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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: Ken
第2章 深海、時々ブラック企業

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廃棄聖女は、S級の生体CPUです


死の海を、気泡を纏った要塞が疾走する。

アルト・ワークスは、汚染源である神殿船『ネフィリム』へと肉薄していた。


「……動きがあるぞ」


操縦桿を握るアルトが目を細める。

重力波レーダーが、前方の巨大船から何かが放出されたことを捉えたのだ。

攻撃ではない。ネフィリム号の底部ハッチが開き、無数の「小さなカプセル」が次々と海中へ投棄されている。


「ゴミ捨てか?余裕なこったな」

「待ってください社長!あれ……中に『人』がいます!」


モニターを凝視していたセレスが悲鳴を上げた。

重力波レーダーは、カプセル内部に微弱な、しかし確かな生体反応を検知していた。それも一人や二人ではない。数百という数だ。


「人だと?……死体処理か?」

「いいえ、生きてます!でも、すごく弱ってる……!」


アルトは舌打ちし、進路を変更した。

沈んでいくカプセルの一つに、要塞を急接近させる。

サブアームを伸ばし、泥に埋もれかけていたカプセルを回収。エアロックを経て、艦内の解体ドックへと引き込んだ。


プシューッ……。

ドックの照明の下、泥にまみれたカプセルが鎮座する。

それは粗末な鉄製の棺桶だった。表面には『試作体・廃棄』という無機質な焼き印が押されている。

アルトがバールで蓋をこじ開けた。


「……ッ!?」


中を見た瞬間、セレスが息を呑み、その場に崩れ落ちそうになった。

そこにいたのは、セレスと同じ銀色の髪を持つ少女だった。

年齢は10代前半。だが、その肌は陶器のようにひび割れ、隙間から青白い光(魔力)が漏れ出している。

彼女は虚ろな目で天井を見つめ、浅い呼吸を繰り返していた。


「……あ……う……」

「ひどい……。体が、ボロボロです……」


セレスが駆け寄り、治癒魔法をかけようとする。

だが、アルトがその手を掴んで止めた。


「無駄だ。見ろ」


アルトは少女の腕を指差した。

そこには『No.403-Error』という焼き印があった。セレスの番号が『402』だったことを思い出させる。


「こいつらは『量産型聖女クローン』だ。……お前と同じ因子を使って培養された、紛い物のコピー品だ」


神殿は、セレスという成功例をもとに、さらなる魔力供給源(電池)を作ろうとしたのだろう。

だが、技術が未熟だったのか、あるいはコストカットの結果か。

彼女たちの肉体は、自身の魔力出力に耐えきれず、細胞レベルで自壊を始めていた。


「魔力回路の暴走による多臓器不全。全身の細胞が壊死しかかっている。……もう手遅れだ。どんな名医でも治せねえ」


技術屋としての冷徹な診断。

それは、彼女にとっての死刑宣告だった。


「そんな……!助けてください社長!彼女は、私の妹みたいなものなんです!」


セレスが涙ながらに懇願する。

だが、アルトは首を横に振った。


「『修理ヒール』は不可能だ。ハードウェア(肉体)が寿命を迎えてる。無理に延命しても、苦しみを長引かせるだけだ」


アルトは棺桶の中の少女を見た。

彼女には自我がほとんどないように見えた。神殿によって思考を奪われ、ただ祈るだけの道具として消費され、壊れたら捨てられた。

資源の無駄遣い。命の冒涜。

何より、その杜撰な管理体制マネジメントに、アルトの職人魂が激怒した。


「……チッ。胸糞悪い連中だ」


アルトは懐から、一つの「宝石」を取り出した。

それはベリアルから奪った、赤く輝く高性能義眼。

移動中に解析を済ませていたそれは、魔王城のシステムと同じ古代規格で作られた、超高密度の演算結晶体だった。


肉体ハードは救えねえ。……だが、中身ソフトだけなら救えるかもしれん」

「えっ?」

「『魂魄転写ソウル・マイグレーション』だ」


アルトは要塞のメインコンソールに義眼を接続し、キーボードを叩いた。


「この義眼の中身をフォーマットして、空っぽの『器』にした。……彼女たちの意識データを肉体から切り離し、このクリスタルの中に移住させる」


それは、肉体を捨てるという究極の選択。

だが、このまま海に沈んで藻屑になるよりは、遥かにマシな希望だった。


「やるぞ。……おい、聞こえるか?」


アルトは少女の耳元で呼びかけた。


「お前の体はもう動かん。だが、魂だけでいいなら、俺が雇ってやる。……どうする?暗い海で死ぬか、俺のところで働くか」


少女の虚ろな瞳が、わずかに揺れた。

彼女は震える手で、セレスの服の裾を掴んだ。


――生きたい。


言葉にはならなくても、その意思は伝わった。


「契約成立だ。……セレス、リンクを手伝え!彼女たちの魂を引っこ抜いて、この義眼サーバーへ叩き込む!」

「は、はいっ!」


セレスが魔力を注ぎ、アルトが術式を構築する。

要塞のサブアームがうなりを上げ、棺桶の側面にある「外部接続ポート」へと物理プラグを突き刺した。


ガシュッ!


「パス開通!転送開始!」


少女が光に包まれる。

同時に、アルトは船外のサブアームを総動員し、海中を漂う他の数百の棺桶からも、次々とプラグを接続して「光の魂」を回収していった。


ヒュン、ヒュン、ヒュン……。

無数の光の粒子が、ケーブルを通じて赤い義眼の中へと吸い込まれていく。

やがて、すべての光が収まると、少女たちの肉体は糸が切れたように崩れ落ち、さらさらと砂のように風化して消えた。


「……っ!?」

「驚くな。こいつらの体は、無理やり魔力で結合を維持していただけだ。コア(魂)を抜けば、細胞の結びつきが解けて土に還る。……自然なことだ」


アルトの網膜コンソールには、高速で流れる転送ログが表示されていた。


[System:Soul_DataMigrationInitiated...]

[Target:403_Clone_Series(Quantity:328)]

[TransferRate:50TB/sec]

[████████████░░░░]72%...


「よし、パケットロスなし。……ハッシュ値、一致」


それは昇天でも浄化でもない。

物質世界ハードウェアから電脳世界クラウドへの、完全なる「データ移行(引越し)」だった。


アルトが額の汗を拭う。

ドックには静寂が戻っていた。数百人の命が消え、そして形を変えてここに在る。


「社長……あの子たちは?」

「中を見てみろ。……俺が突貫で作った『社員寮』だ」


アルトはモニターに、義眼内部の仮想空間(VR)の映像を映し出した。

そこは、青い空と白い雲、お菓子の家が並ぶ楽園リゾートだった。

健康な体を取り戻した少女たちが、そこで走り回っている。


「よかった……みんな、無事なんですね……」

「ああ。だが、タダ飯ぐらいを養う余裕はウチにはねえぞ」


アルトはニヤリと笑い、コンソールに新たなコマンドを入力した。


「おい、新人ども!聞こえるか!助けてやった礼に、早速働いてもらうぞ!」

『えー!?』『もう仕事ー?』


スピーカーから不満げな、しかし元気な声が返ってくる。


「お前らに新しい『制服』と『体』を支給する。……そこのポンコツどもを使え」


アルトが指差したのは、部屋の隅で待機していた3体の「SDシスターズ」だった。

可愛らしいメイド服を着た、しかし中身は戦車並みの出力を持つ怪物たち。


「こいつらはパワーだけなら最強だが、AIが馬鹿すぎて掃除しかできねえ。……宝の持ち腐れだったんだよ」


アルトは義眼サーバーと、SDシスターズの制御回路を無線リンクさせた。


「お前らの『並列演算能力』と『魂』があれば、このハイスペックな機体を完璧に使いこなせるはずだ。……ログインしろ!」

『わぁ!可愛い服!』

『動ける……!私、外に出られるの!?』


ヒュンッ!

義眼からデータが飛び、SDシスターズの目が輝いた。

これまでのような無機質な光ではない。知性と感情を宿した、人間の瞳。


「――テスト動作、開始シマス」


中央のシスターズ(シスター・ワン)が、ゆっくりと片足を上げた。

そして、バレリーナのように優雅にクルリと回転し、音もなく着地した。

その動きには、以前のカクカクした機械的な硬さは微塵もない。

人間以上に滑らかで、それでいて爆発的なエネルギーを秘めた挙動。


「すごい……!まるで生きているみたい……!」

「当然だ。中身は『人間』なんだからな」


アルトは満足げに頷いた。

戦車並みのハードウェアに、聖女クラスのソフトウェア(魂)。

ここに、最強のハイブリッド・メイドが誕生した。


「これなら戦闘はもちろん、精密作業から『ダンス』まで何でもこなせるな。……多機能マルチな人材だ」

『マスター!この体、凄いです!力が溢れてきます!』

『お姉ちゃん!私、強くなったよ!』


シスターズがセレスに抱きつく。

その小さな体からは、温かい駆動熱が伝わってきた。


「ありがとうございます……!社長、本当に……!」


セレスが涙ぐむ。

アルトは照れくさそうに顔を背け、モニターの地図を睨んだ。


「礼なら仕事で返せ。……さあ、人員スタッフは揃った」


アルトは獰猛に笑った。


「あいつらは『人材たから』をゴミのように捨てた。その報いは、きっちり払ってもらうぞ」


数百人の「電子の精霊」と、最強の「義体」を手に入れた移動要塞。

その矛先は、非道な神殿船へと向けられた。

※20251130全体の整合性を踏まえて修正しました。

第17話、新ヒロイン(?)加入回です!

次回、いよいよ敵艦へカチコミ!

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