表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: Ken
第1章 本日開業、アルト商会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/53

魔獣は、美味しい食材です


轟音と共に、リヤカーの側面ハッチが開放された。

そこから飛び出したのは、光り輝く魔法の砲身――ではない。

無骨で、凶悪な回転音を上げる、巨大な「吸引ノズル」だった。


「さあ、開店オープンだ!……主砲『次元集塵撃ディメンション・クリーナー』、起動!!」


アルトが叫び、コンソールのレバーを引く。

その額には、ガスマスクの下で冷や汗が流れていた。


「(頼むぞ……!この一撃に、セレスから吸い上げた魔力の8割を突っ込んだ!外せばエネルギー枯渇(ガス欠)で即・倒産(死)だ!)」


経営者の心労を知らぬまま、ノズルの先端に物理的な「吸引フィールド」が発生する。


ズオオオオオオオオオオッ!!!

空間ごとねじ切るような吸引力が、迫りくる汚染魔獣マッド・ボアを捉えた。


「ギ、ギャオッ……!?」


魔獣の悲鳴が裏返る。

全長5メートルの巨体が、抗う間もなく空中に浮き上がり、ノズルに向かって一直線に吸い込まれていく。

まるで、巨大な掃除機に吸われる塵のように。


「骨が硬ぇな……!『粉砕ミンチ』モード、起動!」


ガリガリガリガリガリッ!!

リヤカー内部のブラックボックスから、身の毛もよだつ粉砕音が響く。

セレスは青ざめて耳を塞いだ。

今、自分の背後で、生物が「加工」されている。


「汚染部位と魔石を遠心分離!毒素抽出ライン、全開!」


ブシュゥゥゥゥゥッ!!

リヤカーの底面に設置された排出口から、ドス黒く濁った粘液が勢いよく吐き出された。

地面に落ちた瞬間、ジューッという音と共に土を溶かす猛毒の廃液。

鼻が曲がるような刺激臭が立ち込める。


「ひっ……!」

「ビビるな、ただの搾りカスだ。……よし、浄化完了。仕上げだ、摩擦熱で『瞬間加熱ヒート』!!」


アルトが手元の電卓を弾くように、次々とスイッチを切り替える。

彼の脳内では、高速で損益分岐点の計算が行われていた。


「(弾薬費ゼロ。燃料費はセレス持ち。加工コストは最小限……。よし、この歩留まりなら『黒字』だ!)」


シュゴオオオオオオオッ!

リヤカー後部の排気口から、猛烈な白い蒸気が噴き出した。

同時に漂うのは、先程までの死臭ではない。暴力的に食欲をそそる、肉の焼ける匂い。


「加熱完了。真空パック、封入」


コロン、コロン。

システム音声と共に、上部のトレイから転がり出てきたのは――数個の「銀色のブロック」と、輝く「魔石」だった。

湯気を立てる熱々の真空パック。

表面には無機質なフォントで『TYPE-B(BOAR)/1.5kg』と印字されている。


「……え?」


セレスは呆然と、それを凝視した。

さっきまで私たちを殺そうとしていた怪物が。

わずか数秒で、手のひらサイズの「商品」に変わっていた。


「ふぅ……。上出来だ、新入り」


静寂が戻った荒野で、アルトがガスマスクを外し、乱暴に汗を拭った。

そして、足元のパックを一つ拾い上げると、セレスに放り投げてよこした。


「ほらよ。初任給ボーナスだ」

「こ、これは……?」

「さっきの豚だ。食え」

「へ……?」


セレスの思考が追いつかない。

魔獣を?食べる?

汚染された魔獣の肉は猛毒だ。食べれば一瞬で死に至る。それがこの世界の常識だ。

それに、なぜこんな綺麗な包装がされているのか。


「……あ、あの。これ、なんでこんな袋に……?」

「保存のためだ。当たり前だろ」


アルトは心底不思議そうに答えた。


「いいか?生物は死んだ瞬間から『腐敗』が始まり、資産価値が暴落する。俺は『損』が大っ嫌いなんだよ。だから、鮮度を永遠に固定するために、この真空パック機能を最優先で実装した」


狂気じみた合理性。

戦闘機能よりも先に、資産保全(鮮度維持)機能を組み込んだというのか。


「さあ、食え。毒素はさっきので全部抜けた」

「で、でも……魔獣ですよ……?」


セレスの手が震える。

頭では理解しても、本能が拒否している。

これを食べたら死ぬかもしれない。

グゥゥゥ……。

だが、彼女の腹は正直だった。

肉の焼ける匂いが、理性を揺さぶる。

数日間、泥水しか飲んでいない体は、限界を超えていた。


「……チッ。疑い深いな」


アルトは舌打ちし、もう一つのパックを開けた。

プシュッ!

芳醇なガーリックソースの香りが弾ける。


「見てろ」


彼は躊躇なく、分厚い肉塊にかぶりついた。

ガブッ、ムシャムシャ、ゴクリ。

喉が鳴る。


「……ん。焼き加減はレア寄りか。悪くねえ」


アルトは口元を拭い、ニヤリと笑った。


「ほら、死んでねえだろ?……俺は自分の商品を一番信用してるんでな」


その言葉と行動が、最後の壁を壊した。

セレスは震える手でパックを開けた。

立ち昇る湯気。

意を決して、小さな一口を口に運ぶ。


「(……いただきます)」


口の中に広がったのは、死の味ではなかった。

濃厚な肉の旨味と、脂の甘み。そして、生きるための熱量だった。


「……っ!」

「どうだ?俺の技術あじは」

「……おいしい……。すごく、おいしいです……!」


ポロポロと、大粒の涙がこぼれ落ちた。

美味しい。温かい。

誰かに食事を与えられること。それがこんなにも幸せなことだなんて、忘れていた。

自分はもう「廃棄物」ではない。

食べて、消化して、明日を生きようとする「人間」なのだ。


「……んむ。ならいい」


アルトは、涙を流して肉を頬張るセレスを見て、バツが悪そうに顔を背けた。

その耳がわずかに赤くなっていることに、セレスは気づかなかった。


「いいかセレス。貧困から脱出する鍵は『食料自給率』だ。……敵を倒すだけじゃ一文の得にもならん。だが、敵を『食料』に変えれば、食費が浮く」


アルトは空になったパックを握りつぶした。


「これが『拡大再生産』だ。……生き残りたければ、奪った命を血肉に変えろ」


荒野に、二人が食事をする音だけが響く。

それは、世界を変える「アルト商会」の、ささやかで力強い最初の宴だった。

※20251130全体の整合性を踏まえて修正しました。

聖女様、祈りを捨てて「燃料」へ!そして謎のエコ・クッキング! 少しでも「面白かった!」「あのパックの中身は何!?」と思っていただけたら、 ブックマークや評価(ページ下の☆☆☆☆☆)で応援いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ