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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: 朔夜
第2章 深海、時々ブラック企業

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枢機卿は、深海用の電球です


閃光手榴弾の炸裂から数分後。

白煙が晴れたネフィリム号の艦橋は、静寂に包まれていた。

床には気絶した衛兵やオペレーターたちが転がっている。


「う、うう……」


その中でただ一人、枢機卿だけが意識を取り戻し、這いずっていた。

彼は豪華な法衣を煤で汚し、震える手で玉座にしがみつく。


「ば、馬鹿な……。神の船が、薄汚い商人に……」

「よう。お目覚めか、元・艦長代理」


頭上から降ってきた声に、枢機卿が顔を上げる。

そこには、淹れたてのコーヒー(要塞から持参)を片手に、彼を見下ろすアルトがいた。

その背後には、杖を構えたセレスと、スタンロッドを起動させた無機質な目のSDシスターズが控えている。


「ひっ!?き、貴様ら!」

「状況は理解できたか?お前らの負けだ。……この船の制御権は、すでに我々が頂いた」


アルトが指を鳴らすと、艦橋のメインスクリーンに「ALTOWORKS」のロゴが表示された。

物理ハッキングと、電脳空間からの姉妹たちの侵攻により、ネフィリム号のシステムは完全に掌握されていた。


「く、殺す気か……!私は枢機卿だぞ!神殿が黙っていない!」

「殺す?バカ言え。そんな『もったいない』ことするわけねぇだろ」


アルトは呆れたように首を振った。


「お前は貴重な『高出力魔力源』だ。殺して灰にするなんざ、資源の無駄遣いだ」

「な……?」

「ついて来い。お前にぴったりの『新しい職場デスク』を用意してある」


アルトはシスターズに命じ、枢機卿を引きずって艦橋を出た。

向かった先は、艦の最下層。薄暗い予備動力室だった。

そこには、埃を被った古めかしい装置――巨大な手回し式のクランクが付いた、魔導ジェネレーターが鎮座していた。


「こいつは『魔力変換式・非常用発電機マナ・サイフォン』だ。回転運動と同時に、回す者の生命力マナを強制的に吸い上げて電力に変える、前時代の遺物だ」

「そ、それがどうした……」

「この船のメインエンジンは、さっきの戦闘でイカれた。……今、艦内の生命維持装置ライフサポートは、予備バッテリーでギリギリ動いている状態だ」


アルトは枢機卿の手首に、ジェネレーターから伸びる重厚な手錠をガチャン!と嵌めた。


「お前には、今日からここが『職場』だ。……そのクランクを回して、予備バッテリーに充電し続けろ」

「は、はあ!?余に肉体労働をしろと言うのか!?」

「ただの労働じゃねえ。『命綱』だ」


アルトは冷酷に告げた。


「お前がサボれば、電力が尽きて艦内の空気が止まる。……真っ先に窒息するのは、この密閉された最下層にいるお前だ」

「ひっ……!?」

「逆に、死ぬ気で回せば、艦内の照明も空調も維持できる。お前は文字通り、この深海における『希望の光(電球)』になるんだよ」


それは、処刑よりも過酷な判決だった。

自分の命を繋ぐために、自分の生命力を削って回し続ける永久機関。

止まれば死ぬ。回しても死ぬほど辛い。

生かさず殺さず、最後の一滴まで搾り取られる「究極のブラック労働」。


「い、嫌だ!助けてくれぇぇ!」

「嫌なら回せ。……ほら、ノルマ(数字)が落ちてるぞ?」


アルトが指差した先。動力室の壁面モニターに、残酷なグラフが表示されていた。


[CurrentOutput:120W(Low)]

[Status:OxygenSupplyCritical]

[ToNextBreath:RotateFaster!]


枢機卿の労働が数値化され、可視化されている。

回転が鈍ると数値が赤くなり、連動して部屋の酸素バルブが閉じていくシステム。


「ひぃぃっ!回す!回すから空気をくれぇぇ!」


ギコ、ギコ、ギコ……!

必死の形相でクランクを回す枢機卿。数値が『150W(OK)』になり、プシューッと新鮮な空気が供給される。

生きるために回し、回すために生きる。

完璧な「管理労働システム」の完成だった。


「いいザマだ。……せいぜい社会(俺たち)の役に立って死ね」


アルトは満足げに頷き、動力室を後にした。


・ ・ ・


再び艦橋。

アルトはメインコンソールの前に座り、ネフィリム号の深層データ(ブラックボックス)にアクセスしていた。

この船がただの潜水艦ではないことは、構造を見れば明らかだった。


「……やっぱりな。ビンゴだ」

「社長、何かわかったんですか?」


セレスが覗き込む。

モニターには、古代語で記された膨大な航海日誌と、設計図が表示されていた。


「この船は『潜水艦』じゃねえ。……遥か昔、この星の外からやってきた『恒星間移民船』の、脱出用居住ブロックだ」

「移民船……?星の外……?」

「ああ。神殿の連中は、これを『神の箱舟』として崇めているが、実態はただの『救命ボート』だ」


アルトはデータをスクロールさせる。

そこには、衝撃的な事実が記されていた。


【警告:惑星マナ枯渇率、92%を超過】

【環境維持機能、崩壊まであと数年】

【推奨:即時、惑星からの離脱】


「……なっ」


セレスが絶句する。

アルトの表情も険しい。


「海が汚れていたのは、毒のせいだけじゃねえ。……星そのものの寿命マナが尽きかけていて、自浄作用を失っているんだ」

「そ、そんな……。じゃあ、この世界は……」

「ああ。もうすぐ死ぬ(倒産する)」


アルトは乾いた笑いを漏らした。

魚が死に、作物が育たなくなっているのは、環境汚染ではなく「老衰」だったのだ。

これは、どれほど金を積んでも、どんな技術を使っても修理不可能な「物理的限界」だ。


「沈む泥船だ。……修理リフォームじゃ間に合わん」


アルトはコンソールを叩き、一つのデータを抽出した。

それは、ネフィリム号のナビゲーションシステムに残されていた、「帰還プログラム」の座標データ。


【目的地:天空都市アガルタ(防衛中枢)】

【ルート:大気圏突破ゲート】


「……だが、逃げ道はある」


アルトの瞳に、野心と決意の炎が灯る。

彼はセレスの手を取り、力強く宣言した。


「セレス。……『空』へ行くぞ」

「空……ですか?」

「ああ。このネフィリムは元々宇宙船だ。こいつの装甲を使えば、あの大気圏バリアを突破できる」


このまま地上で座して死を待つか。

それとも、全財産を賭けて、未開の空へ飛び出すか。

商売人としての勘が告げていた。

最大のビジネスチャンス(生存ルート)は、雲の上にあると。


「新しい市場マーケットの開拓だ。……準備しろ、忙しくなるぞ」


深海の底で回る発電機の音を聞きながら、アルトは遥か天空を見上げた。

次なる戦場は、星の彼方だ。

※20251130全体の整合性を踏まえて修正しました。

次回、いよいよ第二章最終回エピローグ

深海魚の寿司パーティと、次なる野望。

アルト商会の快進撃は止まりません。


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