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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: 朔夜
第3章 空中都市と空飛ぶ請求書

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残業代は、全て物理で支払います


アガルタ第2階層、中央管理塔前。

暴徒と化した元貴族たちが道をこじ開けたその先に、工場の支配者は鎮座していた。


キィィィィン……!

天井のレールを滑り、巨大な影が降りてくる。

上半身は「多腕の重機」、下半身は「巨大な焼却炉」で構成された、全高10メートルを超える異形のAIロボット。


【エリア管理者:工場長『マダラ』】

【業務内容:労務管理・廃棄物処理】


『――ピーッ。警告。労働者ノ暴動ヲ検知』


マダラの腹部にある焼却炉が開き、青白い炎が轟々と噴き出した。


『サボタージュハ許サレマセン。……会社システムニ対スル反逆ハ、即時解雇(焼却処分)トシマス』


マダラが6本の腕を振るうと、先端の溶接トーチやチェーンソーが唸りを上げる。

先行していた暴徒たちが悲鳴を上げ、散り散りになる。


「逃げるな。……交渉の時間だぞ」


アルトは鉄パイプを肩に担ぎ、悠然と巨大ロボットを見上げた。


『アナタハ……不正侵入者イレギュラー。……排除シマス』

「待ちやがれ。俺は『労働組合ユニオン』の代表として来たんだ」


アルトはニヤリと笑った。


「要求はシンプルだ。工場の全権譲渡。および、これまでの未払い残業代の支払いだ」

『却下シマス。……弊社ニ、残業代ナドトイウ概念ハアリマセン』

「だろうな。だから……」


アルトは鉄パイプを構えた。


「『物理(暴力)』で払ってもらうことにした」


ズガァァァン!!

マダラの溶接トーチが振り下ろされる。

アルトはそれを紙一重で回避し、懐へと飛び込んだ。だが、マダラの腕はあと5本ある。


「社長、危ない!」

「セレス!シスターズ!……『生産ライン』を乗っ取れ!」


アルトは叫び、鉄パイプをコンベアの駆動部に突き刺し、義眼からケーブルを伸ばして制御盤に直結させた。


「ハッキング開始アクセス!……製造プロトコル、書き換え!ここにある資材全部、『武器』に変えろ!」

『了解!設計図、ロードします!』


上空を飛ぶ「シスターズ(警備ドローン型)」たちが、一斉に工場内の制御ノードへアクセスビームを照射する。

工場の全システムが、アルトの支配下に落ちる。


『ライン速度、300%!』

即席兵器ジャンク・ウェポン、製造開始!』


ガシャン、ガシャン、ガシャン!!

マダラの背後で動いていた生産ラインが、異常な速度で回転を始めた。

ラインから流れてきたのは、プレス機とパイルバンカーの部品を、レーザー溶接で無理やり接合した、即席の「超重量級ハンマー」だった。


「受け取りな!……『ジャスト・イン・タイム』だッ!!」


アルトは重力制御でハンマーを浮かせた。

だが、巨大すぎて一人では支えきれない。


「シスターズ!手を貸せ!」

『はいっ!』


数機のドローン(シスターズ)がハンマーに取り付き、スラスター全開で推力を加える。

アルトの重力制御+ドローンたちの推力。

ハイブリッドな加速を得たハンマーが、固定砲台となってマダラの顔面へフルスイングされた。


ドゴォォォォォォォォン!!!!!


『ピ、ガガガガッ!?』


マダラの装甲がひしゃげ、巨大な機体がよろめく。

さらに、ラインからは次々と「即席兵器」が生産され、流れてくる。

巨大ドリル、回転ノコギリ、高圧ガスボンベ。


「撃ち続けろ!在庫一掃セールだ!」

『えーい!』『それっ!』


シスターズ(ドローン)たちが、流れてくる兵器をアームで掴み、次々とマダラに投下・射出する。

自らの工場で作られた製品によって、工場長が解体されていく皮肉。


『エラー!エラー!生産過剰オーバーフロー!処理デキマセン!』

「とどめだ!……『退職金レーザーブレード』ッ!!」


アルトは最後に、束ねられた高出力レーザー溶接機をマダラのコア(焼却炉)に突き刺した。


ボオオォォォォン!!

マダラの機体が内側から爆発し、崩れ落ちた。黒煙と共に、工場の支配者が鉄屑へと変わる。


「……ふぅ。商談終了だ」


アルトは額の汗を拭った。

静まり返る工場。労働者たちは、呆然と巨人の残骸を見つめている。


「さて。……ポストが空いたな」


アルトは瓦礫の中から、マダラの持っていた「工場管理キー」を拾い上げた。

その時、アルトの横にある「廃棄物搬送ライン(ベルトコンベア)」が、焼却炉へ向かってゆっくりと動いているのが見えた。

鉄屑、失敗作、そして有機ゴミ。

その中に、見覚えのある「金色の球体」が混じって流れてきた。


「あ……あぁ……。私のカジノが……地位が……」


それは、カジノの元支配人、ガメルの「生首ユニット」だった。

胴体(金庫)は没収され、頭部だけがゴミとして廃棄ラインに捨てられたのだ。


「……おや?奇遇だな」


アルトは、焼却炉に落ちる寸前で、その生首の髪を掴んで引き上げた。


「よォ、元・支配人。……随分と身軽になったじゃねえか。自慢の黄金ボディはどうした?」

「ひっ!?き、貴様はアルト!?……あ、あぁぁ……!」


ガメルが涙を流して絶叫した。


「取られたのだ!『負債の補填』として、オリハルコン製の胴体だけ没収されたのだ!私に残ったのはこの頭だけ……ゴミとして捨てられたのだぁぁ!」


かつての栄華は見る影もない、ただの産業廃棄物。

だが、ダストシュートからの落下とコンベアの振動に耐え、凹みひとつないその頭部は、確かに高級品の証だった。


「ここまで落ちて無傷とは、無駄に頑丈な頭だ。……さすがはオリハルコン級だな」


アルトはニヤリと笑って、その頑丈な生首を小脇に抱えた。


「運がいいな、お前。……ちょうど今、『管理職』のポストが空きそうなんだ」

「ほ、本当か!?」


ガメルの目が輝く。

アルトは近くのラインに転がっていた、量産型の「作業用ドロイド」を拾い上げた。

安っぽいブリキのようなボディ。足はなく、キャタピラがついている。

彼はドロイドの頭を「メリメリッ」ともぎ取り、代わりにガメルの生首をセットした。

そして、ポケットからドライバーと「新品のネジ」を取り出し、グリグリと首のジョイントを締め始めた。


「ヒィッ!?痛っ、痛いぞ貴様!もっと丁寧に扱え!」

「動くな。ズレるだろ」

「貴様……!私の身体をなんだと思っている!私は元貴族だぞ!?」


ガメルが涙目で叫ぶ。

だが、アルトは無視してネジを締め続ける。ギリギリと音を立てて、生首がブリキの体に固定されていく光景は、完全にマッドサイエンティストのそれだった。


「倫理観!貴様には人としての倫理観がないのかーッ!?」


ガメルが魂の底から絶叫した。

その叫びに対し、アルトは作業の手を止め、キョトンとした顔でネジを見せた。


「あるぞ。だからネジは『新品(ステンレス製)』を使ってやった」

「そういう問題ではないッ!!」


アルトは「なんで感謝されないんだ?」と不思議そうな顔(ドヤ顔)で、最後のネジを締め切った。

ガキンッ。

ジョイントが綺麗に嵌まる。


「……おお!繋がった!」


ガメルはキャタピラを回し、その場でくるくると回転した。かつての黄金ボディとは雲泥の差だが、彼にとっては「自由」の象徴だった。


「素晴らしい!これでまた搾取……いや、経営ができる!」

「勘違いするなよ。お前は今日からここの『工場長』だ」


アルトは管理キーをガメルのペンチに握らせた。


「この元貴族ゾンビどもの手綱は、お前が握れ。……死ぬ気で働かせて、黒字にしろ。売り上げの7割は上納な」

「な、7割!?悪魔か貴様!」


ガメルが叫ぶ。


「そもそも、なぜ私がこんな目に遭わねばならんのだ!私はカジノで優雅に暮らしていたのに!」


ガメルの叫びに、アルトは冷酷に笑って答えた。


「自業自得だ。……俺がカジノで脅し取ったお前の『裏帳簿』、あれをシステムに流したのを忘れたか?」

「あっ……!」

「貴様が!貴様がカジノの裏帳簿データをシステムに流したせいで!!不正蓄財がバレて、全財産とボディを没収されたのだぁぁ!!」


ガメルが絶望の悲鳴を上げる。

自分の破滅の原因が、目の前の男の「通報」だったことに気づいたのだ。


「そうだ。お前をここに落としたのは俺だ。……だから、責任を持って『再就職先』を斡旋してやったんだよ。感謝しろ」


アルトはポンと、ガメルのブリキの肩を叩いた。


「ちなみにそのボディ、ノルマ未達だと自動で爆発する『信管』入りだ。……精々頑張れよ?」

「ひぃぃっ!?やります!やらせてくださいぃぃ!」


ガメルが平伏(キャタピラ土下座)する。

だが、その直後。ガメルはキャタピラを起こし、周囲の荒れた工場を見回して呟いた。


「しかし……フン、なんだこの非効率なラインは。資材の動線がまるでなっておらん」


彼はキャタピラを軋ませ、早速コンソールに向かった。


「おい貴様ら!そこでボサッとしてるな!Aラインの速度を上げろ!……チッ、私が指揮した方がマシだ!」


恐怖に突き動かされているとはいえ、その指示は的確だった。

根っからの権力者気質。

支配される側ではなく、支配する側に立った瞬間、彼は水を得た魚のように輝き始めた。


「(……へっ。悪くない拾い物だ)」


アルトはニヤリと笑った。

ただの生首から、有能な中間管理職へ。

これで、生産拠点は確保した。裏切りの心配もない。


「よし。これで労働力の確保も完了だ」


アルトは、蘇った人々を見下ろして笑った。

金、装備、生産拠点、そして労働力。

スラムでの「再起」の準備は、これですべて整った。


「……あのー、マスター?」


その時、アルトの横で、ピンク色に発光する警備ドローン(中身はシスター・ワン)が、もじもじと機体を揺らした。


『労働環境の改善は素晴らしいデス。……ですが、私達の「待遇改善」はまだデスカ?』

「あ?」

『この体……丸くて、手足が短くて、全然可愛くないデス!』

『スカートがないと落ち着かないよー!』

『アイドル(予定)として、このビジュアルは致命的デス!』


姉妹たちが一斉にブーイングを上げる。

確かに、無骨な暴徒鎮圧用ドローンでは、可愛げの欠片もない。これでは社員のモチベーションに関わる。


「……チッ、贅沢な連中だ」


アルトは呆れたが、すぐに工場長ガメルに向き直った。


「おいガメル。初仕事だ」

「な、なんだ?まさか私もスクラップにする気か?」

「違う。……『特注品オーダーメイド』の発注だ」


アルトは義眼から、かつての「SDシスターズ」の設計図データに加え、アガルタの技術を解析してアップデートした「新型図面」を送信した。


「ラインを貸し切れ。……最高級の『軽量ミスリル合金』と『高出力サーボ』を使って、こいつらの新しい体を作れ」

「なっ、このドローンごときにそんな高級素材を!?無駄遣いだ!」

「うるせえ!企業の『マスコット』に金をかけるのは常識だろ!?」


……数十分後。

高速稼働した生産ラインから、湯気を立てて新品の機体が流れてきた。

かつての清掃ゴーレム改造品とは違う、最初から戦闘用アンドロイドとして設計された、洗練されたフォルム。

もちろん、装甲はフリル付きのエプロンドレスを模して成形されている。


「完成だ。……『SDシスターズ・Ver.2.0(アガルタ・スペック)』だ」

『わぁぁぁッ!!可愛い!』

『ピカピカだー!』


ヒュンッ!

ドローンから光が抜け、新しいボディへと魂が移動する。

ウィィィン……。

新型シスターズが起動する。その動きは以前よりも遥かに滑らかで、人間と見分けがつかないほどだ。


『マスター!最高デス!出力300%アップ!』

『スカートの中にミサイル入ってるよ!すごーい!』


シスターズが歓喜し、クルクルと回ってポーズを決める。

これでこそアルト商会の看板娘だ。


「最後は『福利厚生』だな」


アルトは管理端末を操作し、労働者への薬物投与を停止。

代わりに、セレスの浄化魔法を混ぜた「回復シャワー」を工場全体に降らせた。

毒素が抜け、正気を取り戻した労働者たちが歓喜する。


「へっ。……次は『上』だ。富裕層エリアに行くんだ、身だしなみくらい整えねえとな」


アルトは満足げに頷いた。

可愛さは正義。そして正義は売れる。

完全復活したメイド軍団を引き連れ、彼は上層へのエレベーターへと向かった。

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