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機動要塞の聖女さま~魔力暴走で廃棄された私、魔導工学の天才に「電池」として再就職しました。~  作者: Ken
第1章 本日開業、アルト商会

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救済は、高額なビジネスです


軍事大国・鉄鋼帝国ゼノグラシア。

機械技術の粋を集めたこの国は今、沈黙の死を迎えていた。

国境を越えて押し寄せる「魔素の積乱雲」は、帝国の防衛網を無力化し、生物はおろか機械兵器の制御回路すらも狂わせていく。

首都の皇宮前広場には、最後の防衛線を守る近衛兵たちが並んでいたが、彼らの顔には絶望の色が濃い。

そして広場の中央、急造された天蓋の下では、歴史的な「屈辱」が行われようとしていた。


「……さあ、サインを。皇帝陛下」


玉座に座る老皇帝の前に、羊皮紙を突きつけている男がいた。

神殿の掃除屋、ベリアル。

左半身から覗く機械部品と、背中でうねる触手。その姿は聖職者というより、悪趣味な拷問器具のようだ。


「月額3000万ゴールドの『保護費』。および、帝国軍の全指揮権の譲渡。……これにサインすれば、私が『聖浄化杭ホーリー・パイル』を設置し、あの嵐を鎮めて差し上げますよ」


3000万ゴールド。日本円にして約30億円。

それを「毎月」支払えというのだ。年額360億円。帝国の国家予算の半分を恒久的に吸い上げ続ける、国家ぐるみの寄生行為。

さらに、その契約書には残酷な「特約事項」が記されていた。


「ただし、ご注意を。この杭は神殿からの遠隔魔力供給サブスクリプションが途切れた瞬間、極性を反転し……『汚染を引き寄せるビーコン』になります」

「なっ……!?」


皇帝ゼノグラシア三世が息を呑む。

それは救済ではない。一度契約したが最後、解約すれば国が即座に滅びるという、永遠の「隷属契約ベンダーロックイン」だ。


「くっ……足元を見おって……!」


皇帝は震える手で羽ペンを握りしめていた。

サインしなければ今すぐ死ぬ。サインすれば、国は未来永劫、神殿の財布となる。

どちらを選んでも、帝国の未来は閉ざされている。


「お急ぎください。……ああ、ほら。また一つ、防壁が落ちましたよ?」


ベリアルが指差した先で、遠くの監視塔が轟音と共に崩れ落ちた。

魔素の嵐が、もうそこまで迫っている。


「……分かった。余の首一つで民が助かるなら……」


皇帝が諦め、ペン先を羊皮紙に落とそうとした。

ベリアルの口元が、捕食者の形に歪む。

その時。


パァァァァァァァンッ!!!

戦場にはおよそ似つかわしくない、軽快かつ暴力的なクラクションの音が、重苦しい空気を引き裂いた。


「なっ!?」


ベリアルが振り返る。

城門の方角から、砂煙を上げて突っ込んでくる「黒い影」があった。

全長50メートルを超える、漆黒の多面体装甲バス。

それは、神殿の聖騎士たちが並べる優雅な装甲車列などお構いなしに、ドリフトで突っ込んできた。


ギャリギャリギャリギャリッ!!

6輪の巨大タイヤが石畳を削り、火花を散らす。

巨大な質量が横滑りしながら、ベリアルと皇帝の間に強引に割り込む。この速度、普通なら止まれない。皇帝ごとひき殺す軌道だ。


「あ、危ない!?」


近衛兵が叫ぶ。だが、その瞬間。


ガシュンッ!!

車体側面から、巨大な「制動アンカー」が射出され、石畳に深々と突き刺さった。

同時に、車体各所のスラスターから、猛烈な逆噴射が吹き荒れる。


「……衝撃(G)が来るぞ」


車内でアルトは短く警告すると、無造作にコンソールのトグルスイッチを弾いた。

ブンッ、と重低音が響き、車内を強力な「慣性制御場イナーシャル・ダンパー」が包み込む。

外ではタイヤが悲鳴を上げ、地面が削れているが、中の乗員には「そよ風」ほどのGしかかからない。


ズザザザザザッ……ピタリ。

鉄塊は、皇帝の鼻先わずか50センチの位置で、完全停止した。

慣性制御誤差、ゼロ。

それは暴走ではない。計算され尽くした、神業のような「停車」だった。

プシューッ!と派手な音を立てて、灼熱の排気ガスがベリアルの顔面に吹き付けられる。


「ゲホッ、ゴホッ……!?き、貴様……!」


煤だらけになったベリアルが、殺気を漲らせて睨みつける。

運転席の窓が開き、そこからアルトが顔を出した。

彼はベリアルを一瞥もせず、開口一番、皇帝に向かって言い放った。


「おいおい、待てよ。『相見積もり(コンペ)』も取らずに即決とは、随分と杜撰な経営だな、皇帝サン」

「な……?アルト商会、か……!?」


皇帝が目を丸くする。

アルトはタラップを降りると、怯えるセレスを背後に従え、堂々と広場の中央へ進み出た。


「お待たせしました、陛下。ご注文の『代案(プランB)』をお持ちしました」

「……ネズミが。私の商談を邪魔する気ですか?」


ベリアルが義眼を細め、低い声で唸る。

アルトは鼻で笑い、名刺代わりに電卓を取り出した。


「通りすがりの『競合他社ライバル』だ。……おいあんた。その契約書、随分とボッタクリだな?」

「なんと?」

「月額3000万の永久縛り。しかも、解約すれば即座にシステムダウンして汚染を招く『時限爆弾』付きだ。10年払えば36億ゴールド。……インフラを人質にした、典型的な悪徳商法ランサムウェアだな」


アルトは皇帝に向き直り、指を鳴らした。

空中に巨大なホログラムウィンドウが展開され、詳細な「見積明細ブレイクダウン」が皇帝の目の前に突きつけられる。


【案件名:帝国防衛および環境改善プロジェクト】

戦略級汚染獣駆除費:200,000,000G

環境浄化システム導入費:150,000,000G

コンサルティング料:100,000,000G

緊急対応オプション:50,000,000G

--------------------------------------------------

【ご請求合計(税込):500,000,000G】


「陛下。ウチなら明朗会計、『一括5億』だ」

数字の羅列が放つ、圧倒的な「業務感」。

それは口約束の救済などより、遥かに信頼できる「ビジネスの提案」だった。


「ご、5億……?」

「そうだ。確かに初期投資イニシャルコストは高い。だが、ランニングコストはゼロだ」


アルトは背後の移動要塞を親指で指した。


「ウチの技術ソリューションは、魔素を『浄化』するだけじゃない。『資源化』する。あの嵐の原因である魔獣を解体し、素材として市場に流せば、帝国に新たな産業が生まれる」


彼はニヤリと笑った。


「さらに、敵が設置した汚染装置を解析し、その対抗技術を帝国にライセンス販売する。……神殿プランは『マイナスの固定化』だが、ウチのプランは『プラスへの転換』だ。どうだ陛下、どちらが『お買い得』かは、電卓を叩くまでもないだろう?」

「……口先だけなら何とでも言える!」


攻撃の手を止めたベリアルが、冷徹に割り込んだ。


「得体の知れない行商人が、国家規模の災害を解決できると?根拠エビデンスはあるのですか?」

「そうだ!貴様らごときに何ができる!」


近衛兵たちも、疑念の目を向ける。

皇帝もまた、迷っていた。

確かに、アルトの提案は魅力的だ。だが、信じるに足る証拠がない。


「……アルト商会よ。余は、確実な救いが欲しいのだ。夢物語ではなく」

「夢物語?……現実リアルを見せてやるよ」


アルトは涼しい顔で、懐から小型のプロジェクターを取り出した。


「見ろ。これが帝国の『本当の姿』だ」


空中に展開されたのは、帝国の詳細なホログラム地図。

だが、そこには帝国軍のレーダーにすら映っていない、無数の「赤い光点」が地下水脈に沿って表示されていた。


「な、なんだこれは……!?我々のレーダーには何も映っていないぞ!」

「当然だ。お前らは『地上の魔素』しか見ていない。だが、奴らは『地下水脈』を使って、内側から国を腐らせている」


アルトは地図を拡大した。地下水脈に沿って、何者かが意図的に設置した「魔素増幅器」の位置が、正確にプロットされている。


「ここに来る途中、神殿の物流ネットワークをハッキングさせてもらった。……『聖遺物』の名目で運び込まれたコンテナの配送記録を洗えば、設置場所なんざ丸裸だ」


アルトは嘲笑うようにベリアルを見た。


「なあ、神殿さん?おたくの『聖浄化杭』の設置予定ポイントと、この増幅器の位置……ピタリと一致するのは偶然か?」


ざわっ、と広場が揺れた。

それは決定的な証拠だった。神殿がマッチポンプを行っているという、動かぬ事実。


「……ネズミ風情が、よくも……!」


ベリアルの殺気が膨れ上がる。

だが、アルトは動じず、皇帝の目を真っ直ぐに見据えた。

「正義」など語らない。ただ「損得」と「生存」のみを問う。


「選べ、クライアント。『神に搾取されて緩やかに死ぬ』か、『俺と手を組んで未来リターンを掴む』か」


皇帝ゼノグラシア三世は、震える手でアルトの見積書を掴んだ。

その目に、死に体の老人のものではない、かつての覇気が戻る。

この商人は、帝国軍以上の情報と技術を持っている。そして何より、神殿を敵に回してでも利益を追求する「強欲さ」がある。

その欲望こそが、今は何より信頼できる。


「……余は、賭けるぞ」


ビリィッ!!

皇帝は、ベリアルの契約書を真っ二つに破り捨てた。


「契約破棄だ!帝国は、アルト商会に依頼する!」


その瞬間。

ベリアルの表情から人間味が消え、無機質な殺意の塊へと変貌した。


「……残念です。契約不履行には、『違約金(死)』で支払っていただきましょう」


シュンッ!

音もなく、ベリアルの背中から槍のような触手が射出された。

狙いはアルトではない。契約者である皇帝の喉元だ。

交渉決裂と見るや、即座に「顧客」を始末する。それが掃除屋の流儀。


『――敵性反応ホスティリティ、検知。自動迎撃オート・ガード、承認』


アルトの網膜に、赤い警告ログが流れた。

思考するよりも早く、彼の意思とは無関係に、左腕のサーボモーターが唸りを上げて強制駆動する。


ガギィンッ!!

皇帝の喉元へ迫った触手を、アルトの左腕――「携行型シールド・ガントレット」が、神速の精度で叩き落としていた。


ギャリリリリッ!!

上着の下に装着した「強化外骨格パワード・フレーム」が悲鳴のような駆動音を上げる。

数トンの衝撃荷重がアルトを襲うが、彼はガントレットの排熱口を開放した。


プシュウウウッ!!


「衝撃変換、側方排熱サイド・パージ!」


衝撃波が左右へと逃がされ、アルトの両脇の石畳が爆ぜて粉砕する。

皇帝への余波はゼロ。完璧な指向性防御だ。

生身なら皇帝もろともミンチになっていた威力。

だが、アルト自身は涼しい顔で、一歩も退かない。


「……手癖が悪いな、掃除屋さん」


火花が散る至近距離で、アルトは獰猛に笑った。


「契約書にサインはまだだが、口頭での合意は成立した。……つまり、この人はもう俺の『顧客クライアント』だ」

「……チッ」


ベリアルが初めて舌打ちをし、距離を取る。

アルトは皇帝を守るように立ち、高らかに宣言した。


「アフターケアは万全だ。……ここからは『業務妨害』として、全力で排除させてもらう!」

※20251130全体の整合性を踏まえて修正しました。

「神殿vsアルト商会」。

言葉と暴力が入り乱れる中、アルト社長は一歩も引かずに営業トークを完遂しました。

次回、本格的な戦闘開始です!


少しでも「スカッとした!」「社長ブレないなw」と思っていただけたら、

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