28 伯爵令嬢ミリエルはほくそ笑む
「お父様、あの女にしてやられたってどういうこと!?」
「ミリエル、わめくな。黙れ。頭に響くっ」
ソファーに深く座り込んだお父様はこめかみを揉みながら、邪魔臭そうな顔をする。
「絶対にうまくいくって約束したじゃない!」
「私もそう思った。勝算は十分あったんだ」
「それじゃあ、どうして……」
「それはこっちが聞きたい。あの公爵家の小娘が、宮廷の誰も知らなかった他国の情報を披露したんだ! お陰で、私の面目は丸つぶれだ!」
お父様が苦々しい顔で、今日一体何杯目かもわからないお酒を飲み干す。
私は子どもの頃からやめるようにしつこく言われていた爪噛みが再発していた。
またあの性悪女が、私の邪魔をしている。
どうしてなの。
あの女は性根がねじまがって、感情だけで動く馬鹿のはずだったじゃない。
私が挑発すればそれだけで不機嫌になって、わめきちらす。
殿下とあの女の間には隙間風が吹いて、そこへ私が入り込み、何もかも奪っていく。
そうなるはずだったのに、今じゃ当たり前のようにあの女のそばには殿下が寄り添い、むしろ誰も不用意には近づけない。
殿下の笑顔を、あんな女が独占するなんて許されていいはずがないわ。
私も最早、殿下に近づくことさえ叶わない。
たまに廊下で鉢合わせ、挨拶をするだけでも殿下は軽く相づちを打つだけで声さえ返してくれない。
お父様もこれまでは陛下から散々目をかけられていたというのに、今では宮廷に上がることさえ稀。
おかげで日がな一日、お酒ばかり飲んでいる。
「ミリエル、それよりもグレー子爵家から婚姻の話が出ている。お前ももう適齢期、そろそろ身を固める覚悟を決めなさい」
「嫌! 私は王妃になるの! お父様だってそう仰っていたではありませんか!?」
「それはもう無理だ。陛下との関係も危うくなって、お前も、学校で殿下との関係も良くなっていないという話じゃないか。殿下はすっかり、あの公爵家の小娘に夢中だと、社交界でも噂が立っている。もう諦めて、身の丈に合った相手で我慢しなさい。それが我が家の為にもなる」
「それがよりにもよってどうして、子爵家なのですか!? 格下ではありませんか!」
「子爵家は領地運営に成功して金がある。悪い話では……」
「冗談ではありませんわ! 殿下を諦めて、格下の成金貴族に嫁ぐなんて絶対に嫌です! お父様は私を社交界の恥さらしにしたいのですか!?」
「これでも十分すぎるくらいだ。我が家が陛下からの信頼を失ったことで、格上の貴族からの縁談はそもそも望めない。こうして話がきただけでもありがたいと……」
「嫌です。私は王妃になるんです! 殿下にしかこの肌を許すつもりはありません!」
「現実を見ろ! 王太子妃など、夢物語だ!」
「お父様こそ、お酒に逃げてないで現実をご覧下さい。まだ殿下とあの女は結婚していない以上、チャンスはあります」
「……何をするつもりだ?」
「もうすぐ学校でダンスパーティーが開かれますの。そこでとんでもないことが起きれば、きっと……」
にたり、と私は自分の素晴らしいアイディアに、思わず笑みを浮かべずにはいられない。
どれほど素晴らしい才覚があっても、傷ものになった女を王太子妃などにはできないわよねえ。
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