8 王太子カリストは心配する
「殿下」
廊下を擦れ違う役人たちの礼に応え、私は王妃である母の元へ向かう。
休日の午後。
孤児院救済に関する書類を手に執務室に入るが、母はいなかった。
「母上は?」
掃除をしていたメイドに聞く。
「王妃殿下はただいま、オリヴィエ様と離宮にてお茶会でございます」
「オリヴィエと!?」
思わず大きな声が出てしまう。
驚くメイドに、「す、すまない」と謝罪し、部屋を後にした。
いつも母上とのお茶会を終えた後の、顔面蒼白な彼女の顔が頭を過ぎる。
これまでと雰囲気が別人のようになったオリヴィエ。
今にも目の前から消えてしまいそう──そんな印象がずっと残り続けていた。
おまけに、今朝見た夢が影響もしている。
『殿下、さようなら。どうか、お幸せに』
清々しいほどの満面の笑みをたたえながら、立ち去っていくオリヴィエ。
そんな夢を見るのは初めてのことだ。
いつもは夢なんてすぐに忘れてしまうというのに、妙に記憶に残った。
そこへきて、オリヴィエが母上と茶会をしているという。
オリヴィエは誰より、母を恐れている。
今の彼女が母と一緒ではもしかしたら、いつも以上に辛いのではないか。
一度考え出したら、そのことで頭が一杯になってしまう。
気付けば、離宮へ向かっていた。
「カリスト、どこへ行くんだ」
護衛のソウルが聞いてくる。
「……母上の元だ」
「それなら茶会の後でも」
「……オリヴィエの様子を見に行くんだ」
分かっているから、そんな驚いた顔をするな。
自分の行動に一番戸惑っているのは、私自身なんだから。
「く……」
ソウルが小さく笑みをこぼす。
「……何がおかしい」
「いや。これまでのように付きまとわれなくなったと思ったら、今度はお前が執着するなんてな。実はお前たち、似たもの同士なんじゃないか?」
「こ、これは執着ではない。ただ……母上と会ったあとのオリヴィエは精神的に不安定になるし、後々面倒だから、早いうちにケアをしておく必要がある。ただそれだけのことだ」
言葉とは裏腹に、私は何かに急かされるように急ぎ足で、離宮へ向かう。
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