表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: 朔夜
第3章 空中都市と空飛ぶ請求書

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/53

富裕層エリアは、思考停止した家畜小屋です


第2階層の「鉄と油の地獄」を抜け、アルトたちが辿り着いたのは、目が眩むような「光の楽園」だった。


アガルタ第3階層・無限享楽都市。

そこは、永遠に夜が来ない「白夜」の街。

空には人工のオーロラが揺らめき、クリスタルで作られた高層ビル群が、宝石のように輝いている。

街中に甘い香水が漂い、どこからともなく優雅なワルツが流れている。


「……綺麗ですね、社長。さっきの工場とは大違いです」


セレスがドレスの裾を直しながら呟く。

その横には、工場で新調したばかりの「新型ボディ」に換装したSDシスターズたちが、フリル付きのスカートを翻して整列している。


『空気清浄度、AAランク!』

『でも、なんか変な匂いがしまーす』


アルトの表情は険しかった。

義眼のサーマルセンサーで周囲を警戒しているが、返ってくる反応がおかしい。


「綺麗すぎるな。……生活感ノイズがなさすぎる」


彼らが歩いているのは、都市の中央広場。

そこでは、煌びやかな衣装を纏った「貴族」たちが、数百人規模で舞踏会を開いていた。

男はタキシード、女はドレス。そして全員が、精巧な細工が施された「仮面」をつけている。


「オホホホ!素晴らしい夜ですわ!」

「ええ、ええ!最高ですとも!」


笑い声。グラスを合わせる音。

一見、優雅な社交界だ。

だが、アルトは決定的な違和感に気づいていた。


「(……誰も、料理に手をつけていねえ)」


テーブルには山海珍味が並んでいるが、誰も食べていない。

グラスの中身も減っていない。

彼らはただ、音楽に合わせて機械のように体を揺らし、定型文のような会話を繰り返しているだけだ。

まるで、プログラムされたNPCのように。


「……おい、アンタ。ちょっといいか?」


アルトは、近くにいた貴族の男の肩を掴んだ。

男は振り返る。美しい陶器の仮面が、アルトを見据える。


「おや?珍しいお客様ですね。……『幸せ』ですか?」

「あ?いや、道を聞きたいんだが……」

「そうですか!それは『幸せ』ですね!オホホホ!」


会話が成立しない。

壊れたレコードのように、肯定の言葉だけを垂れ流す。


「……チッ。ラチが明かねえ」


アルトは苛立ち、男の胸倉を掴んだ。


「仮面を取れ。……その裏でどんな顔をしてやがる?」


彼は強引に、男の顔から仮面を引き剥がした。


バリッ。


仮面が外れる。

その下に現れた素顔を見て、セレスが悲鳴を上げた。


「ひっ……!?」


そこには――「顔」が無かった。

目も、鼻も、口もない。

傷跡すらない、つるりとした肌色の曲面。

まるで、作りかけのマネキンのような「未実装」の顔。

唯一存在するのは、後頭部に深く突き刺さった、太い「供給チューブ」だけ。

そのチューブを通して、ピンク色の蛍光液が、脳髄へと直接送り込まれていた。


「……なっ!?」


アルトが絶句する。

男は顔がないまま、痙攣するように笑い声を上げ続けている。

いや、その声は口から出ているのではない。


『オホ……オホホ……』

『幸セ……幸セ……』


喉元に埋め込まれた小さなスピーカーから、ノイズ混じりの電子音声が再生されているのだ。

感情すらも、システムによって出力された「録音データ」。

視覚も、味覚も、言葉すらも奪われ。

ただ脳に直接「快楽物質ドラッグ」を流し込まれ、強制的に幸福を感じさせられているだけの肉塊。


「これが……貴族?」


アルトは周囲を見回した。

ここにいる全員が、仮面の下は同じなのか?

踊っているのは人間じゃない。

チューブで繋がれ、快楽漬けにされた「家畜」だ。


ザザッ……ザザザッ……!


その時、広場の上空から、耳障りなノイズが降ってきた。

スポットライトが明滅し、一人の怪人が現れる。

派手な道化師ピエロの衣装。手にはジャグリングの玉。

だが、その顔は「巨大なスピーカー」になっていた。


【エリア管理者:享楽の道化師『ジョーカー』】

【業務内容:ドーパミン管理・廃棄処分】


『ヨウコソ、ザザッ、アルト商会!ココハ……憂いモ……苦シミモナイ、完全ナル……ザザッ、消費ノ楽園サ!』


ジョーカーの声は、複数の音声ファイルが不快に重なり合い、時折バグったように音飛びしている。

その動きも異様だった。

フレームレートが欠けたように、カクカクと不自然な挙動で空中を移動し、着地する。


『彼ラハ選バレタエリート!労働カラ解放サレ、思考スル必要モナク、タダ死ヌマデ「気持チイイ」ダケヲ感ジ続ケル!……ドウダイ?羨マシイダロウ?』


スピーカーの顔面が、ハウリング音と共に激しく振動する。

それはまるで、壊れかけた遊園地のアトラクションのような、生理的な不気味さを放っていた。


「……思考を奪って、薬漬けか」


アルトは、足元ののっぺらぼうを見下ろし、吐き捨てるように言った。


「羨ましくねえな。……こいつらは『消費者』じゃねえ」


彼は背中の鉄パイプ――いや、武器庫から奪った電磁警棒を改造した「魔改造スタン・ロッド」を構えた。


「消費ってのはな、自分の意志で選んで、自分の舌で味わうから価値があるんだ。……チューブで餌を流し込まれるだけの肉に、商売ビジネスの相手は務まらねえ!」


アルトにとって、これは顧客への冒涜だ。

思考停止した人間は、金を払わない。文句も言わない。

それは市場にとって「死んだ在庫」と同じだ。


『オヤオヤ?ザザッ……分カラナイカナァ?』


ジョーカーが首をかしげる。その首が、あり得ない角度までギギギと回転した。


『思考ナンテ、不幸ノ元ダヨ?アナタ達モ、コノ「ハッピー・ジュース」ヲ飲メバ分カルサ!』


彼が指を鳴らすと、貴族たちの後頭部のチューブから、ピンク色の霧が噴き出した。

猛烈な甘い香り。

吸い込めば一瞬で理性が飛び、脳が溶けるような多幸感に包まれる、高濃度の神経ガス。


「社長!毒ガスです!」

「構うな!……シスターズ、換気だ!」


アルトは広場を取り囲むクリスタルのビル群を指差した。


「あのビルはただの飾りだ!内部構造図によれば、中身は巨大な『環境制御用エア・ダクト』だぞ!……ぶち壊して『強制排気』させろ!!」

『『『了解ラジャ!ダクト開放、全力吸引!』』』


シスターズが飛翔する。

新品の「Ver.2.0」ボディに換装された彼女たちの出力は、以前とは桁違いだ。

スカートの中からマイクロミサイルを展開し、クリスタルの外壁に向かって一斉射撃を行う。


ガシャアアアアン!!


美しい外装が砕け散り、剥き出しになった巨大なファンが暴走を始める。


ゴオオオオオオオオッ!!


強烈な吸引力が生まれ、広場に充満していたピンク色のガスが、一瞬で上空へと吸い出されていく。


『ザザッ……小賢シイ!ナラバ、彼ラト踊リナサイ!』


ジョーカーが怪しい電波を放つと、ガスが晴れたはずの広場で、貴族たちがガクガクと不自然な動きを始めた。

操り人形のように手足を突っ張らせ、一斉にアルトたちへ襲いかかってくる。


「《オ……オホホ……殺シテ……殺シテ……》」


口では笑いながら、体は殺意を持って迫る。システムに強制操作された、哀れな肉壁。


「くっ、一般人を盾にかよ!」

「社長、彼らを傷つけるわけには……!」

「分かってる!……シスターズ!『非殺傷モード』だ!気絶させろ!」


了解ラジャ!スタン・バトン、展開!』


シスターズが、武装を切り替える。

彼女たちの新しい腕部ユニットから、高電圧を帯びた「制圧用ロッド」が展開された。


『痛くないデスヨ!』

『ちょっとビリっとしマス!』


バチッ!バチチッ!


シスターズは、襲い来る貴族たちの懐に飛び込み、的確に急所へ電流を流し込む。

最小限の出力。後遺症を残さず、意識だけを刈り取る神業(職人芸)。


「《ア……アァ……》」


糸が切れたように、貴族たちが次々と崩れ落ちていく。

道を塞ぐ肉壁が、優しく排除されていく。

その隙間から、無防備になったジョーカーの姿が見えた。


「今だセレス!本丸はお前がやれ!」

「はいっ!」


セレスが駆け出す。

シスターズが切り開いた道を、純白のドレスを翻して疾走する。


「宴は終わりだ、ポンコツピエロ。……俺たちが『現実バッドトリップ』を届けてやる!」


アルトの叫びと共に、セレスの拳が光を帯びる。

第3階層攻略戦。

それは、洗脳された家畜たちを「人間(客)」に戻すための、荒療治の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ