、アルト商会

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無料配布は、最強の攻撃です


「交渉決裂だ。……シスターズ。やれ」


アルトの冷徹な号令が、広場に響いた。

騎士団長の怒号と共に、数十人の兵士が槍を構えて殺到する。

システム制御外の、生身の暴力。

だが、アルト商会の「新入社員」たちは、微塵も動揺しなかった。


『了解、マスター。……資産保全アセット・プロテクション、開始シマス』


シュンッ!

目にも止まらぬ速さで、SDシスターズが展開した。

彼女たちのスカートの中から射出されたのは、凶悪な刃物――ではなく、極細の「ワイヤーアンカー」だった。


「な、なんだこれは!?」


先頭の兵士たちが足を絡め取られ、無様に転倒する。

直後、ワイヤーを通じて青白い電撃が奔流した。


バチチチチチッ!!!


「ギャアアアアアッ!?」

「ぐがッ……!?か、体が……痺れ……」


兵士たちが白目を剥いて痙攣し、次々と崩れ落ちる。

致死性はない。だが、神経系を直接遮断し、数時間は指一本動かせなくする「強制麻痺パラライズ」。


「ひっ!?」


その電撃の波が、後方にいた騎士団長にも迫った。

だが、彼は咄嗟に動いた。

自分の隣にいた若い兵士の襟首を掴み、ワイヤーの前に突き飛ばしたのだ。


「へ、団ちょ……!?」

「盾になれッ!!」


バチィッ!!

突き飛ばされた兵士が身代わりとなって感電し、騎士団長はその背後に隠れて難を逃れた。


「……はぁ、はぁ……!あ、危ないところだった……!」


自分だけ助かった騎士団長が、脂汗をかいて安堵する。

その足元には、痙攣する部下の姿。


「……おいおい。なんて『管理職』だ」


アルトは、その醜態を見て呆れ果てたように鼻を鳴らした。


「部下は使い捨てのコマか?……ウチじゃ考えられねえな。そんなコスト意識じゃ、組織は長持ちしねえぞ」


わずか数十秒。

広場を埋め尽くしていた衛兵隊は、ピクリとも動かない肉の絨毯と化した。

立っているのは、部下を盾にして生き残った、卑怯な騎士団長ただ一人。


「ば、化け物……!貴様ら、何者だ……!」

「ただの商売人だよ。……さて」


アルトは騎士団長を無視し、広場に集まっていた数千人の難民たちに向き直った。

彼らは恐怖に震えている。

新しい支配者が、自分たちをどうするのか。殺すのか、奪うのか。

だが、アルトが掲げたのは武器ではなかった。

彼は指を鳴らし、移動要塞の側面パネルを展開させた。


プシューッ……ガシャン、ガシャン!

重厚な装甲板がスライドし、変形していく。

現れたのは、銃座でもミサイルハッチでもない。

ネオンサインが輝く、洗練された「移動販売カウンター」だった。


「いらっしゃいませ!『アルト商会』、本日限りの開店記念セールだ!」


アルトがマイクパフォーマンスを開始する。

彼はカウンターの奥にあるサーバーのコックを捻った。

ガコン、という音と共に落ちてきたのは、ガラスのコップではない。

冷気を纏った、半透明の器――「氷のカップ」だった。


「み、水だ……!器まで凍っている……!」


難民たちがどよめく。

領主が売っていたのは、泥混じりの茶色い水だ。あんなに透き通った水は、見たことすらない。


「おい、そこの坊主」


アルトは最前列にいた、痩せこけた少年を手招きした。

少年は怯えながらも、乾きに耐えきれず近づいてくる。

アルトは氷のカップになみなみと水を注ぎ、差し出した。


「ほらよ。……試供品モニターだ。飲んでみな」

「い、いいの……?お金、ないよ……?」

「カネ?……ハッ、そんなもんいらねえよ」


アルトはニヤリと笑い、電子看板サイネージを掲げた。


【価格:0ゴールド(※ただし契約必須)】


「タダだ。持っていけ」


少年がおそるおそる氷のカップに口をつける。

その瞬間、彼の目が大きく見開かれた。


「……っ!?」


冷たい。甘い。そして、身体の芯から力が湧いてくる。

ただの水ではない。適度なミネラルと魔力が添加された、飲むポーションに近い代物だ。


「うま……美味いっ!!お母ちゃん、これすごいよ!!」


少年が叫び、一気に飲み干す。その顔色が、みるみるうちに良くなっていく。

その劇的な変化を見て、群衆の理性が崩壊した。


「タダ!?本当にタダなのか!?」

「くれ!俺にもくれ!!」

「子供が死にそうなの!お願い!」


パニック寸前の大盛況。

数千人の人々がカウンターに殺到しようとする。

だが、シスターズが素早く動き、群衆の前に立ちはだかった。


「待て。……タダとは言ったが、条件がないとは言っていない」


アルトの声が、冷徹に響く。

彼はカウンターに置かれた、青白く光る「水晶板」を指差した。


「この『顧客台帳』に魔力を登録しろ。そうすれば、お前たちは一生、ウチの『会員メンバー』だ」

「会員……?」

「そうだ。ウチの商品を優先的に受け取る権利と、俺たちからの『保護』を受けられる権利をやる。……その代わり」


アルトの目が、鋭く細められた。


「今後一切、他店(領主)の商品は買うな。もし裏切って泥水に手を出したら、即座に契約解除(BAN)だ。二度とウチの敷居は跨げないと思え」


それは、選択の余地のない「踏み絵」だった。

領主につくか、アルトにつくか。

生きるためには、この怪しげな男に魂を売る(個人情報を渡す)しかない。


「……か、買わない!あんな泥水、二度と飲むもんか!」

「契約する!お願いします!」


一人が叫ぶと、雪崩を打ったように全員が手を挙げた。

だが、数千人がカウンターの一箇所に殺到すれば暴動になる。


「シスターズ、散開!『ハンディ端末』で並列処理しろ!」

『了解。……モバイルカウンター、展開シマス』


シスターズたちが、エプロンのポケットからタブレット状の小型水晶板を取り出し、群衆の中へと散らばった。

彼女たちは高速で動き回り、次々と難民たちの手を端末にかざさせていく。


『ハイ、登録完了。次ノ方』

『ハイ、完了。水ハ、セレス様カラ受ケ取ッテクダサイ』


ピピッ、ピピッ、ピピピピッ!

凄まじい速度で電子音が鳴り響く。

人間業ではない。高度に連携された並列処理パラレル・プロセッシング

数千人の登録が、見る見るうちに消化されていく。


「な、なんだあの処理速度は……!?」


騎士団長が目を剥く。

役所の窓口なら数日かかる作業を、彼女たちは数分で終わらせようとしている。


「し、社長……。本当にいいんですか?これじゃ大赤字ですよ?」


セレスが不安げに、水を配りながら尋ねる。

水も食料もタダ。運送費も人件費もかかっているのに、一銭も入ってこない。


「甘いな、セレス」


アルトはカウンターの裏で、爆速でカウントアップしていく「会員数」を見て、獰猛に笑った。


「これは『投資(LTV)』だ。……今の領主には、もう売る水がない。システムを俺がロックしたからな」


彼は、遠くに見える巨大な貯水タンクを見上げた。

【SEIZED】のタグが輝き、弁は固く閉ざされている。


「競合他社が商品を出せない間に、圧倒的な品質と価格(無料)で市場を独占する。……ちなみに、そのカップも魔力で生成した氷だ。冷気は、要塞のエンジン冷却で発生した『余り(排熱)』を利用している。原価はほぼゼロ、飲み終われば溶けてゴミも出ない。完璧だろ?」


一度囲い込んでしまえば、後はどうとでもなる。

これは慈善事業ではない。

究極の「焼き畑農業ダンピング」だ。


「き、貴様らぁぁぁ!!」


その時、広場の隅で震えていた騎士団長が、泡を飛ばして絶叫した。


「よくも!よくも領主様の民をたぶらかしたな!こんなことが許されると思っているのか!」

「たぶらかした?違うな」


アルトは冷ややかに見下ろした。


「これは『自由競争』だ。……お前らの商品に魅力がなかった。ただそれだけだろ?」


その言葉がトドメだった。

民衆の視線が、騎士団長に突き刺さる。

かつての恐怖の対象。だが今は、部下を盾にして生き延び、自分たちを飢えさせていた無能な搾取者。


「……帰れ」

「お前なんか、守ってくれなかったくせに!」

「泥棒!金返せ!」


石が飛ぶ。

騎士団長は悲鳴を上げ、逃げ出した。

武力でも、経済でも、そして民意でも。

領主の支配は、この瞬間、完全に崩壊した。


「よし。……第一段階、完了だ」


アルトは満足げに頷き、配給を続けるセレスに目配せした。

だが、その直後。


ズズズズズ……ッ!

街の奥、領主の館の方角から、不穏な地響きが伝わってきた。


「おのれぇぇぇッ!!余の商売を邪魔するゴミ虫どもめぇぇぇ!!」


怒号と共に現れたのは、豪華な鎧を着込んだ豚のような男――ガメル伯爵。

そして、彼が引き連れているのは、鎖で繋がれた異形の怪物。

獅子の頭、山羊の胴、蛇の尾を持つ、合成魔獣キメラ


「タダで済むと思うなよ!?その車も、女も、肉片に変えてやる!!」


暴力による「営業妨害」のお出ましだ。

だが、アルトはマイクのスイッチを入れると、ニヤリと笑った。


『いらっしゃいませ、領主様。……ちょうど今、お客様の前で、当店の「セキュリティ性能」を実演販売デモしたかったところなんですよ』

※20251130全体の整合性を踏まえて修正しました。

「タダより高いものはない」を地で行くアルト社長。

ラスト、ついに領主様(クレーマー兼カモ)がご来店です。

少しでも「スカッとした!」「ざまぁ楽しみ!」「続き気になる!」と思っていただけたら、

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次回、解体ショー!お楽しみに!

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