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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: Ken
第2章 深海、時々ブラック企業

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商談は、安全圏から行うものです


アルト商会の「救助(有料)」提案に対し、神殿船ネフィリムの回答は「逃走」だった。


『ふざけるな!異端の業者の助けなど借りん!……急速潜航!深海へ逃げろ!』


通信機から枢機卿の怒号が響く。

ネフィリム号は船体からバラスト(重り)を吐き出し、クラーケンの触手を振りほどくと、そのまま垂直に海中へと没していった。

目指すは深度3000メートルの深海。水圧という天然の防壁で、追手と怪物を圧殺するつもりだ。


「チッ、交渉決裂か。……素直に金を払えばいいものを」


アルトは呆れたように肩をすくめると、操縦桿を押し込んだ。


「追うぞ。逃げ得は許さん」

「えっ!?潜るんですか!?深海ですよ!?」


セレスが青ざめる。

深海の水圧は、鉄の塊さえも飴細工のように押し潰す。いかに魔王城の装甲とはいえ、潜水艦として設計されていないこの要塞が耐えられる保証はない。


「安心しろ。……物理法則なら、もうねじ伏せた」


アルトはコンソールの「重力制御(G-コントロール)」の出力を最大に上げた。


「水圧ってのは、要するに『全方位から掛かる重力』だ。……なら、こっちから外向きに『反重力』を掛けて押し返せばいい。プラスマイナス・ゼロだ」


ブォォォン……!

要塞を包む重力結界が唸りを上げ、周囲の海水を目に見えない力で押し戻す。

理論上、この結界が稼働している限り、要塞にかかる水圧はゼロだ。


潜航開始ダイブ!……地獄の底まで集金に行くぞ!」


ズボォッ!!

アルト・ワークスは、泡のスーパーキャビテーションを纏ったまま、ネフィリムの後を追って垂直に潜り始めた。


深度1000……2000……。

光の届かない暗黒の世界。

だが、要塞の内部は、地上の王宮よりも快適だった。


『室温24度、湿度50%に固定しまーす!』

『照明、リラックスモードに切り替え!』

『BGM、優雅なクラシックを流すね!』


義眼サーバーの中の姉妹たちが、艦内環境を完璧に制御しているのだ。

スピーカーから流れる優雅なワルツ。淹れたてのコーヒーの香り。

窓の外では深海魚が泳ぎ、敵艦が必死に逃げているが、こちら側はまるで高級ホテルのラウンジだ。


「……なんというか、緊張感がありませんね」

「商談に緊張感なんざ不要だ。常にリラックスして、相手を見下ろす。それが鉄則だ」


アルトはソファに深く腰掛け、足を組んだ。

そして、モニターに映るネフィリム号――水圧にきしむ敵艦の姿を見据えた。


「追いついたぞ。……『営業担当』、射出」


アルトがボタンを押すと、要塞のハッチから一つの「物体」が吐き出された。

それは、ブースターを取り付けたドラム缶に、液晶モニターとマイクをガムテープで貼り付けたような、あまりにも粗末な「ロボット」だった。

その尻からは、要塞へと繋がる一本の「通信ケーブル」が伸びている。


「あれは……?」

「『交渉代理ロボ・初号機』だ。深海じゃ電波も届かねえし、俺がわざわざ危険な敵艦に乗り込む必要もねえ。……有線リモートで十分だ」


ドラム缶ロボは、ケーブルを曳きながら海中をふらふらと進み、ネフィリム号の艦橋ブリッジの窓に接近した。


ベコンッ!

ロボットの腹についた「工業用・強力吸盤」が、艦橋の強化ガラスに無様に吸い付く。

そして、窓越しにモニターを光らせる。


・ ・ ・


一方、ネフィリム号の艦橋はパニックに陥っていた。


「水圧上昇!結界強度、限界です!」

「振り切れません!謎の熱源、真後ろに吸い付かれています!」

「ええい、何なのだあの鉄塊は!なぜ潰れん!」


指揮官である枢機卿が、脂汗を流して叫ぶ。

その時だった。

艦橋のメインウィンドウに、突然「ドラム缶」がへばり付いた。

その胴体に貼り付けられたモニターが発光し、アルトの不敵な顔が映し出された。


『――よう。逃げ足だけは速いな、神殿さんよ』

「なっ、貴様!?無礼な!」


窓の外から吸盤で張り付くドラム缶。そのシュールさと、そこから響く傲慢な声に、枢機卿は絶句する。

アルトは要塞のソファでコーヒーを啜りながら、有線モニター越しに語りかけた。


『単刀直入に言おう。……その船、もう助からんぞ』


アルトは、ソナーが捉えた映像を別ウィンドウで表示した。

ネフィリム号の背後、暗闇の奥から、クラーケンの触手が執拗に迫ってきている。深海に適応した怪物は、水圧などものともせず追ってきているのだ。


『我々の調査では、お宅の船の結界発生装置、もう焼き切れる寸前だろ?クラーケンに捕まるか、水圧でペシャンコか。……残された時間はあと10分ってところか』

『ぐぬぅ……!』


図星だった。

ネフィリム号は限界だ。


『そこで提案だ。……我々がクラーケンを排除し、安全を保証する。その代わり――』


アルトは、悪魔の条件を提示した。


『その船の「乗船権」および「航行データの全閲覧権限」を寄越せ。……要するに、船を明け渡せ』

「ふ、ふざけるなァッ!!」


枢機卿が激昂し、唾を飛ばした。


「この船は神の聖域!貴様のような薄汚い商人に渡せるか!これは神への冒涜だ!」

『冒涜?……ハッ、命よりプライドが大事か。結構な信仰心だな』


アルトは冷たく笑い、通信を切ろうとした。


『交渉決裂だ。……じゃあな、海の底で神に祈ってろ』

「待て!……撃て!そのふざけたドラム缶を撃ち落とせ!」


枢機卿の命令で、船外の銃座が火を噴く。


バシュッ!

ドラム缶ロボはあっけなく撃ち抜かれ、爆発四散した。

繋がっていたケーブルが切れ、海中を漂う。


――プツン。

要塞内のモニターが砂嵐に変わる。

それを見たアルトは、怒るどころか、満足げに頷いた。


「……よし。向こうから手を出したな?」

「しゃ、社長?ロボットが……」

「あれはただの『平和的解決のポーズ』だ。……これで名実ともに、向こうが『交渉を拒否し、攻撃してきた』という既成事実ができた」


アルトは空になったコーヒーカップを置き、操縦桿を握り直した。

その瞳から、商人の色が消え、冷徹な略奪者の色が宿る。


正当防衛カウンターの成立だ。……総員、突撃!力ずくで『資産』を回収するぞ!」


要塞が唸りを上げる。

安全圏からの交渉は終わった。ここからは、物理による強制執行の時間だ。

※20251130全体の整合性を踏まえて修正しました。

交渉(という名の挑発)からの、強制突入!

次回、船内制圧戦!

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