星(ガイア)は、優良物件になりました
ドクンッ!!!!
地下遺跡の最深部で、アルトとセレスが押し込んだレバーが、星の運命を決定づけた。
二人の寿命を燃料にした、最後の一撃。
それが起爆剤となり、停止していた星の循環機能が、爆発的に再始動する。
シュゥゥゥゥ……!
遺跡のパイプから、黒い煙ではなく、清浄な青い光が溢れ出した。
それは地脈に乗って、地上の隅々へと拡散していく。
・ ・ ・
地上。アーク・ロイヤル。
空を見上げていた元・市長や市民たちが、信じられないものを見たように目を見開く。
「おい……見ろ!霧が……!」
数百年もの間、人類の頭上を覆っていた絶望の「黒い霧」が、急速に晴れていく。
雲が割れ、そこから差し込んだのは、突き抜けるような「蒼穹」と、眩しい「太陽」の光。
「あ、明るい……!これが、お天道様か……!」
さらに、奇跡は足元でも起きていた。
ひび割れた荒野から、ポコポコと緑の芽が吹き出し、見る見るうちに大樹へと成長していく。
アルトたちが投入した莫大な「資金」が、枯れ果てた大地を強制的に潤し、緑の海へと変えていく。
死に体だった惑星が、呼吸を始めたのだ。
・ ・ ・
「……ふぅ。工事完了だな」
地下遺跡で、アルトは額の汗を拭った。
目の前のコンソールには、全てのパラメータが「オールグリーン(正常)」を示している。
『……信じられません。星の寿命パラメータが、全盛期の水準まで回復しました』
ガイアのアバターが、呆然とアルトを見つめる。
『貴方は、何者ですか?救世主の定義コードには該当しませんが……』
「ただの社長だ。……それより、忘れてねえだろうな?」
アルトは、空になった財布をポケットにしまい、コンソールを叩いた。
「『対価』だ。……これだけの投資をしたんだ。リターンをよこせ」
『……承知しました。契約に基づき、本システムの「管理者権限」を譲渡します』
ピロン♪
軽快な電子音と共に、システムログが書き換わる。
【SystemOwner : AltoCorp.(CEO:Alto)】
【AssetValue : PlanetEarth(Priceless)】
「……よし。商談成立だ」
アルトはニヤリと笑った。
この瞬間、地球という惑星そのものが、名実ともに「アルト商会」の所有物(自社ビル)となったのだ。
「……バカな。計算外だ」
その光景を見ていたメサイア(元教皇)が、震える声で呟いた。
彼は数千年の間、この星の死を確定事項として受け入れ、諦めていた。だからこそ、地上を捨てて空へ逃げたのだ。
「物理法則も、運命も……金と暴力でねじ伏せて、本当に書き換えてしまうとは……」
メサイアは、アルトの背中を見つめ、どこか晴れやかな顔で笑った。
「……完敗だよ、新オーナー。君は最高の『バグ』だ」
かつての神が、一人の商人に敬意を表した瞬間だった。
「社長……!」
へたり込んでいたセレスが、涙目でアルトに抱きつく。
髪の一部が白くなった彼女は、けれど今までで一番美しく笑っていた。
「生きてます……!私、生きてますよ……!」
「当たり前だ。死なせるために金を使ったんじゃねえ」
アルトは、彼女の頭を乱暴に撫でた。
その髪は、自分の髪と同じ、美しい純白に染まっている。
「喜べセレス。今日からこの星は、俺たちの『庭』だ。……管理業務、忙しくなるぞ?」
「はいっ!……喜んで、お供します!」
セレスが満面の笑みを咲かせる。
それは、どんな宝石よりも輝く、最高の笑顔だった。
「さて、と」
アルトは地上へのエレベーターに向かいながら、懐の通信機を取り出した。
「仕上げだ。……おい、ラビ、セレーネ。聞こえるか?」
『ん。準備できてる』
『いつでもいいぞ!……まったく、貴様はどこまで悪趣味なんだ』
地上に出たアルトたちは、見違えるように美しくなった世界を目にする。
緑の大地。青い海。澄み渡る空。
市民たちが感動の涙を流し、アルトたちに向かって感謝の祈りを捧げようとしている。
「おお、救世主様……!」
「神よ、感謝します……!」
「……ケッ。湿っぽいのは柄じゃねえな」
アルトは空を見上げ、指を鳴らした。
「感動のフィナーレなんて見せてたまるかよ。……俺たちは『商売人』だろ?」
ドォォン!!
上空の要塞から、特殊なスモーク弾が発射された。
それは青空に広がり、巨大な「文字」を描き出す。
世界中の人間が見上げる空に、白雲で描かれたのは――
【請求書:¥9,999,999,999,999,999...】
【支払期限:人類が滅びるまで(※分割可、リボ払い不可)】
「……は?」
祈っていた市民たちが、ポカンと口を開ける。
感動の涙が引っ込み、現実に引き戻される。
「おい地球人!タダで直してもらえると思ったか!?」
アルトが、要塞の拡声器を使って全世界に怒鳴り散らす。
「こっちは全財産スッたんだ!ガメルなんて過労死寸前だぞ!……今日からお前らは全員、ウチの『テナント(店子)』だ!家賃分くらい、死ぬ気で働いて返せよォォォッ!!」
呆然とする人々。
そして、爆笑するセレーネとラビ。
頭を抱えるガメル。
そして、呆れながらも幸せそうに微笑むセレス。
全員が声を揃えて、最高の笑顔で叫んだ。
「「「台無しだよ!!!!」」」
救世主からの、容赦ない請求。
それが、新しい時代の幕開けだった。
・ ・ ・
――数ヶ月後。
再生した地球は、かつてない活気に満ちていた。
アルト商会の管理下で、古代技術と月面技術が開放され、文明レベルは数百年分も跳ね上がった。
人々は「家賃(税金)」を払うために必死で働き、その結果、世界経済は爆発的な成長を遂げていた。
借金という名の「生きる目的」が、人々を走らせているのだ。
だが。
平和になった執務室で、アルトは退屈そうに窓の外を眺めていた。
「……暇だ」
「贅沢な悩みですね、社長。世界征服した直後なのに」
副社長になったセレスが、大量の決裁書類を運び込んでくる。
彼女の白い髪は、丁寧に編み込まれ、以前よりも大人びた美しさを放っていた。
「管理業務なんて性に合わねえんだよ。……俺は『開拓』がしたいんだ」
アルトは椅子を回転させ、天井を指差した。
そこには、モニターに映し出された「銀河図」がある。
そして、一件の通信が入っていた。
【S.O.S.from Andromeda Sector】
【報酬:未発見の超レアメタル鉱脈】
「……へっ。また『いいカモ』が釣れたみたいだな」
彼の目は、まだ死んでいなかった。
むしろ、より大きな獲物を見つけ、ギラギラと輝いている。
「地球の市場は制圧した。……次は『銀河』だ」
「行くぞセレス。……要塞を『恒星間航行モード』に改装だ」
アルトが立ち上がる。
セレスは苦笑し、けれど嬉しそうに頷いた。
「もう、しょうがないですね」
彼女は、アルトの白髪交じりの頭を、背伸びして優しく撫でた。
「どこまでもお供します、社長。……宇宙の果てまで、商売に行きましょう!」
機動要塞アルト・アガルタ。
その巨体が、再び重力を振り切り、星の海へと浮上していく。
目指すは、未だ見ぬ異星の市場。
強欲な商人と、最強の聖女の旅は、まだ始まったばかりだ。




