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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: 朔夜
第3章 空中都市と空飛ぶ請求書

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聖女セレスは、期間限定のレイドボスです


ガメルから脅し取ったIDカードを使い、アルトは上層エリアの最奥――「防衛システム管理塔」へと侵入した。

エレベーターが上昇するにつれ、カジノの喧騒は遠ざかり、無機質な静寂が支配する。


チンッ。

最上階の扉が開く。

そこは、壁一面がサーバーラックで埋め尽くされた、巨大なドーム状の空間だった。

中央には、天井まで届く光の柱――「システム・コア」が鎮座している。

そして、その光の中に、彼女はいた。


「……セレス」


アルトが名を呼ぶ。

彼女は宙に浮き、無数のケーブルに繋がれていた。

だが、アルトが目を奪われたのは、彼女が纏っている「衣装」だった。

純白のレースと蒼玉で織り上げられた、あの「天女の羽衣」だ。

要塞も武器も削除されたはずなのに、そのドレスだけは無傷で残り、今はシステムと融合するための「幾何学的な装甲」へと変質して彼女を守っている。


「(……あのドレス、消されてねえのか?……そうか、『天女の羽衣』も元々はこの都市で作られた『古代遺産』。システムにとっては『純正品(正規ID持ち)』扱いってわけか。……5億払った甲斐があったぜ)」


アルトは口元を歪めた。

あの時、ケチってゴムスーツにしていたら、彼女は今頃初期アバターの服か、あるいはデータ分解されていたかもしれない。

投資は裏切らない。


『――侵入者、検知』


セレスが、機械のような声で呟く。

彼女はゆっくりとアルトの方を向き、右手を掲げた。

顔の半分は、無機質な「戦術バイザー」に覆われ、その奥で瞳が赤く明滅していた。


『対象ID:Unknown。……所持品の「資産価値」をスキャン』

『判定:不法所持。……これより、「強制徴収アセット・スクイーズ」を執行します』


カッ!!

セレスの手のひらから、紫色の怪光線が放たれた。

破壊光線ではない。物質をデータ分解し、強制的に収納(没収)する「資産没収光線アイテムロスト・ビーム」だ。


「うおっ!?」


アルトは反射的に横に飛んだ。

だが、光線にかすめた「軍用ブーツ(Ep.26の強奪品)」の片方が、瞬時にポリゴンとなって消滅した。


「なっ……!?靴が消えた!?」

『徴収完了。……次、ジャケット』


セレスは無慈悲に次弾を装填する。

この光線に当たれば、武器も防具も、パンツ一枚に至るまで全て剥ぎ取られる。

商売人にとって、死ぬよりも恐ろしい「全財産没収」の攻撃。


「チッ、えげつねえ攻撃しやがる!……セレス!俺だ!分からねえのか!」


アルトが叫ぶが、バイザー越しの瞳に感情の色はない。

彼女は今、都市防衛システム「アイギス」の生体コア――思考を持たない「レイドボス」として稼働しているのだ。


『問答無用。……全資産をドロップしなさい』


ビシュン、ビシュン、ビシュン!

光線が乱射される。

アルトは武器庫から奪った「電磁警棒」や「予備バッテリー」を盾にして、身代わり(デコイ)にしながら転げ回る。

光線が当たるたびに、せっかく集めたアイテムが消滅していく。


「クソッ、俺の在庫が減っていく!……近づけねえ!」


セレスの周囲には、鉄壁の「黄金の障壁(課金バリア)」が展開されている。

物理攻撃も魔法も弾く、絶対防御圏。

そのエネルギー源となっているのは、彼女の足元に設置された巨大な装置――「自動献金箱マテリアル・コンバーター」だ。

信者たちが捧げた供物や、没収したアイテムがその箱に吸い込まれ、瞬時に魔力へと変換されてバリアを維持している。


「(……なるほどな。供物を食ってバリアにする『永久機関』ってわけか)」


アルトはサーバーラックの影に滑り込み、荒い息を吐きながら分析した。

あの箱がある限り、セレスのバリアは無尽蔵だ。

普通の攻撃では、エネルギー切れを待つこともできない。


「なら、食わせてやるよ。……とびきり『消化に悪い』やつをな!」


アルトは懐から、ずしりと重い「純金の延べ棒」を取り出した。

ガメルから「口止め料」として巻き上げた戦利品だ。


「悪党の金で悪党のシステムを壊す。……美しいリサイクルだ」


彼は手回し発電機と軍用バッテリーを直列に繋ぎ、即席の回路を組み始める。

だが、状況は最悪だ。


ビシュッ!ジュワッ!

隠れているサーバーラックが、セレスの光線によって端から削り取られていく。

遮蔽物がみるみるポリゴン化して消え、アルトの身体が露わになるまでのカウントダウンが進む。


ゴールドは魔力伝導率が高く、電気抵抗が低い最高の導体だ。……システムにとって、こいつは『最高級のご馳走』に見えるはずだ」


アルトは金塊に銅線を巻き付け、コイル状に加工する。

焦りが指先を狂わせそうになるが、彼はそれを気合でねじ伏せた。

あと3秒で隠れる場所がなくなる。


「バッテリー全開!……『帯電チャージ』ッ!!」


彼はバッテリーの全電力を注ぎ込み、金塊自体に数百万ボルトの高圧電流を溜め込ませた。


バチチチチチッ……!!

金塊が青白くスパークし、唸りを上げる。

触れれば即死するレベルの電荷をまとった、黄金の塊。


「こいつは『毒入り饅頭』だ。……食った瞬間、腹の中で暴れるぞ!」


最後の壁が消滅した。

アルトは身を晒しながら飛び出し、重力制御(G-コントロール)を起動した。

彼は帯電した金塊を素手(絶縁グローブ)で鷲掴みにし、自身の体を中心とした重力フィールドを金塊へと収束させた。


「おい、集金係!……『特別ボーナス』だ、受け取れェッ!!」


ドォン!!

アルトが腕を振り抜き、金塊を全力で投擲した。

手から離れた瞬間、纏っていた重力が爆発的な推進力へと変わり、金塊を音速の弾丸へと加速させる。

狙うは、セレスの足元にある「献金箱」の投入口。

セレスのシステムが反応する。


『検知。高純度貴金属レアメタル。……「極上の供物」と認定』

『バリア、透過承認。……受領します』


予想通り、システムは金を「攻撃」ではなく「献金」と判断した。

バリアの一部が開き、金塊を迎え入れる。

金塊が吸入口に飛び込み、コンバーター内部の解析センサーが、その価値を査定しようと回路を開いた――

その瞬間。


カッッッッッ!!!!

金塊に封じ込められていた致死量の電流が、一気に解放された。

内部回路へ侵入した電流は、解析センサーを焼き切り、魔力変換回路を逆流し、システム全体に過剰な負荷オーバーロードを叩き込む。


『ピ、ガガガガッ!?警告!警告!』

過電流サージ検知!解析回路、焼失スキャン・バーン!』

『エラァァァァァァッ!!』


ドガァァァァァン!!!

献金箱が内側から爆発した。

制御を失った膨大なエネルギーが奔流となって逆流し、セレスを守っていた「黄金の障壁」へと衝突する。


バリバリバリッ!!

障壁は内側からの衝撃を食い止める盾となり――その負荷に耐えきれず、爆風と共に相殺(対消滅)して砕け散った。


「……ッ!」


アルトが爆風に耐える。

煙が晴れると、そこにはバリアを失い、糸が切れたようにぐったりと浮遊するセレスの姿があった。

破壊されたのは、セレスを守る「インターナル・ファイアウォール」のみ。

計算通りの「精密爆撃」。


「……セレス!」


アルトは駆け寄り、落下してくる彼女を受け止めた。

バイザーの光が消え、彼女は静かな寝息を立てている。


「悪いな。……少し乱暴に起こしちまった」


アルトは安堵し、彼女のバイザーに手をかけた。

物理的な鍵は壊した。あとは、この「洗脳マスク」を外して、彼女の意識(自我)を叩き起こすだけだ。


「起きろ、副社長。……まだ仕事は終わってねえぞ」


アルトが懐から「義眼」を取り出し、バイザーの接続端子にケーブルを差し込む。

魂の復元リストア

数秒後、バイザーのインジケーターが赤から緑へと変わった。


「う……ん……」


セレスが目を開ける。

そこには、心配そうに(と彼女には見えた)覗き込むアルトの顔があった。


「……しゃ、ちょう……?」

「よう。おはよう、寝坊助」

「私……どうして……」

「システムに食われてたんだよ。……ったく、手間かけさせやがって」


アルトは乱暴にバイザーを外して放り投げた。

そして、焦げた金塊の残骸を指差した。


「見ろ。あそこで溶けてる金塊、いくらすると思ってる?……お前を助けるために、また『特別損失』を計上しちまった」


アルトは、いつものようにコストの愚痴をこぼした。


「5億のドレスに続いて、今度は純金の延べ棒だ。……お前一人のために、どれだけ投資すれば気が済むんだ?割に合わねえにも程があるぞ」


いつもの彼なら、ここで「だから死ぬまで働いて返せ」と続けるはずだった。

だが、セレスは知っていた。

彼が、自分のために危険を顧みず、全財産(金塊)を爆弾に変えてまで飛び込んできてくれたことを。

そして、その動機が「金」だけではないことも、薄々気づき始めていた。

でも、彼は絶対にそれを認めない。

「損得」という鎧を着ていないと、人と関われない不器用な人だから。

セレスは、ふわりと微笑んだ。

それは、以前のような「盲信的な勘違い」の笑顔ではなかった。

彼の本質(強欲で、優しくて、最低な人間性)をすべて理解し、受け入れた上での、聖母のような微笑み。


「……社長」

「あ?」

「社長は、本当に……最低ですね(満面の笑み)」

「……は?」


アルトが固まる。

罵倒されたはずなのに、なぜか感謝されているような、奇妙な感覚。


「お金のことばかりで、口も悪くて、乱暴で……。本当に、どうしようもない人です」


セレスは、アルトの胸に手を当てた。


「だから、私が支えてあげなきゃいけませんね」


彼女の瞳に、強い光が宿る。

それは、守られるだけの者の目ではなかった。

このどうしようもない男と一緒に、地獄の底まで付き合う覚悟を決めた、「共犯者」の目だった。


「これからも、たくさん損をさせますよ?……覚悟してくださいね、パートナー?」

「……ッ」


アルトは、バツが悪そうに顔を背けた。

ガスマスクの下で、耳が赤くなっているのが見えなくても分かった。


「……ケッ。利益が出なきゃクビだ」

「ふふっ。頑張ります」


二人の間に、新しい契約が結ばれた。

雇用関係を超えた、運命共同体としての契約が。


ザザッ……ザザザッ……。

その時、周囲の空間がノイズに包まれた。

破壊されたはずの「自動献金箱」が、巻き戻される映像のように修復されていく。


『――やれやれ。少し目を離した隙に、随分と派手に散らかしてくれたね』


鈴を転がすような声が降ってくる。

教皇メサイアの登場だ。

だが、今の二人にはもう、迷いはなかった。

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