奇跡は、再現可能な技術です
キメラが「解体」され、高級肉の山に変わった広場。
静まり返る住民たちの前で、アルトはマイクを握り直した。
『さて。害獣駆除は完了だ。次は……「商品の品質管理」について話をしようか』
アルトは指を鳴らし、シスターズに命じた。
彼女たちは、領主の店の裏手から、厳重に鍵がかけられていた「聖水」の樽を強引に運び出した。
そして、自分の店のサーバーから汲んだ「アルト商会の水(純水)」を並べる。
「ガメル領主。あんたはこれを『聖水』だと言って、法外な高値で売りつけていたな?」
「き、貴様……!侮辱する気か!?」
腰を抜かしながらも、ガメルは吠える。
暴力で負けても、権威では負けないという自信が、まだ彼にはあった。
「あれは神殿の秘儀で清められた、正真正銘の聖水だ!貴様らの怪しい水とは『格』が違う!この神聖な金色の輝きが見えんのか!」
確かに、樽の中の水は黄金色に発光し、甘い芳香を漂わせている。
だが、アルトは冷ややかな目でそれを見下ろした。
「輝き、ね。……なら、『比較実験』といこう」
アルトは懐から、怪しげな紫色の粉末が入った小瓶を取り出した。
「これは『対幻想・ナノマシン試薬』。魔王城の錬金ラボで見つけた年代物だ。……魔素や不純物、そして『視覚をごまかす幻術』に反応して、強制的に解除する粉だよ」
彼はまず、自分たちの水に粉を入れた。
サラサラ……。
粉は瞬時に溶け、水は透明なままだ。キラキラと光り輝き、純度100%、隠し事なしの証を示している。
住民から「おお……」と感嘆の声が漏れる。
「次に、あんたの自慢の『聖水』だ」
アルトが粉を樽に落とした、その瞬間。
バチバチバチッ!!
水面が激しくスパークし、何かが「剥がれる」ような音がした。
直後、黄金色に輝いていたはずの水が、一瞬にしてドス黒い液体へと変貌した。
同時に、鼻が曲がるような腐敗臭が、爆発的に広場に充満する。
「うわっ、くさっ!?」
「おえぇぇっ!な、なんだあれ!?ヘドロじゃないか!」
「俺たちは……あんなものを有難がって飲まされていたのか……!?」
住民たちが口を押さえて後ずさる。
中身がすり替わったわけではない。魔法で「綺麗な水」に見せていただけの化けの皮が、剥がれただけだ。
「な、な、なんだその粉は!?貴様、何か細工をしたな!?」
「細工?ただの現実を見せただけだ。……おいセレス、成分分析の結果を読み上げてやれ」
「はい、社長」
セレスはコンソールに表示されたデータを、淡々と、しかし冷徹に告げた。
「検出されたのは、高濃度の魔素汚染物質、大腸菌群、および下水由来の有機汚泥です。……神殿の加護?いいえ、これはただの『未処理の排水』に、強力な『認識阻害魔法』と『味覚操作魔法』をかけただけの毒物です」
元・聖女による、死刑宣告。
その言葉は、広場にいる全員の耳に届いた。
「き、貴様らぁぁぁ!!」
ガメルが顔を真っ赤にして剣を抜こうとするが、シスターズのレーザーサイトが足元の地面を焼き、彼を釘付けにする。
アルトはヘドロの入った樽を蹴り倒し、中身をガメルの足元にぶちまけた。
「品質偽装、産地偽装、そして健康被害。……もはや商売じゃない。ただの『毒物散布テロ』だ」
彼は長い長い羊皮紙の束――追加の請求書を、ガメルの顔に叩きつけた。
「さあ、精算の時間だ。キメラの処分費用、営業妨害の賠償金、そして住民への慰謝料。……締めて20億ゴールド。今すぐ払え」
「に、20億だと!?ふざけるな!そんな金、あるわけが……」
「ないなら、『現物』でいただく」
アルトは丘の上に立つ、ガメルの館を指差した。
「この街の全資産、および領主権限。……これらを担保として『差し押さえ』る」
先程のハッキングで書き換えたシステムが、赤く輝く。
都市の所有権が、正式にガメルからアルト商会へと移転する。
「り、領地を奪う気か!?王国貴族の領地を奪って、ただで済むと……!」
「勘違いするな。俺は忙しいんだ。領地経営なんて面倒なことはしない」
アルトは呆れたように肩をすくめると、住民の中から、先ほど水を配るのを手際よく手伝っていた一人の若者を見つけ出し、手招きした。
眼鏡をかけた、知的だが線の細い男。アルトは知る由もないが、かつて領主の不正を告発して追放されていた、元副官だった。
「おい、そこの眼鏡。今日からお前が『店長(領主代行)』だ」
「えっ、ぼ、僕ですか!?む、無理です!僕には武力も権力もありません、すぐに暗殺されて終わりです!」
「安心しろ。福利厚生は万全だ」
アルトが指を鳴らすと、移動要塞の格納庫から、数体の自律警備ドローン(量産型)が射出され、眼鏡の男の周囲に展開した。
空中に浮遊し、赤いセンサーを光らせる殺人機械たち。
「こいつらの指揮権をお前にやる。街の治安維持と、店舗の警備に使え。……この店に手を出せばハチの巣になると分かれば、誰も逆らわん」
それは、圧倒的な武力の貸与。
眼鏡の男が震える手でリモコンを受け取る。
「……俺は見てたぞ。さっきの水配り、いい指揮だった。現場を回せる人間が必要なんだよ」
アルトの言葉に、眼鏡の男の瞳に光が宿る。
不正を正そうとして全てを失った男が、その実務能力を正当に評価された瞬間だった。
「俺は『オーナー(株主)』として、売上の30%だけを上納してもらう。あとの経営はお前たちで好きにやれ」
アルトはニヤリと笑い、分厚い契約書を渡した。
眼鏡の男は震える手でそれを受け取るが、まだ困惑している。
「で、でも、どうして僕なんですか……?他にもっと適任が……」
「謙遜するな。俺は見たぞ」
アルトは、眼鏡の男の胸ポケットからはみ出している、使い古された羊皮紙の束を指差した。
「そのポケットに入ってるやつ……ガメルに却下された『上水道整備計画書』と『スラム再開発案』だろ?」
「えっ……!?」
「さっきシステムをハックした時に、ゴミ箱フォルダに捨てられてたデータを読んだよ。……いい図面引くじゃねえか。コスト意識も悪くない」
男が息を呑む。
自分の理想、誰にも認められずゴミ扱いされた努力。それを、この恐ろしい男だけが見てくれていた。
「企画書、ウチの予算で通してやる。……好きなだけ街を良くしてみろ」
「あ……うぅ……!」
眼鏡の男の瞳から涙が溢れる。
不正を正そうとして全てを失った男が、その才能を正当に評価され、再び立ち上がる瞬間だった。
「は、はいっ……!やらせてください!命に代えても黒字にしてみせます!」
「ただし、条件が二つある。一つ、この街では今後、俺たちの商品を独占販売する『フランチャイズ契約』を結んでもらう。水も食料も資材も、すべてウチ(本部)から卸せ」
「は、はい。もちろんです!」
「二つ目だ。……そこの元・領主の処遇だが」
アルトは、ヘドロにまみれて座り込むガメルを見下ろした。
「い、命だけは!命だけはお助けをぉぉ!」
ガメルが地面に額を擦り付けて懇願する。
アルトは冷酷に告げた。
「殺しはしない。……殺したら、借金が回収できないからな」
彼はハッキング済みの端末を操作し、空中にホログラムウィンドウを表示させた。
そこに映し出されたのは、『魔石鉱山所有権移転ログ』。
ガメルが隠し持っていた鉱山の権利が、たった今、システム上でアルト商会へ書き換えられた証拠だ。
「ガメルが隠し持っていた鉱山だ。難民たちを全員、そこで雇え」
「えっ、雇用まで……!?なんて慈悲深い……!」
「勘違いするな。そして、ガメル。お前もそこで働くんだ」
「は……?」
ガメルの動きが止まる。
「お前には20億の借金がある。……死ぬまで働いて返せ」
アルトは、ガメルの豪華な鎧を剥ぎ取り、代わりに薄汚い「作業用ツナギ」を投げつけた。
背中には『見習い』の手書き文字。
「今日からお前は、ただの『鉱夫A』だ。休みなし、給料は最低賃金。……ああ、安心しろ。福利厚生で『泥水』くらいは恵んでやるよ」
それは、死よりも残酷な判決。
かつて自分が民衆に強いた地獄を、今度は自分が、死ぬまで味わい続けることになるのだ。
「あ、あぁ……」
ガメルは崩れ落ちた。
プライドも、地位も、財産も。すべてを失い、残ったのは莫大な借金と、終わりのない労働だけ。
「アルト商会万歳!」
「悪徳領主を追い出してくれたぞ!!」
「新しい店長万歳!」
広場からは、割れんばかりの歓声が上がった。
何も知らない住民たちは、新たな「真の支配者」の誕生を、熱狂と共に歓迎していた。
「ああ、そうだ。ガメル君」
アルトは連行されていく背中に、とどめの言葉を投げかけた。
「鉱山労働はキツいらしいな。……疲れた時は、ウチの『疲労回復ドリンク』を買うといい。特別に社割を利かせてやる」
「……あ、あぅ……」
ガメルは白目を剥いて泡を吹いた。
奴隷として死ぬまで働かされる場所でも、稼いだ端金をアルト商会に吸い上げられ続ける。
それは、「死ぬまで顧客」という、逃れられない呪いだった。
「よし。これで定期的にお金が入ってくるな。不労所得、最高だ」
アルトは満足げに頷き、タラップを登った。
「行くぞセレス。次の市場へ」
「……社長。本当に悪魔ですね」
セレスが呆れ半分、尊敬半分で呟く。
だが、その表情は晴れやかだった。
彼女自身の手で、目の前の腐敗を断ち切ったのだから。
「褒め言葉として受け取っておく。……さあ、忙しくなるぞ」
アルト商会の旗が、街の城壁に高々と掲げられる。
それは、世界が「アルト色」に染まり始めた、最初の狼煙だった。
※20251130全体の整合性を踏まえて修正しました。
聖水=下水。衝撃の事実発覚!
さらに、アルト社長によるえげつない「経済的植民地化」が完了しました。
暴力だけでなく、経済と技術で支配する。これがアルト商会の流儀です。
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