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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: Ken
第2章 深海、時々ブラック企業

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20/53

有線接続は、最強のハッキングです


アルト・ワークスは、深海を切り裂く魚雷と化していた。

重力結界で水圧を弾き、MHD推進で加速する要塞は、逃走する神殿船ネフィリムとの距離を一瞬で詰める。


『後方より熱源接近!速い!振り切れません!』

『迎撃しろ!魚雷発射!』


ネフィリム号の後部発射管から、魔法魚雷が放たれる。

だが、アルトは眉一つ動かさない。


「遅い」


彼は操縦桿を僅かに倒した。

要塞の周囲に展開された重力結界が偏向し、迫りくる魚雷を「斥力」で弾き飛ばす。軌道を逸らされた魚雷は、何もない深海で虚しく爆発した。


「射程圏内!……取り付くぞ!」


ドォォォン!!

要塞がネフィリム号の側面に激突した。

いや、激突する寸前で「重力ブレーキ」をかけ、相対速度をゼロに合わせてソフトランディング――というには乱暴すぎる勢いで、船体に接触した。


「重力アンカー、全門射出!逃がすな!」


ガシュン、ガシュン、ガシュンッ!!

要塞の底面から、鋭利なスパイクを備えた複数のアンカーが射出される。

それらはネフィリム号の装甲に深々と突き刺さり、二つの巨体を物理的に結合ロックさせた。


『なっ、張り付かれた!?』

『振りほどけ!』


ネフィリム号が暴れるが、重力制御で質量を増大させた要塞は、巨大な寄生虫のように離れない。


「捕まえたぜ。……だが、この深度でただ穴を開けりゃ、水圧で艦内が水浸しだ」


アルトは冷静に、重力制御の出力を調整した。


「重力結界、指向性展開!接地面の海水を排除して『ドライドック』を作れ!」


ブォォォン!

要塞を包んでいた真空の泡が変形し、ネフィリム号の装甲に吸盤のように密着する。

接合部の海水が弾き出され、ドリルを打ち込むための「無水空間」が確保された。


「よし、防水完了。……ここからは『開錠作業』だ」


アルトはコンソールの右側にある、厳重なカバーで覆われたスイッチを弾いた。

要塞の側面ハッチが開き、そこから異様な輝きを放つ「巨大なドリル」がせり出してくる。

その刃は、かつて魔王城の門に使われていた神話級金属――アダマンタイトを、錬金術で鋳造し直した特注品だ。


「相手は古代の遺産だ。生半可なドリルじゃ刃が立たん。……だが、同じ硬度の金属なら話は別だ」


アルトは左目の眼帯を外し、「ベリアルの義眼」を接続したインターフェースを起動した。

赤く光る義眼が、ネフィリム号の装甲をスキャンする。


『解析開始。……装甲材質、未確認合金。固有振動数、特定完了』


システム音声(姉妹の声)が響く。


「硬いなら、砕けばいい。……『超音波振動ソニック・バイブレーション』、同調開始!」


キィィィィィィン……!

アダマンタイト・ドリルが、耳をつんざくような高周波で振動を始める。

敵の装甲の「固有振動数」に合わせて振動させることで、分子結合を強制的に解く「共振破壊レゾナンス・ブレイク」。


「貫けェッ!!」


ギャリリリリリリリッ!!!

振動するドリルが、ネフィリム号の側面に押し当てられた。

通常なら弾かれるはずの超硬装甲が、まるで砂の城のように崩れ、ドリルに飲み込まれていく。

火花ではなく、装甲が霧状に分解される光景。


『そ、装甲融解!第三隔壁、突破されました!』

『バカな!オリハルコン合金だぞ!?なぜ穴が開く!』


枢機卿の悲鳴を他所に、ドリルは正確に狙った一点――装甲の下に隠されていた「メンテナンス用接続ポート」へと到達した。


「貫通確認!……ドリル収納、マニピュレーター展開!」


穴の開いた装甲から、ドリルが引き抜かれる。

結界による防水空間のおかげで、浸水はない。

代わりに伸びたのは、一本の太いケーブルを掴んだ作業用アームだ。


「今の時代、無線(Wi-Fi)なんてジャミングされれば終わりだ。セキュリティも堅い。……だがな」


アルトはニヤリと笑った。


「物理的に『LANケーブル』を直挿しされちゃ、ファイアウォールもクソもねえんだよ!」


ガシュッ!!

アームがコネクタをねじ込んだ瞬間――


バチチチチチチッ!!!!


接続部から、青白いプラズマの火花が爆発的に噴き出した。

あまりのデータ量に、要塞をつなぐ極太ケーブルが蛇のようにのたうち回り、赤熱して発光する。

艦内でもコンソールから煙が上がり、火花が散る。


「ぐっ!?すげえ『情報の逆流バックドラフト』だ……!セキュリティが物理的に殴り返してきやがる!」


アルトの顔に火花が振りかかる。


「だが、繋がっちまえばこっちのモンだ!ねじ伏せろ!!」


物理接続ハードウェア・コネクト、完了。


「よし、パス開通!……おい、ニートども!仕事の時間だぞ!」


アルトが義眼サーバーに向かって怒鳴る。

瞬間、要塞内の空気が変わった。


『はーい!出勤しまーす!』

『お菓子分は働くよ!』

『敵艦システムへ、侵攻開始ダイブ!』


電脳リゾートでくつろいでいた数百人の「量産型聖女(の魂)」たちが、一斉にケーブルを通じてネフィリム号のネットワークへと雪崩れ込んだ。

彼女たちはただの少女ではない。神殿によって作られた、並列演算処理に特化した生体CPUの集合体だ。


・ ・ ・


ネフィリム号の艦橋。

突然、全てのモニターが真っ赤に染まった。


『警告!システム侵入!制御権限が奪われています!』

『ファイアウォール、突破!早すぎる、なんだこの演算速度は!?』


オペレーターたちが絶叫する。

画面には、無数のウィンドウがポップアップし、システム領域を食い荒らしていく。

それはウイルスプログラムではない。

数百人の「意思」が、手作業で高速かつ的確に、艦の制御を書き換えているのだ。


「止めるんだ!回線を切れ!物理的に切断しろ!」


枢機卿が叫ぶが、もう遅い。

艦内の照明が明滅し、重力制御が狂い始める。


『動力炉、停止!』

『隔壁閉鎖!艦内空調、制御不能!』

『ダメです、こちらの操作を受け付けません!』


アルト・ワークスのコックピットで、アルトはコーヒーを飲みながら、制圧されていく敵艦のステータス画面を眺めていた。


「物理で穴を開けて、有線で流し込む。……これぞ最強のハッキングだ」


野蛮で、原始的で、それゆえに防ぎようがない。

神殿の誇る古代船は、たった一本のケーブルから注ぎ込まれた「悪意(と姉妹たちの労働力)」によって、機能不全に陥った。


「メインシステム掌握完了。……さて、次は艦内の『害虫駆除』だ」


アルトはセレスを見た。

彼女は杖を握りしめ、緊張した面持ちで立っている。


「セレス、準備はいいか?艦内にはまだ武装した兵士がウジャウジャいる。……お前の『妹たち』を使って、制圧してこい」

「……はい!彼女たちを、もう誰にも利用させません!」


セレスの瞳に、決意の炎が宿る。

彼女はもはや、守られるだけの聖女ではない。数百の魂を背負う、戦場の指揮官だ。


「SDシスターズ、および戦闘用ドローン、全機起動!……突入エントリー!」


接続されたケーブルの横、エアロックが開放される。

そこから、可愛らしくも凶悪な機械の軍勢が、敵艦内部へと飛び込んでいった。

※20251130全体の整合性を踏まえて修正しました。

無線がダメなら有線で刺す。魔法の世界でも、物理レイヤーは最強です。

物語は決着へと向かいます。

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