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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: 朔夜
第3章 空中都市と空飛ぶ請求書

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ゴミ捨て場は、未実装エリアです


ガシャン。

意識の底で、空き缶が転がる音がした。

鼻をつくのは、鉄錆と腐敗臭。そして、焦げた絶縁体の匂い。


「……っ、ぐ……」


アルトは、鈍い痛みに呻きながら目を開けた。

視界はノイズ混じりの灰色。

体を起こそうとすると、全身の骨が軋む音がした。

生きている。だが、状態は最悪だ。

装備していた強化外骨格は「削除」され、着ていた服すらボロ布同然。

体中が擦り傷と打撲だらけで、HPはレッドゾーン(瀕死)だ。


「……ここが、天国の最下層かよ」


アルトはふらつく足で立ち上がり、周囲を見渡した。

見渡す限りのゴミ山。

壊れた家電、錆びたパイプ、そして正体不明の廃棄データが、うず高く積み上げられている。

遥か頭上には、雲を透かして微かに輝く「上層(楽園)」の光が見える。


「(セレスは連れて行かれた。……まずは生き残って、足場を固めねえとな)」


アルトは腹をさすった。

胃の腑には、確かな「重み(種銭)」がある。これがある限り、まだ終わっていない。


ガサゴソ……。

その時、ゴミ山の影が動いた。

這い出してきたのは、ボロボロの布を纏った人影たちだ。

痩せこけ、肌は土気色。目は虚ろで、頭には壊れたゴーグルを装着している。

アガルタのスラム住人――「電子亡者ジャンキー」。


「あ……あぁ……」

「ログボ……ログインボーナス……ください……」


彼らはアルトを見ると、飢えた獣のように群がってきた。

手には錆びたナイフや、尖った鉄片が握られている。

システムから切り離され、現実の痛みを忘れるために「電子ドラッグ」や「ログボ(配給)」を求めて彷徨う成れの果て。


「……チッ。歓迎会にしては湿気てやがる」


アルトは足元に落ちていた鉄パイプを拾い上げた。

重心を確認し、軽く振る。

今の彼には、これしか武器がない。


「ギギッ!……新規ユーザーだ!装備を剥ぎ取れ!」

「ポイント……よこせぇぇ!」


亡者たちが襲いかかってくる。

アルトは冷静に踏み込み、先頭の男の顎をパイプでカチ上げた。


ガゴッ!!


「まずは服だ。……悪いが、死人の服は趣味じゃねえんでな」


アルトは気絶した男たちを跨ぎ、ゴミ山に埋もれていた「工業用ビニールシート」を引っ張り出した。

ナイフで適当に穴を開け、頭から被る。

即席のポンチョ。防寒性は皆無だが、雨と汚れ、そして漏電からは身を守れる。


「さて。……店を開くには『元手』がいる」


アルトは物陰に身を隠すと、覚悟を決めて左目に手をやった。

ゲルで固定していた「義眼」に指をかけ、強引に引き剥がす。


ズリュッ。

粘着質な音と共に、赤い宝石が眼窩から外れる。

激痛。

だが、アルトは顔色一つ変えずにゲルを拭き取った。


『きゃあああっ!?なにするの社長!?』

『目が回るよー!』

『暗い!狭い!臭い!』


義眼のスピーカーから、やかましい悲鳴が響く。

中に格納されている姉妹たちだ。


「うるせえ!生存競争サバイバルだ、我慢しろ!」


アルトは怒鳴りつけながら、ゴミ山を漁った。

拾い上げたのは、家電の残骸から引きちぎった「被膜付き銅線」と、壊れたドローンの残骸。

さらに、アルミホイルの切れ端を見つけると、それをレンズの周囲に巻き付けて「反射鏡」を作った。


「準備完了だ。……メシの時間だぞ、相棒(義眼)」


アルトは壁を這う太いパイプ――都市の余剰エネルギーを運ぶ「動力伝導管」に目を付けた。

被膜が劣化し、パチパチと火花が散っている。

彼は銅線を義眼の充電ポートに繋ぎ、反対側をパイプの亀裂に突き刺した。


バチチチチッ!!!


「ぐぅッ……!?」


強烈な電流がアルトの指を焼く。

盗電。

高圧電流を、自分の体を抵抗にして義眼へと流し込む荒技。


『ビリビリするー!』

『充電開始!満タンまであと3分!』

『これ違法改造だよ社長!』


姉妹たちが騒ぐ中、義眼のインジケーターが赤から緑へと変わっていく。


充電完了。

アルトは焦げた指を振って冷まし、義眼の内部設定コンフィグを書き換えた。


「赤外線通信ポート、セーフティ解除。……出力リミッターをカットしろ」


彼はドローンから外したカメラレンズをポートに固定し、さらにアルミの反射板で囲った。


「通信用ダイオードを焼き切るつもりで回せ!……『過剰駆動オーバークロック』だ!」


スイッチを入れると、レンズの先から、通信用とは思えない高熱の赤外線ビームが収束して照射される。

簡易レーザー溶接機の完成だ。


「よし。……商品を作るぞ」


アルトはゴミ山から、まだ使えそうなコンデンサやコイルを拾い集めた。

そして、レーザーで溶接し、繋ぎ合わせる。


ジジッ、ジジジッ……。

焦げる匂いと共に、金属が溶け合う。

数分後。彼の手には、不格好だが強力な「魔力バッテリー」が完成していた。


「おい、そこのお前ら」


アルトは、遠巻きにこちらを見ていた亡者たちに声をかけた。

彼らは武器を持ってはいるが、アルトの「魔法(溶接技術)」を見て警戒している。


「ログボが欲しいんだろ?……こいつをやるよ」


アルトはバッテリーを放り投げた。

一人の亡者がそれを受け取り、恐る恐る自分のゴーグルに接続する。


ピロン♪

チャージ音が鳴り、ゴーグルの表示が明るくなった。


「あ……あぁ!電池が!画面が見える!」

「すげえ!フル充電だ!」


亡者たちが歓喜する。

スラムでは、エネルギーこそが命だ。


「対価をもらうぞ」


アルトが手を差し出す。

亡者たちは顔を見合わせた。彼らに金はない。


「金はいらねえ。……お前らが持ってる『ゴミ』をよこせ」

「ゴミ……?」

「お前らのゴーグルに溜まってる『エラーログ』や『未解析のジャンクデータ』だ。どうせ容量を圧迫して邪魔なんだろ?全部俺に送れ」


亡者たちは喜んで応じた。

彼らにとって無価値なバグデータを渡すだけで、エネルギーが貰えるのだ。

アルトの義眼に、膨大な量のデータが転送されてくる。


『うわっ、ゴミデータばっかり!』

『汚い!重い!容量いっぱいだよぉ!』


姉妹たちが文句を言うが、アルトはニヤリと笑った。


「分別しろ。……ゴミの中には『宝』が混じってるもんだ」


アルトは義眼の演算能力を使い、集めたジャンクデータを解析・統合デフラグした。

スラムに溢れるバグやエラー。それは、都市システムの「綻び」の記録だ。

それらを繋ぎ合わせ、最適化することで――


【精製完了:都市システム修正パッチ(Ver.Unofficial)】

【希少度:Aランク】


一つの「高価値データ」が完成した。


「へっ。……錬金術だ」


アルトはスラムの路地裏にある、埃を被ったATMのような端末へと向かった。

それは都市が建設された当初に設置され、今は誰も見向きもしない「旧時代の遺物デバッグ・ポスト」。

正規の管理者がバグを報告し、報酬を得るための窓口だ。


「こいつが生きてるのは調査済みだ。頑丈すぎて誰も壊せなかったみたいだがな」


周囲に転がる亡者の死骸を一瞥し、彼は精製したパッチデータを端末に叩き込んだ。


ガコン、ガコン、ジャララララ……!

端末が数百年ぶりに唸りを上げ、吐き出し口から大量のクレジット(電子マネー)と、現物のトークンが溢れ出した。

その額、日本円にして数千万円相当。

ゴミから作った、最初の「種銭」。


「見たか、セレス」


アルトは、空っぽの隣を見て呟いた。

そこに彼女はいない。だが、心臓(炉心)は共にある。


「俺たちの反撃(商売)は、ここからだ」


アルトは金貨を弾き、不敵に笑った。

無一文の浮浪者が、一夜にして小金持ちへ。

だが、これはまだ「仕入れ」の段階に過ぎない。


「次は『装備』だ。……上層のカジノに、いい出物があるらしいな」


彼はポンチョを翻し、上層へと続く「廃棄ダクト」を見上げた。

逆走の始まりだ。

※20251130全体の整合性を踏まえて修正しました。

最下層からのリスタート。でも無価値なゴミから価値を生み出してすぐに小金持ち化。

これがアルト流です。

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