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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: Ken
第2章 深海、時々ブラック企業

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遭難信号は、美味しいルアーです


神殿船ネフィリムから数キロ離れた海域。

海流に乗って静かに潜航する移動要塞の中で、アルトは作戦会議を開いていた。


「いいか。正面からあのデカブツ(ネフィリム)と撃ち合うのはコストの無駄だ」


アルトはモニターに映る300メートル級の巨艦を指差した。

腐っても神殿の旗艦だ。強力な結界と迎撃兵装を備えている。まともにやり合えば、こちらの弾薬費(経費)が嵩むし、せっかくの「商品(船体)」が傷つく。


「商売の基本は『競合の自滅』を待つことだ。……だが、待ってるだけじゃ日が暮れる。だから背中を押してやる」


アルトは不敵に笑い、セレスを見た。


「セレス、出番だ。お前のその『無駄に美味そうな魔力』を撒き餌にする」

「えっ?美味そう……ですか?」

「ああ。魔物にとって、高純度の魔力は極上の御馳走だ。特にお前のはS級の輝きを放ってる。……こいつを増幅して垂れ流せば、腹を空かせた『海の掃除屋』が釣れるはずだ」


魔物誘引ルアー作戦。

自分たちで手を下さず、野生の脅威を誘導して敵を削らせる、効率的かつ悪辣な戦術。


「でも社長、そんな強力な信号を出したら、私たちも襲われませんか?」

「そこは『新入り』たちの仕事だ。……おい、聞こえるか?」


アルトが義眼サーバーに呼びかけると、コンソールのスピーカーから、賑やかな声が返ってきた。


『はーい!準備できてるよー!』

『座標計算、完了!誤差修正よし!』

『お姉ちゃんの魔力、増幅器アンプに接続!』


電子の精霊となった量産型聖女たちだ。

彼女たちは電脳リゾートの快適なデスク(お菓子の家)から、要塞の電子制御系を掌握し、完璧なオペレーションを行っていた。


「彼女たちに、お前の魔力波形を指向性の『極超短波ビーム』に変換させる。……つまり、全方位にばら撒くんじゃなく、特定の『獲物』に向けてピンポイントで『ご飯だよー』と囁くわけだ」


そうすれば、要塞の位置を悟られずに、特定の魔物だけをネフィリムへ誘導できる。


「狙う獲物は、この海域のヌシ……『深海大王イカ(クラーケン)』だ」


アルトがターゲットを指定した。

全長100メートルを超える、深海の悪夢。ネフィリム号にとっても脅威となる化け物だ。


「よし、作戦開始オープン!……餌を撒け!」

「はいっ!いきます……!」


セレスが杖を構え、魔力を放出する。

本来なら周囲に拡散するはずの光が、システムに介入した姉妹たちの演算によって、一本の目に見えない「糸」へと収束していく。


『リンク確立!出力1200%!』

『美味しい匂い、届けー!』


ビシュゥゥゥン!!

要塞のアンテナから、圧縮された魔力信号が深海に向けて射出された。

それは人間には知覚できないが、魔物にとっては抗いがたい「食欲の爆弾」だった。


数分後。

ソナー担当の姉妹から、緊迫した(しかし楽しげな)報告が入った。


『反応あり!深度5000から急浮上中!……すっごく大きいよ!』

『進路、計算通り!ネフィリム号に向かってる!』

「来たか。……全艦、隠蔽率最大ステルス・マックス!高みの見物といこうぜ」


アルトは照明を落とし、エンジンの出力を絞った。

そして、モニターに映るネフィリム号の様子を注視する。


ズズズズズ……!

突如、ネフィリム号の直下の海面が、山のように隆起した。

轟音と共に、海が割れる。


「ギョオオオオオオオオオッ!!」


現れたのは、船体をも絡め取るほど巨大な触手と、憎悪に燃える巨大な目玉。

クラーケンだ。

セレスの魔力(匂い)に釣られて浮上したが、その匂いの発生源(要塞)はステルスで隠れている。

結果、目の前にいた「魔素を垂れ流す巨大な船」を、餌の正体だと誤認したのだ。


『敵襲!敵襲ゥゥッ!』

『バカな、なぜこんな浅瀬にクラーケンが!?』

『結界が持たん!迎撃しろ!』


ネフィリム号は大混乱に陥った。

巨大な触手が船体に巻き付き、締め上げる。バリバリと結界が悲鳴を上げ、装甲がひしゃげる音が海中に響き渡る。


「うわぁ……。すごい締め付けです……」

「いいぞ、その調子だ。もっと締めろ、もっと暴れろ」


セレスが顔をしかめる横で、アルトはポップコーン(帝国で仕入れた乾燥コーンの試作品)を頬張りながら、悪魔のように笑っていた。


「装甲が歪み、弾薬を浪費し、乗員が疲弊する。……俺が何もしなくても、敵の資産価値(HP)がどんどん削れていく。最高のショーだ」


数十分後。

ネフィリム号は必死の抵抗でクラーケンを追い払いつつあったが、その代償は大きかった。

船体はあちこち破損し、メインエンジンからは黒煙が上がっている。結界の出力も虫の息だ。


「……さて。頃合いだな」


アルトはポップコーンのカスを払い、襟を正した。

敵が弱りきり、喉から手が出るほど助けを求めている、絶妙なタイミング。


「セレス、通信機を開け。……『営業』の時間だ」

「はい、社長。……本当に性格が悪いですね(褒め言葉)」


セレスが苦笑しながら回線を開く。

アルトはマイクに向かって、とびきり爽やかな「救助隊」の声色を作った。


指向性音響波ソニック・ビーム、照射。……相手の受信許可なんざ知ったことか。船殻を直接振動させて、無理やり声を届けてやる」


ブォォォン……。

要塞から放たれた不可視の音波が、ネフィリム号の装甲に命中し、船体全体をスピーカーとして振動させた。


『――こちら、民間軍事会社「アルト商会」。そちらの船、随分と困っているようですね?』


船内中に響き渡る大音響。

パニック状態のネフィリム号の乗員たちは、天井を見上げた。


『な、何者だ!?我々は聖光教の巡礼船だぞ!』

『おやおや、神聖な船が怪物に襲われて沈没寸前とは。神のご加護が足りないのでは?』


アルトは嘲笑を含んだ声で畳み掛ける。


『ですがご安心を。我々はプロです。……「有料」でよければ、その厄介なタコ(イカですが)を追い払い、安全な港まで曳航して差し上げますが?』


それは救済の提案ではない。

足元を見まくった、悪魔の商談だった。


「さあ、選べよ枢機卿。……『プライドを抱いて沈む』か、『金を払って助かる』か」


アルト・ワークスが、擬態を解いて姿を現す。

混乱する戦場に、漆黒の要塞が悠然とエントリーした。

※20251130全体の整合性を踏まえて修正しました。

まさかのクラーケン釣りから、マッチポンプ回収。

少しでも「続きが気になる!」「アルト社長の対応力がすごい!」と思っていただけたら、

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