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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: 朔夜
第3章 空中都市と空飛ぶ請求書

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ダンジョン攻略は、バグ利用(グリッチ)が最短ルートです


転送の光が収まると、アルトとセレスは薄暗い石造りの回廊に立っていた。

湿った空気。壁には不気味な苔が張り付き、遥か奥からは魔獣の唸り声と、何かがすり潰されるような音が響いてくる。


【CurrentLocation:処刑用ダンジョン『奈落の迷宮』】

【第一層:スタート地点】


空中に表示されたウィンドウが、ここがゲームの「開始地点」であることを告げている。


「……なるほど。ここを登って来いってか」


アルトは鉄パイプを肩に担ぎ、冷めた目で迷宮の奥を睨んだ。

一本道に見えるが、義眼のサーマルセンサーは、壁の裏に隠された無数のトラップと、待ち構える凶悪なモンスターの熱源を捉えている。


「社長、どうしますか?正面突破ですか?」

「バカ言え。真面目に攻略してたら日が暮れる」


アルトは鼻で笑い、足元の石畳をコツコツと叩いた。


「教皇は言ったな。『正規ルートは通れない』と。……裏を返せば、正規じゃないルートなら通り放題ってことだ」


彼は迷宮の奥ではなく、目の前の「壁」に向き直った。

そして、左目の義眼からケーブルを伸ばし、手に持った鉄パイプに直結させる。


解析開始スキャン。……この壁の『更新間隔リフレッシュレート』と『魔力構成波長』を割り出せ」

『了解!解析シマス!』

『構造データ、取得……。材質:仮想霊石。更新頻度:0.05秒!』


義眼の中で、姉妹たちが高速演算を開始する。

アガルタの物質は、すべてナノマシンと魔力によって構成された「データ」だ。

どれほど硬い壁でも、ミクロの視点で見れば、それは常に点滅を繰り返す波の集合体に過ぎない。


「……見えたぞ。波長の隙間が」


アルトは鉄パイプを壁に押し当てた。

パイプが微かに振動を始める。


キィィィィン……。

蚊の鳴くような高周波音。それは次第に大きくなり、壁の物質振動と共鳴し始める。


「『共振フィールド』展開!俺たちの体の分子振動を、壁の波長と完全に同期シンクロさせる!」


アルトがセレスの腰を抱き寄せた。

二人の体が、陽炎のように揺らぎ始める。

物理的な干渉力を失い、幽霊のように物質を透過する状態への移行。


「えっ、ちょっ……!?社長、これってまさか……!?」

「ああ。『壁抜け(グリッチ)』だ」


アルトはニヤリと笑った。


「壁の当たり判定をすり抜けて、中枢まで一直線にショートカットする」


だが、セレスは顔を青くして叫んだ。


「だ、ダメです!壁をすり抜けるってことは、床も抜けちゃうじゃないですか!?落ちますよ!?」


その通りだ。

物理干渉を失えば、重力に従って床を突き抜け、下の階層――あるいは遥か下空のスラムまで真っ逆さまだ。

それに、壁の向こうが「空洞」だったら?そのまま墜落死だ。


「安心しろ。……対策済みだ」


アルトは義眼にウィンドウを表示させた。

そこには、ネフィリム号から奪った「天空都市・防衛システムMAP(裏マップ)」が展開されている。


「この地図によれば、現在地ここの壁一枚隔てた向こう側の座標ウラは……『第2階層』の搬入口に直結している。……足場はあるぞ」


計算通りの位置取り。

運任せのバグ技ではない。確信犯的なショートカットだ。


「それに、落下対策も万全だ。『重力制御(G-コントロール)』、併用起動!……俺たちにかかる重力をゼロにして、体を数センチ『浮かせ』る!」


フワッ。

二人の足が、床からわずかに離れた。


浮遊。

これなら床に触れることはない。重力に引かれることもない。

ただ、前方の壁に向かって推進するのみ。


「行くぞセレス!振り落とされるなよ!」

「ひゃああああっ!?」


アルトはセレスを抱えたまま、目の前の壁に向かって全力で突っ込んだ。


ズボッ。

衝撃はなかった。

まるで水の中に飛び込んだような、奇妙な浮遊感と抵抗感。

視界が極彩色に明滅する。

壁の内部。テクスチャの裏側。

本来、プレイヤーが見てはいけない「世界の裏側ヴォイド」を、二人は高速ですり抜けていく。


『警告!アンテナ(鉄パイプ)の温度上昇!限界デス!』

『耐えろ!あと少しだ!』


共振の触媒となっている鉄パイプが、過負荷で赤熱し、ドロドロに溶け始めている。

これが壊れれば、壁の中で実体化し、石の中に埋まって即死だ。


「(見えた……!出口だ!)」


義眼のセンサーが、壁の向こう側で立ち尽くす巨大な熱源反応(階層ボス)を捉える。

第一層、第二層、第三層……。

正規ルートなら数時間かかるはずの階層を、わずか数秒でブチ抜いていく。

ボス部屋のミノタウロスがキョロキョロしているが、無視だ。雑魚に構っている暇はない。


「抜けろォォォッ!!」


ジュワアアアッ!!

鉄パイプが蒸発するのと同時に、アルトたちは壁の向こう側へと飛び出した。


スタッ。

着地。

そこは、薄暗い迷宮ではなかった。

無機質な金属の壁と、オイルの臭い。

ベルトコンベアが稼働する轟音が響き渡る、巨大な空間。


「……はぁ、はぁ。……成功、か」


アルトは溶けてなくなったパイプの柄を捨て、周囲を見渡した。

目の前のモニターには、こう表示されている。


【CurrentLocation:アガルタ第2階層『無限工場』】


「へっ。……ダンジョンの壁をぶち抜いて、物理的に上の階層(工場エリア)へ不法侵入したぜ」


全100層のダンジョンを、壁一枚隔てて全スキップ。

これが「技術屋」の攻略法スピードランだ。


「し、心臓が止まるかと……」


セレスがへたり込む。

だが、その目はすぐに前を向いた。


「でも、着きましたね。……教皇様も、驚いているでしょうか?」

「さあな。……だが、ここからが本番だ」


アルトは、工場の奥――労働者たちの呻き声が聞こえる方角を睨んだ。

そこには、かつて自分たちを襲った「空賊」たちが、変わり果てた姿で働かされているはずだ。


「行くぞ。……次は『労働争議ストライキ』の時間だ」

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