魔王城は、ホームセンターです
ズガァァァァァァァンッ!!!!!
激しい衝撃音と共に、半壊したリヤカーが城門前の広場に突っ込んだ。
車体の底面が石畳を削り取り、派手な火花を散らして横転する。
「……ぐぅッ」
「け、ケホッ……」
横倒しになったコックピットから、アルトとセレスが這い出す。
セレスは生きた心地がしなかった。文字通り、死の淵からの生還だ。
彼女は震える声で、目の前にそびえ立つ禍々しい黒い巨塔を見上げた。
「こ、ここが……魔王城ガルガンチュア……!?」
「ああ。……到着だ」
アルトは血を手の甲で乱暴に拭い、全損に近いリヤカーを蹴っ飛ばした。
そして、懐から一枚の羊皮紙――魔王城の「構造図」を広げた。
それは以前、闇市で「紙くず」として売られていたものを、いつか『仕入れ』に来るために買っておいたものだ。
「えーっと、現在地は正面入り口……。お目当ての『断熱材売り場(外壁)』はここだな。……よし、動線は完璧だ」
「しゃ、社長?なんで『お買い物』の顔をしてるんですか……?」
セレスが引きつった顔で問う。
ここは人類未踏の魔境だ。だがアルトの目は、休日のホームセンターに来たDIY愛好家のそれだった。
ギギギ……ゴゴゴゴゴ……。
その時、広場の奥から、腹に響く駆動音が聞こえた。
城門を守るように鎮座していた二体の巨大な石像が、赤く目を光らせて動き出したのだ。
身長10メートル。悪魔の翼と、鋭利な爪を持つ石の巨人。
S級指定魔獣、ガーゴイル・ロード。
「ひっ……!動き出しました!殺されます!」
「落ち着け。……店員が挨拶に来ただけだ」
アルトはニヤリと笑い、迫りくるガーゴイルに向かって手を振った。
そして、低い声でガーゴイルに「アテレコ」を始めた。
「(裏声で)『いらっしゃいませー!本日は魔王城へようこそー!特価品をお探しですかー?』……だってよ」
「言ってません!殺意しか感じません!」
ズシン、ズシン。
ガーゴイルが歩み寄ってくる。推定重量15トン。
だが、その足音は驚くほど静かで、振動がほとんどない。
アルトがゴーグルを操作すると、視界(HUD)に赤いターゲットボックスが表示された。
ガーゴイルの膝関節に、幾何学的な解析ログが滝のように流れる。
[Target : KneeJoint]
[Material : Orichalcum-Alloy(純度98%)]
[Durability : S+]
[MarketValue : 85,000,000G]
「(……ビンゴだ!あの輝き、あのバネ定数……!)」
アルトの口元が歪む。
彼の目には、もはや怪物は映っていない。歩く「8000万ゴールドの札束」がそこにいた。
「(間違いねえ、幻の『オリハルコン・サスペンション』だ!ネット通販じゃ常に在庫切れの激レアパーツだぞ!)」
リストにはなかった極上の掘り出し物。
これがあれば、どんな悪路でもスープはこぼれない。
「セレス!予定変更だ!あの『バネ』をカートに入れるぞ!」
「入れるって……相手は動いてますよ!?」
「動く在庫(ビチビチの鮮魚)だと思え!新鮮でいいじゃねえか!」
アルトはゴーグルを装着し、横倒しになったリヤカーのコンソールに飛びついた。
サブ電源を入れる。
ウィィィン……。生き残っていた作業用アームが、不気味に鎌首をもたげる。
「固定アンカー(パイル)、射出ッ!地面に食らいつけ!」
ドォン!!
リヤカーが地面に杭を打ち込み、固定砲台と化す。
『ガァァァッ!!』
ガーゴイルの巨拳が振り下ろされる。
アルトはそれをアームで受け止めるのではなく、紙一重でかわしながら、その膝関節をアームでガッチリと掴んだ。
「捕まえたぞ!……『引っこ抜き(プライヤー)』モード!」
「んんん~~~~っ!!!」
ミシミシ、ガギィィィン!!
固定アンカーが軋み、地面がめくれ上がる。
ガーゴイルがバランスを崩して暴れる。
『ガガガガッ!?ア、足ガァァァ!!』
メリメリメリッ……!
金属が擦れる嫌な音と共に、巨大なバネが、ガーゴイルの体内から無理やり引きずり出されていく。
その時。
城内のスピーカーから、無機質な女性の電子音声が響き渡った。
『ピンポンパンポーン♪警告。警告。正面入り口にて、万引きが発生しております』
『お客様、商品はレジを通してください。繰り返します、精算前の商品の持ち出しは犯罪です』
「万引き……!?」
セレスが絶句する。
だが、アルトは顔を真っ赤にして、スピーカーに向かって逆ギレした。
「うるせぇ!!俺は客じゃねえ!新しいオーナーだ!!」
『エラー。オーナー登録が確認できません』
「これからするんだよ!『敵対的買収(力ずく)』でなァ!!」
アルトはレバーを限界まで引き絞った。
「抜けてこいッ!俺の快適な生活のためにィィィッ!!」
スポォォォンッ!!
「確保ォッ!!」
巨大な虹色のバネが宙を舞い、地面に転がる。
同時に、支えを失ったガーゴイルは、自分の体重を支えきれずに無様に崩れ落ちた。
ズゴォォォォォン!!!
『機能……停止……。在庫、損耗……』
土煙が晴れる。
そこには、片足のパーツを抜かれただけで鉄屑と化したS級魔獣の残骸があった。
「……ふぅ。傷なし、完品だ」
アルトは転がっている巨大なバネを愛おしげに撫でた。
「素晴らしい……。これさえあれば、振動ゼロの夢のマイホームが手に入る」
「社長……。本当に、万引きしちゃいました……」
セレスが呆然とする。
剣も魔法も使わず、ただ「店員から商品をひったくって」怪物を無力化したのだ。
『警告。悪質な万引き犯に対処するため、警備員を呼び出します』
スピーカーから、無情な追加アナウンスが流れる。
城の奥から、無数の地響きが近づいてくるのが分かった。数百体の建設用ゴーレムの足音だ。
「ひぃっ!?け、警備員が来ます!今度こそ警察沙汰ですよ!」
「万引きじゃねえ。『現地調達』だ」
アルトは工具箱を担ぎ、不敵に笑った。
その顔は血と油で汚れているが、目は週末のDIYパパのように輝いている。
「ちょうどいい。人手が欲しかったところだ。……まとめて『臨時派遣社員』として雇ってやるよ!」
「えっ、全部やるんですか!?」
「当たり前だ!店ごと解体して、このボロ車を最強の要塞にリフォームするんだよ!」
魔王城という名のホームセンター。
そこは今、強欲な技術者によって、またたく間に「更地」へと変えられようとしていた。
※20251130全体の整合性を踏まえて修正しました。
S級魔獣 vs スープをこぼしたくない技術者!ブックマークや評価(ページ下の☆☆☆☆☆)で応援をお願いします! 次回、劇的ビフォーアフター!お楽しみに!




