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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: Ken
第2章 深海、時々ブラック企業

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海洋汚染は、許されざる資源ロスです


鉄鋼帝国での「商談(と略奪)」を終えた移動要塞アルト・ワークスは、西へとひた走っていた。

荒野を抜け、峠を越え、数日後。

視界いっぱいに、青い水平線が広がった。


「うわぁ……!海!海ですよ社長!」


助手席で、純白のドレスを纏ったセレスが窓に張り付いて歓声を上げる。

生まれも育ちも内陸の廃棄場だった彼女にとって、海を見るのはこれが初めてだ。

太陽を反射してキラキラと輝く水面。寄せては返す波の音。磯の香り。

それは、地獄のような日々を送ってきた彼女にとって、世界の広さと美しさを象徴する光景だった。


「すごいです……!こんなに水があるなんて……!まるで宝石みたい……」

「ああ、そうだな。……極上の『生け簀(在庫)』だ」


運転席でハンドルを握るアルトの感想は、情緒の欠片もなかった。

彼の目は、感動ではなく「鑑定」の色を帯びている。


「海水に含まれる塩分、ミネラル、そしてレアメタル。何より、あの水面下に眠る膨大な魚介類(タンパク源)。……まさに手つかずの巨大市場ブルーオーシャンだ」


アルトは舌なめずりをした。

彼にとって海とは、ロマンではなく「資源の塊」なのだ。


「さあ、行くぞセレス。まずは『海鮮丼』の素材確保だ」

「もう、社長ったら……。でも、どうやって海に入るんですか?この要塞、大きすぎませんか?」


セレスが不安そうに天井を見上げる。

無理もない。

当初は「全長8メートル」ほどの大型リヤカーだったこの要塞は、度重なる違法改造と増築を繰り返した結果、今や見る影もない。

居住区コアの周囲に、解体プラント、ドローン格納庫、そして帝国から奪った大出力ジェネレーターが無秩序に接続され、全長30メートルを超える「走る工場」へと肥大化していたのだ。

重量は数百トン。このまま海に入れば、鉄屑として海底に沈むだけだ。


「フン、抜かりはない」


アルトはニヤリと笑い、コンソールの新たなスイッチ――帝国で手に入れたパーツと、奪った『第3世代・永久機関(炉心)』を組み込んで増設したレバーに手をかけた。


「タイヤで走る時代は終わりだ。……『重力制御(G-コントロール)』、起動!」


ガコンッ!

レバーを引いた瞬間、ズシンッという重低音と共に、車体の底から浮遊感が伝わってきた。

要塞全体を包むように、紫色の重力波が展開される。


「炉心の出力で自重をキャンセルし、浮力を発生させる。これで数百トンの鉄塊だろうが水に浮く。……だが、それだけじゃねえ」


アルトはそのまま、要塞を海面へと突っ込ませた。


バシャアアアンッ!!

激しい水しぶきを上げて、要塞が着水する。……いや、沈んでいく。


「きゃああっ!?し、沈んでます!?」

「潜るんだよ!海上は神殿の衛星監視網がうるさいからな。隠密行動ステルスが基本だ」


要塞は完全に水没し、青い海の中へと沈んでいく。

だが、窓の外の景色は奇妙だった。水が、窓ガラスに触れていないのだ。

車体の周囲数メートルを、空気の膜のようなものが覆っている。


「これが『スーパーキャビテーション(超空洞)』だ」


アルトが得意げに解説する。


「重力結界を外向きに展開して、海水を強制的に弾き飛ばす。そうすることで船体周囲に『真空の泡』を作り出し、水との摩擦抵抗をゼロにするんだ。……水の中を、空気中よりも速く飛ぶための技術だぜ」


物理法則の抜けグリッチ

水圧も、粘性抵抗も、重力制御の前には無意味と化す。


「さらに、推進力はこいつだ。……『先端吸入型・電磁流体推進(MHD)』、点火!」


ヒュオオオオオ……!

要塞の先端ノーズに追加装甲として設置された吸水口が開く。


「ただし、この辺の海は汚ねぇからな。ゴミが詰まったり、絶縁体を吸い込んだら推進力が落ちる。……『分子粉砕プラズマフィールド』、展開!」


吸水口の前方に、青白い格子状の電撃が走る。

漂流物や海藻が触れた瞬間、閃光と共にイオン化され、発光する流体となって吸い込まれていく。


「ゴミも汚泥も、瞬時にプラズマ化して導電性流体に変えれば、ただの『推進剤マス』だ。……行くぞ!」


取り込まれた海水は、船体内部を貫く超伝導コイルによって電磁加速され、後部のノズルからジェット噴射のように吐き出される。


ズゴオオオオオオッ!!

無音かつ爆速。

スクリュー音も立てず、泡の衣を纏った巨大要塞は、魚雷のような速度で海中を突き進み始めた。


「す、すごいです……!揺れないし、音もしない……!」

「だろう?これなら魚にも気づかれずに接近できる。……さあ、漁の時間だ」


アルトはコンソールを操作した。

通常の音波ソナーは、真空の泡に遮断されて使えない。だが、彼には別の目がある。


「『重力波レーダー(グラビティ・スキャン)』、展開。質量の揺らぎで生体反応を探れ!」


新鮮な魚、貝、海老。

頭の中はすでに、醤油とワサビのことでいっぱいだ。

だが。


『ピピピッ……警告。生体質量反応、微弱。……訂正、ほぼゼロ』


無情な電子音が響いた。


「……チッ。生体反応なしか。これじゃ漁どころか、全速前進しても轢き殺す魚もいねぇな」


アルトは皮肉げに呟いた。

もし魚がいれば、前方のプラズマフィールドを解除して精密航行に切り替える必要があった。ミンチ(消滅)にしてしまっては商品価値がゼロになるからだ。

だが、その心配は無用らしい。


「故障か?光学カメラに切り替えろ」


モニターが切り替わるが、そこには泥のような濁りしか映らない。


「チッ、視界不良か。……『暗視ナイトビジョン』および『泥透過デ・タービディティ』補正、オン」


画像処理ソフトがノイズを除去し、クリアな映像を映し出す。

そして、そこに映っていたのは、魚の群れではない。

海底に沈殿する、おびただしい数の「魚の死骸」だった。


「……は?」


アルトの目が点になる。

美しいと思われた海中は、よく見ればドス黒く濁り、サンゴは白化し、魚たちは腹を見せて浮いていた。

死の海。


「な、なんですかこれ……?お魚さんが、みんな……」

「……水質汚染だ」


アルトの声が、地底のように低くなった。

彼は即座に成分センサーを稼働させる。


「検出されたのは……高濃度の『廃棄魔素マナ・スラッジ』。……誰かが、使用済みの汚染魔力を、浄化もせずに海に垂れ流してやがる」


魔導機器から出る産業廃棄物。

それを不法投棄すれば、生態系は壊滅する。


「許せんな」


アルトがギリリと操縦桿を握りしめた。

環境破壊への怒りではない。


「俺の寿司ネタを……未来の海鮮丼を……!よくも腐らせてくれたなァッ!!」


食い物の恨み。

それは商売人にとって、営業妨害以上の重罪だ。


「レーダー感度最大!汚染源(犯人)を特定しろ!根こそぎ賠償させてやる!」

『――反応あり。距離3000、深度200。……超大型質量を検知』


モニターに赤い光点が灯る。

その影は、肥大化したアルトの要塞(30m級)よりもさらに巨大で、禍々しい魔力を放っていた。


「見つけたぞ。……あれか」


遠く霞む海中に、その巨体は鎮座していた。

全長300メートル級の巨大潜水艦。いや、移動神殿と言うべきか。

船体には、見覚えのある「聖光教」の紋章が刻まれている。


神殿船『ネフィリム』。

船体の各所にある排出口からは、ドス黒い汚泥が絶え間なく吐き出され、海を汚していた。


「神殿の船……!あんな大きな船が、どうしてこんな所に?」

「知ったことか。……だが、妙だな」


アルトは計器の数値を睨み、独りごちた。


「(……確かにあの船は汚染源だ。だが、計算が合わん。たかだか一隻の船が垂れ流す排水で、この広大な海域の生態系が『全滅』するか?)」


数値が示す汚染の深度は、もっと根深い。

まるで、海そのものの「自浄作用(免疫)」が死んでいるかのような……。


「(……まるで、星全体が『老衰』してるみたいじゃねえか)」


不吉な予感が脳裏をよぎるが、アルトは頭を振ってそれを追い払った。

今は目の前の商売が先だ。


「まあいい。……確かなことは一つだ」


アルトは獰猛な笑みを浮かべ、電卓を叩きつけた。


「あいつらは俺の『漁場』を荒らした。……つまり、あの船はもう『俺への賠償金カタ』だ」


彼はターゲットをロックオンした。


「総員、戦闘配置!目的は環境保護じゃない!『資産の差し押さえ』だ!」

「は、はいっ!寿司のために!」


アルト・ワークスが加速する。

真空の泡を纏い、怒れる技術者が、神の船へと音もなく牙を剥いた。

※20251130全体の整合性を踏まえて修正しました。

新章、海へ!ですが、いきなりの環境汚染。

寿司が食えなかった恨みはデカい。

次回、汚染源の船から「とんでもないもの」が捨てられるのを目撃します。

そして「ブラック企業 vs ホワイト企業(自称)」の仁義なき戦いが始まります!


少しでも「続きが気になる!」「アルト社長のブチ切れ理由がブレないw」と思っていただけたら、

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