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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: Ken
第1章 本日開業、アルト商会

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移動要塞は、快適な我が家です


夜が明けた。

鉛色の空から、毒々しい薄日が差し込む頃。

かつて世界を恐怖に陥れた魔王城ガルガンチュアは、その歴史上、最も情けない姿を晒していた。

堅牢だったはずの城門は消滅し、外壁の黒曜石は虫食いのように剥ぎ取られている。

広場には、無数の「建設用ゴーレム」たちが倒れ伏し、動かなくなっていた。彼らは昨夜、アルトによってシステムをハッキングされ、文字通り限界まで酷使された「臨時派遣社員」たちだ。


「……できた。完璧だ」


アルトが、油と煤で真っ黒になった顔で呟き、制御端末を放り投げた。

その目は充血しているが、表情には狂気じみた満足感がある。

前世でデスマーチを乗り越えた時と同じ、達成感と疲労の入り混じった顔だ。


「おい、新入り。起きろ。……『新社屋』の完成だ」


アルトに呼ばれ、資材の陰で仮眠を取っていたセレスが目を覚ます。

そして、目の前に鎮座する「それ」を見て、絶句した。


「え……?こ、これが……一夜で?」


そこに在ったのは、もはやリヤカーなどではなかった。

全長8メートル。魔王城から剥ぎ取った漆黒の装甲板(高純度黒曜石)が、幾重にも重なり合い、鋭角的な多面体フォルムを形成している。

足回りは、ガーゴイルから奪った「オリハルコン・サスペンション」を組み込んだ、頑丈な6輪駆動。

それは、荒野を走る戦車であり、同時に移動する城塞だった。


「信じられない……。社長一人でこれを?」

「馬鹿言え。俺一人でやれるわけねぇだろ」


アルトは倒れ伏すゴーレムたちを指差した。


「城のメインシステムをハッキングして、城内の『建設用ゴーレム』と『修復アーム』を総動員させたんだよ。数百体の人海戦術だ。……使い潰して壊れちまったがな」

「で、でも、魔王城のシステムなんてどうやって……?」

「セキュリティが数百年更新されてない『ホール』だらけのレガシーシステムだったからな。おまけに、倒したガーゴイルから引っこ抜いたバネ……あれに『管理者タグ』が埋め込まれててな。それを偽装スプーフィングして、俺が『現場監督』になりすましたんだよ」


敵を倒した際に、パーツだけでなく「パスワード」まで奪っていたのだ。

魔王の城を直すためのシステムを、魔王の城を解体してリヤカーに移植するために悪用する。

それは、廃業した会社の資産を骨までしゃぶり尽くす、企業再生屋の手口そのものだった。


「名付けて『移動要塞アルト・ワークス』。……見たデザインはどうでもいい。重要なのは中身(福利厚生)だ。入れ」


アルトは鼻を鳴らし、側面の重厚なドアを開放した。

プシューッ、と心地よいエアパージ音が響き、自動でタラップが展開される。

セレスがおそるおそる中へと足を踏み入れる。

その瞬間、彼女は息を呑んだ。


「なんということでしょう……!」


中は、別世界だった。

外の殺伐とした景色が嘘のように、そこには静寂と温もりが満ちていた。

壁には断熱・防音効果のある魔法木材が張られ、柔らかな間接照明が室内を照らしている。

空調は完璧に制御され、荒野特有の粉っぽさも、死臭も一切ない。


「ここがリビング兼オフィスだ。壁をぶち抜いたら『宝物庫』に行き当たってな。そこにあった『竜の皮』をソファに使ってみた。座り心地はどうだ?」


促されるまま、セレスはリビングエリアに置かれた深紅のソファに腰を下ろした。

体が沈み込むような感覚。


「ふ、ふかふかです……!王宮の椅子より気持ちいいかも……」


セレスは夢見心地で頬を緩める。

だが、アルトは彼女の汚れた服を見て眉をひそめた。


「だが、その汚い格好で寛ぐな。居住空間(オフィス環境)が汚染される」

「あ、すみません……」

「まずは清潔にしろ。ついてこい」


アルトが案内したのは、部屋の奥にある小さな個室だった。

ドアを開けると、そこはピカピカに磨かれたユニットバスだった。


「バスルームだ。エンジンの廃熱を利用した『魔力循環式・温水シャワー』を完備した」

「お風呂……!?でも、お水はどこから?」

「城の『地下貯水タンク』を見つけたんでな。そこからポンプで吸い上げて、空間圧縮タンクに限界まで詰め込んだ。当分は使い放題だ」

「す、すごいです……!」


セレスは目を丸くした。この世界で、毎日温かいシャワーを浴びられる人間など、王族か大貴族くらいだ。

ましてや、こんな廃棄場のど真ん中で。


「さっさと入れ。……ああ、服はそこのボックスに入れとけ。洗濯機(これも城からパクった)で洗っとく」

「は、はい!ありがとうございます!」


セレスはアルトを押し出すようにしてドアを閉めた。

数分後。シャワーの音と共に、彼女の感嘆の声が漏れ聞こえてくる。


「はぁぁ……あったかい……」


温かいお湯。石鹸の香り。

身体にこびりついた汚れと共に、心に張り付いていた「惨めさ」が洗い流されていく。

ここは戦場でも、廃棄場でもない。守られた「家」なのだ。


その間、アルトはリビングで端末を操作していた。

彼はコーヒーメーカー(自作)で淹れた熱いコーヒーを啜りながら、独りごちた。


「社員に不潔な格好をさせるのは、経営者の恥だからな」


前世での記憶が蘇る。

風呂に入る時間もなく、会社に泊まり込み、汗臭いスーツで客先へ謝りに行かされた日々。

人としての尊厳を削り取られるような、あの感覚。


「(二度と御免だ。……俺の会社じゃ、絶対に「人間らしい生活」を保証する)」


それは、彼の強欲さの裏にある、譲れない美学だった。


その時、バスルームのドアが開いた。


「――さっぱりしました!」


湯気を立てながら出てきたセレスは、まるで別人のようだった。

泥が落ち、本来の透き通るような白い肌と、艶やかな銀髪が露わになっている。

アルトが用意した、少し大きめの作業用シャツ(新品)をワンピースのように纏った姿は、生命力に満ちていた。


「……っ」


アルトの手が止まった。

拾った時は泥だらけのボロ雑巾だと思っていたが、磨けばこれほどまでに輝く「宝石」だったとは。

資産価値ポテンシャルを見誤っていたかもしれない。


「どうですか、社長?変じゃないですか?」

「……あ、ああ。悪くない」


アルトは慌てて視線を逸らし、コーヒーカップに口をつけた。

熱いコーヒーで、顔の熱をごまかす。


「(……投資の価値はあったな)」


彼は心の中で呟いた。

この笑顔と清潔な空間を守るためなら、魔王城の一つや二つ、解体した甲斐があるというものだ。


「さて、拠点がデカくなった分、管理の手が足りん。……おい、起動しろ」


ウィーン……。

部屋の隅の充電ステーションから、3体の小さな影が現れた。

身長50センチほど。無骨な金属ボディに、不釣り合いなほど可愛らしいメイド服風のエプロンをつけ、頭には猫耳のようなセンサーがついている。


『起動シマシタ、マスター。御命令ヲ』

『オ掃除、オ掃除!汚レハ、敵デス!』

「名付けて『SDシスターズ』だ」


アルトは満足げに頷き、その小さなボディをポンと叩いた。


「城の倉庫に転がってた『自律清掃ゴーレム』を拾ってきて、OSを書き換えた。……こいつら、魔王城の危険廃棄物処理用だけあって、駆動系モーターの出力が戦車並みにイカれてるんだよ。フレームも無駄に頑丈だ」

「えっ?せ、戦車……ですか?こんなに小さいのに?」

「ああ。ハードウェア(肉体)の性能は一級品だ。……だが、肝心の制御チップ(脳みそ)がポンコツでな。今のままじゃ、その馬鹿力で床を磨くことくらいしかできん」


アルトは肩をすくめた。


「宝の持ち腐れだが、まあ掃除係としては優秀だ。……外装がボロかったから、宝物庫のレースカーテンで服を作ってやったが……悪くないな」


ゼロから作ったのではない。あるものを再利用リサイクルして最適化する。

それが彼の流儀だ。


「よし」


アルトは運転席へと移動し、複雑な計器が並ぶコックピットに座った。

巨大なハンドルを握る。


「家もできた。風呂もある。労働環境はホワイトだ。次は――」


エンジンキーを回す。

重厚で力強いエンジン音が響き渡った。だが、その音は驚くほど遠くに聞こえる。防音性能も完璧だ。

アルトはコンソールに表示された収支計算書を見て、眉をひそめた。画面は依然として、真っ赤な数字(大赤字)を表示している。


「商売だ」

「商売、ですか?」

「ああ。これだけの設備投資リフォームで、手持ちの予備パーツはすっからかんだ。……せっかくの『商品(技術)』だ。この世界に高く売りつけて、回収してやる」


移動要塞「アルト・ワークス」が、ゆっくりと動き出す。


「……揺れない!?」


セレスは驚愕した。外は瓦礫だらけの荒野のはずだが、振動が全くない。まるで氷の上を滑るようだ。車内のコーヒーカップの水面すら、微動だにしない。


「当然だ。オリハルコン・サスペンションの性能スペックを舐めるな。……これなら、スープもこぼれん」


アルトは一人、満足げに頷いた。


数時間後。

灰色の霧の向こうに、巨大な防壁が見えてきた。


「……見えてきたな。最初の目的地、城塞都市『バルガン』だ」

※20251130全体の整合性を踏まえて修正しました。

劇的ビフォーアフター!移動要塞、完成です!

セレスも綺麗になって、可愛い新メンバー(備品)も登場!

少しでも「すごい!」「住みたい!」「SDシスターズ可愛い!」と思っていただけたら、

ブックマークや評価(ページ下の☆☆☆☆☆)で応援をお願いします!

次回、いざ、最初の街へ!

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