新入社員は、凶悪なメイドロボです
物理ハッキングによって開放されたエアロックから、アルト商会の「制圧部隊」がネフィリム号内部へと雪崩れ込んだ。
先頭を行くのは、3体のSDシスターズ(メイド型)。
それに続くのは、要塞のファクトリーで急造された数十機の「自律戦闘球」だ。
迎え撃つのは、神殿の精鋭たる聖騎士団。
重厚な鎧に身を包み、魔導剣を構えた彼らは、侵入者を見て唖然とした。
「なんだあれは……?人形……?」
「メイド服だと?舐めているのか!」
騎士の一人が、シスターズの一体に向かって剣を振り下ろした。
鉄塊を両断する剛剣。だが、その刃が届くよりも早く、メイドロボは「消失」した。
「なっ――!?」
騎士が驚愕する間もなく、視界の死角から小さな影が飛び出す。
メイドロボは騎士の懐に潜り込むと、ガチンッ!という音と共に、踵から鋭利な「固定用スパイク」を床に打ち込んだ。
小さな体で巨体を吹き飛ばすための、強固な足場の確保。
『失礼シマス』
ドゴォッ!!
「がはっ!?」
内臓を突き上げるような衝撃。騎士は数メートル吹き飛び、壁に激突して沈黙した。
ただの体術ではない。床に固定された土台から放たれる、インパクトの瞬間にパイルバンカーを打ち込む「破砕掌打」。
「て、敵襲!見た目に騙されるな!こいつら、速いぞ!」
艦内に警報が響き渡る。
だが、その時にはもう、一方的な蹂躙が始まっていた。
・ ・ ・
その頃。
要塞内の義眼サーバー――「電脳リゾート」には、激変が起きていた。
空は青から赤へ。お菓子の家はデータグリッドへ分解され、花畑はホログラフィックな戦況マップへと書き換わる。
『戦闘モード、移行!』
『お姉ちゃん(セレス)を守れ!』
『敵影多数!座標データ、共有します!』
彼女たちは「量産型聖女」。
生まれながらにして脳を改造され、並列処理に特化させられた生体CPUだ。
その呪われた才能が今、アルトの技術とリンクし、最強の「火器管制システム(FCS)」として覚醒していた。
現実世界。
ドローンに「憑依」した姉妹の一人が、魔法のような機動で銃弾を回避し、スタンロッドで敵を無力化する。
タイムラグはゼロ。
「量子もつれ通信」による超光速同期が、彼女たちの思考をダイレクトに機体へ反映させているのだ。
「道は開いた!……社長、お願いします!」
「おうよ!」
セレスの後ろから、アルトが飛び出した。
彼はドリルではなく、腰のホルダーから大型の「スタン・グレネード」を引き抜いた。
「お前ら、よくやった!……ボーナス査定に入れておくぞ!」
その時、先頭で戦っていたシスター・ワン(長女格)が、血濡れ(オイル塗れ)のスカートを翻してアルトの元へ滑り込んできた。
彼女のカメラアイが、うっとりと点滅している。
『マスター!敵性個体の排除、完了シマシタ!エリア・クリアです!』
「よし、ご苦労。……で、なんでお前はそんなに嬉しそうなんだ?」
『はい!戦闘のドサクサに紛れて、素晴らしいデータを収集できたからです!』
ワンは胸部ハッチを開き、ホログラムウィンドウをアルトの目の前に展開した。
そこに表示されていたのは、敵の機密情報でも、宝の地図でもない。
「成分分析表:アルト・ローグの入浴排水(残り湯)」という文字列だった。
『先日、マスターが入浴された際の排水データを、分子レベルで解析・保存シマシタ!これぞまさしく「聖水」!疲労回復効果アリと認定シマス!』
「……は?」
アルトが固まる。
緊迫した戦場、敵の本拠地、これから艦橋へ突入しようという最高潮の場面で、突きつけられたのは「自分の残り湯」のデータ。
「てめぇ……!何してんだバカ!んなもん解析してる暇があったら索敵しろ!」
『索敵は並列処理で行っておりますので問題アリマセン!』
「そうじゃねえ!データ容量の無駄だ!クラウドのストレージ代だって安くねえんだぞ!今すぐ捨てろ!!」
アルトが怒鳴る。
義眼のサーバー容量は有限だ。そんな汚いデータで圧迫されてはたまったものではない。
だが、ワンは首をブンブンと横に振った。
『嫌です!捨てません!』
「あぁ!?」
『このデータは、クラウド(義眼)の最深部、「システム隠しフォルダ」に格納シマス!』
ピロン♪
ウィンドウに【PasswordRequired】の文字が表示される。
『セキュリティは万全デス!パスワードは……「マスター大好き(I_LOVE_MASTER)」!!』
「やめろォォォッ!!俺の目(義眼)の中に変なもん仕込むな!恥ずかしいだろッ!!」
『ロック完了。……うふふ、これでいつでもマスターと一緒デス♪』
ワンは満足げにくるりと回り、再び戦闘態勢に戻った。
その背中からは、今まで以上に殺る気が溢れ出ている。
「……社長。なんか、シスターズの皆さん、個性が強くなってませんか?」
セレスがジト目でアルトを見る。
「知るか!……くそっ、あとでフォーマットしてやる!」
アルトは顔を赤くして叫び、スタン・グレネードのピンを抜いた。
これ以上、変な会話を続けたら調子が狂う。
「目と耳を塞げ!閃光弾だ!」
「はいっ!」
アルトはピンを抜き、こじ開けられた隔壁の向こう――艦橋へと放り込んだ。
カッ――――!!!!
強烈な閃光と衝撃音が、閉鎖空間で炸裂する。
中にいた枢機卿と取り巻きたちが、防護もなく直撃を食らい、白目を剥いて倒れる。
「制圧完了だ」
アルトが艦橋に踏み込む。
その背後で、ボロボロになった数機のドローンが、それでも誇らしげに電子音を鳴らした。
『任務完了デス、マスター(残り湯データ、バックアップ完了)』
「……チッ」
アルトは舌打ちしながらも、彼女たちの働きを認めざるを得なかった。
変態だが、有能だ。
それがアルト商会の採用基準なのかもしれない。
※20251130全体の整合性を踏まえて修正しました。
マスター大好きシスターズ覚醒!
セレスさんもマスターに近づく女の影にはジト目で威嚇!
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