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10回目の告白(1/2)

「洸くん、今日も来なかったね」

 涼香が帰り際に話しかけてきた。

 洸が学校に来なくなって、5日め。

 今日はもう金曜日だ。


「ねえ、本当に洸くんの連絡先いらないの?リノちゃんから連絡したら、返事返ってくるかもよ?」

 涼香がスマホを手に言う。

 私が洸の連絡先を知らないと知ってから、ずっとこれだ。

 親切で言ってくれているのは分かっているけど。


「ううん、大丈夫」

 私はそれを断る。

 洸の連絡先は、自力で手に入れたかった。


 それに。


「洸くん、私から連絡来たら嫌かもしれないし」

 こないだはひどいことを言ってしまった。


「やだ卑屈。本当に何があったの?喧嘩した?」

 涼香が、半分茶化して、半分真面目に訊きかえしてくる。


「喧嘩したっていうか、私が心狭くて……」

 私は思わずそう漏らした。

「洸くんにからかわれてるだけなのかなとか疑っちゃって。いや、それと洸くんが学校休んでるのは、関係ないと思うけど」


 喧嘩別れみたいになってしまったのが、ただただつらい。

 お母さんが失礼なことを言ったのも、謝りたいのに。


「疑って、怒っちゃったんだ?」

 涼香がなぜか楽しそうに言う。

「それって、洸くんのこと好きってことだよね?」

 直球だ。

 私は、少し迷ったあと小さく頷いた。

 それを見て、涼香が大きく頷きかえしてくる。


「だったらなおさら洸くんと話しなって。ほら、これ洸くんの電話番号だからさ」

 スマホの画面を見せてくる。


 大原 洸


 表示されているその名前すら、恋しい。

 会いたくてたまらない。


「チャットでもいいよ。それだったらーー」

「明日、」

 涼香の優しさを遮る。

「明日、洸くんの家に行ってみる。会えるか分かんないけど」

 私は勢いでそんなことを口にしていた。


「リノちゃん、洸くんの家知ってるんだ」

 涼香は驚いたようだった。

 私が知っているはずがないと決めつけていたのと思って、少しイラッとしてしまった。


「涼香ちゃんだって知ってるんでしょ?」

 涼香も、洸と一緒に帰ったことがあるはずだ。

 連絡先も知ってるし、どうせ涼香には敵わない。

 そんなネガディブな感情が胸を塞いだ。


 けど。


「知らないよ。誰も知らないんじゃない?洸くん、家とか住所は、絶対教えてくれなかったから」

 涼香は、あっけらかんとそう答えた。


「……そうなんだ」

 意外だった。

 涼香が家を知らないのも、洸が私に家を教えてくれたのも。


「なになに、本当に愛されちゃってるんじゃない。何で疑っちゃったのよ」

 涼香がからかいモードに入っている。

 そこには、1ミリもマウントや嫉妬を感じなくて。


「ごめん、私、ちょっとだけ涼香ちゃんに対抗心を燃やしてた」

 そんな自分が恥ずかしい。

「対抗心って。私が洸くんの連絡先を知ってるから?」

 涼香にきょとんとした顔で尋ねられて、頷くことさえできずに目を伏せる。

「それだけじゃなくて、洸くんは学校では絶対、私に話しかけてこないし……」

 ゴニョゴニョと私はそう呟く。

 私を守るためだと言われても、疑い出したら止まらなくて。


「やだぁ。そんなこと気にしてたの?」

 涼香がスマホを、リュックにしまいながら言う。

「あー、でもそっかぁ。リノちゃんが怒ったの、私のせいもある?だったら責任感じるなぁ」

「や、それは私の心が狭かっただけで……」

「不安にさせる方も悪いでしょ。洸くんの連絡先が知りたくなったら、いつでも教えるから言ってね」

 リュックを背負いながらそう言って、涼香はにっこりと笑った。

 涼香は、本当に優しい。


「帰ろ」

 立ち上がった私に、そう声をかけてくる。

 あれ、と思った。


「今日は渡邉先輩と帰らないの?」

 このところ、2人はいい感じだ。

「何で私があんなアホな人と」

「渡邉先輩、いい人じゃん」

「やめてよ。あ、私に洸くんを取られたくなくて、無理やり先輩とくっつけようとしてる?」

「まさか。そんな策士みたいなことはしないけど、涼香ちゃん、先輩といる時、すごい楽しそうだよ?」

「それは先輩のテンションに付き合ってるだけーー」


「涼香。あ、加瀬さんと帰る?」

 男の声がした。

 見ると、教室の入り口に渡邉先輩が立っていた。

 こないだまでは吉永さんと呼ばれていたのに、涼香呼びになっている。


「いえ、私は図書室に寄ってから帰るので」

 私は、渋る涼香を渡邉先輩に差し出した。

 お似合いな2人だと思うけどな。


「そういや大原、芸能事務所に行ってるらしいな」

 渡邉先輩は急に、そんなことを言った。

「「……はい?」」

 訊きかえす声が、涼香とハモる。

 洸が、芸能事務所?


「いや、さっき教室で女子が騒いでたんだけどさ。大原の姉ちゃんと繋がってる奴がいて。何で最近大原が学校休んでんのか訊いたら、そう返ってきたって」

 渡邉先輩は、すらすらとそう説明した。

 ちょっと理解が追いつかない。


「先輩、たまには役に立ちますね」

 涼香が毒舌を返す。

 そして、私の方を振り向いた。

「リノちゃん、絶対洸くんに会いに行きな。怪我とか病気じゃなくて良かったけど、洸くん、高校辞める気かもよ。そしたらきっと後悔するよ」

 真剣な顔で私にそう言った。


 ……洸が、高校を辞める?

 それは、洸に会えなくなるということだろうか。

 涼香の言葉に、にわかに焦燥感がかきたてられる。


「もしかして俺、ファインプレイ?」

 渡邉先輩がおどけている。

「はいはい。行きますよ」

 涼香は、渡邉先輩の背中を押すようにして、一緒に帰っていった。

 それは普通に恋人同士に見えて、何だかとても羨ましく感じた。


 彼らの後ろ姿を見送りながら、私は洸に会いに行く決意を新たにした。


***


 翌日の土曜日、私は10時すぎに洸の家の前に立っていた。


 早すぎただろうか。

 こんなところまで押しかけて引かれるだろうか。

 そんな臆病風に吹かれながら、おっかなびっくりチャイムを鳴らす。

 でも、1、2分待っても応答はなかった。


 どうしよう。

 しばらく家の前で待ってようか。

 それも迷惑か。

 でも、このままじゃ帰られへん。


 そんなことをぐるぐると考えた挙句、私は、洸のお父さんが連れていってくれた喫茶店に入ることにした。


 喫茶店は、洸の家から道路を隔てて斜め向かいにあって、窓際の席からは洸の家のドアが見える。

 まるでストーカーだと思いながら、窓の外を眺める。

 ほどなくして、頼んだホットティーが運ばれてきた。


 勉強道具の類は何も持ってこなかった。

 スマホは通信量の関係で自由に使えなくて、暇つぶしになるようなものは何もない。

 何もせずにただ誰かを待つという経験を、私は今までにしたことがなかった。


 洸は、いつも私を駅で待っていた。

 約束もなく、私が来る確証もない時から、改札を抜けたところに、いつも立っていた。


 洸も同じ気持ちでいてくれたのだろうか。

 こんな心細くて、受け入れてもらえるか不安で。

 それでも、どうしても会いたくて。

 

 思い出すのは、初めて言葉を交わした日のこと。

 遠い昔のことのように思える。

 

 電車の中だった。


 知慧が生まれて寝不足だった私は、目の前に立った洸を見上げて、パパみたいだと言った。

 洸の方は、ノノを亡くしたばかりで、悲しみを堪えていた。

 それなのに、取り繕うように笑って、私の隣に座った。会話中に寝てしまった私を、咎めることもなかった。

 人と並んで歩くのに慣れていない私の手を握って、好きかもしれないと言った。


 あの頃は、洸のことをチャラいだけの人だと思っていた。

 まさか、自分にとってこんな大きな存在になるとは思っていなかった。


 いつからだったのだろう。

 洸が女子に囲まれているのを見ると、胸がチクチクするようになった。

 改札の向こうにその姿を見つけると、ホッとするようになった。

 私に合わせて歩く洸の歩幅に慣れて、洸の声が心地良くなった。

 隠していた関西弁も、嫌いだった自分の目も、洸になら、さらけ出せるようになった。

 帰っていく洸の背中を見て、もっと一緒にいたいと思うようになった。

 

 それが好きという気持ちだと気づくのに時間がかかったのは、私が臆病で、自分に自信がなかったからだ。

 洸の言葉が信じられなくて、傷つくことに怯えていた。


 そんな私に、洸は惜しげもなく、好きと言ってくれた。

 学校の成績が全てだと思い込んで、青風高校の生徒を自分ごと馬鹿にしていた私に、知らない世界を見せてくれた。

 自分1人じゃ、きっと一生かかっても見つけられなかったものを、私の前にやすやすと示してくれた。

 

 だから私は、洸に伝えるまでは帰れない。

 この想いを。感謝の気持ちを。

 たとえ、洸の心が離れてしまっていたとしても。

 最初から幻だったとしても。

 

***


 喫茶店の客はどんどん入れ替わって、ホットティーはすっかり冷たくなった。

 壁にかかっている時計は、長針と短針が12の位置ですれ違ったあと、再び近づこうとしている。


 そろそろ帰ろうかな。

 ハンドバッグを肩にかけて、お財布を取り出しながら、そう思っていた時だった。


「あっ」


 喫茶店の中で思わず声をあげてしまった。

 すぐ目の前を、洸が通り過ぎたから。


 私は気が動転していたのだろう。

 何も考えずに、そのまま喫茶店を飛び出した。


 横断歩道を渡ろうとしている洸は、白いTシャツに黒っぽいジャージズボンという格好で、手には買い物袋を提げている。


「洸くん」


 そう呼びかけたけど、洸の耳には届かない。


「洸くん!」


 喫茶店の前で、ありったけの声で叫んだ。

 道ゆく人が、何事かという顔で私を見た。

 

「お嬢ちゃん、お会計」

 店員が喫茶店から出てきて、私に声をかけてくる。

 無銭飲食を疑われても仕方がない。

 私はハンドバッグを持ったままお財布を手に店を飛び出したのだから。


 けれど。

 諦めきれずに再び洸の方に目を向ける。

 ここを逃したら、二度と会えなくなりそうな気がして。


 洸は、横断歩道を渡り切ったところで、こちらを向いて立っていた。

 顔に驚きの表情が浮かんでいる。

 横断歩道の信号が点滅しはじめた時、弾かれたようにこちらに駆け出してきた。

 

 あっという間に私の前までやってきた。

「すみません」

 私の手を引いて、背後の店員に謝っている。

「僕はそこの住民の大原です。代金は必ず払いますので」

 状況を理解したらしく、洸はそう言った。

 ただ、謝っているにしては少し威圧的だ。


「ったく。早くしてよ」

 その店員は、私の肩から手をどかして、店内に戻っていった。

 いつの間に肩を掴まれていたのだろう。

 洸に気を取られていて、全然気づかなかった。


「おっさんが気安く触りやがって」

 洸が私の肩をパッパッと払う。


 あれ。

 この1週間で随分と言葉がお悪くなられて……。


「平気?」

 心配そうに私の顔を覗き込んでくる。

「へ、平気だよ。私が悪いんだし、掴まれてたの全然気づいてなかった」

 それよりも、洸に触れられたところが、ジンジンと熱い。


「んとに危なっかしいな」

 洸が呟く。

「お金が足りなかったの?いくら?」

 私が手にしているお財布を見て、尻ポケットを探るような仕草を見せる。

 この人は、まったく。


「ちゃうわ、アホ」

 何で分からないのだろう。

「洸くんを待ってたんや」

 それ以外に、私がここにいる理由なんてないのに。


「ええ?」

 洸は、わざとかというくらい驚いた。

 というか、引いたのかもしれない。

 いたたまれなくなってきた。


「ごめん、こんなところまで押しかけて。でも、洸くんの連絡先知らないから、こうするしかーー」

 お財布に目を落として、ボソボソと弁解していると、私のお腹が急にぐうと鳴った。

 結構大きな音だった。

 

「……聞こえた?」

 恥ずかしくて、目を上げて恐る恐る尋ねる。

 洸は横を向いて、口を押さえていた。

 それは、笑っているというよりもーー。


「聞こえた」

 そう答えた洸は、耳まで赤くなっていた。

「理乃ちゃん、お昼まだなの?良かったらどこかに食べに行く?」

 私と目を合わせないまま、洸はそう提案した。


***


 喫茶店で会計を済ませた後、店の前で洸と合流した。


「ごめん、待たせて」

 洸が息を切らせながら言う。


 洸は、家に荷物を置いてくるついでに着替えたようだ。

 水色のセットアップスーツになっている。


「そんなに待ってないけど、何でそんなフォーマルな格好なん?」

「理乃ちゃんに釣り合う服装が他になくて」

「そんな格好、私が釣り合わんようになるやん」

「そんなことない。可愛いすぎる」


 私は、クリーム色のカーディガンに茶色いチェックのスカートという格好だ。

 確かに持っている服の中では可愛いのを着てきたけど、スーツには太刀打ちできない。


 とりあえず、駅の方まで行くことにした。

 私はさっきの喫茶店でお昼にしても良かったのだけど、洸に却下された。


「なんか、洸くん普通やんな」

 歩きながら、さっきから思っていたことを言う。

 1週間も高校を休んでいるようには見えない。


「がんばって普通に振る舞ってるだけだよ」

 洸が笑って答える。

「本当はドキドキしすぎて倒れそうなのを、何とか耐えてる」

 その返しに、もはや安心感を覚えてしまう。


「そうゆうとこ含めて普通やゆうてんねん」

 私がそうツッコんだら、洸は息だけで笑った。


***


 私たちは、駅前のイタリアンレストランに入った。


 洸がジャケットを脱いでTシャツになったから、少しホッとした。

 スーツを汚しそうで心配だったし、何だかいつもよりも格好よく見えて、目のやりどころがなかったから。


「それで、」

 サービスの水をひとくち飲んだ後、洸は私の向かいで口を開いた。


「どうして、僕のことを待ってたの?」

 微笑みを浮かべて、私にそう尋ねてくる。


「ど、どうしてちゃうわ」

 洸に見つめられて、鼓動が早くなっている。

 何でだろう。ジャケットを脱いだのに、まだ格好よく見える。


「高校来ないから、心配したんやんか」

 会いたかったから、とは言えずに、無難な答えを返した。


「心配してくれたんだ」

 臆病な私に、洸はそれでも嬉しそうに笑った。

「ごめんね。この1週間、芸能事務所に通ってたんだ」

 さらりとそう教えてくれた。


 嘘をつかれなくて、安心した。

 この期に及んで私は、傷つくことを恐れている。


「芸能事務所って、アイドルにでもなるつもりなん?」

 冗談のつもりだった。

 身近な人間がアイドルになるなんて、現実味がなかったから。

 なのに、洸が小さく頷いたものだから、戸惑った。

「え、ほんまに?」

 確かに洸はアイドルにいてもおかしくないルックスではあるけれど。


「僕の姉が勝手に応募したらしくてね」

 洸は口元に微笑みを浮かべたまま言った。

「文化祭に来た時に撮ったシンデレラの劇の動画を、事務所に送ったらしい。そしたら連絡が来たんだ。ほら、金曜日うちに来た時、やたら騒々しかったでしょ」

 

 ああ。そういえば。

 洸のお母さんは、すごい剣幕だった。

 というか。


「すごいやん。それって、洸くんの演じるスキルが評価されたってことやろ?」

 私は純粋に、嬉しいと思った。

 誰も僕の演技を見てくれないのだと、洸は悲しそうに言っていたから。


 けれど。


「ありがとう」

 洸は寂しげに微笑んだ。

「理乃ちゃんも応援してくれる?」

 そう尋ねる洸の顔は、あまり嬉しそうには見えなかった。


「芸能事務所は、まだお試し期間中なんだ」

 洸が言葉を続ける。

「でも、うん、僕には向いてるかもしれないね」

 その口ぶりは、どこか他人事のようだ。

「僕を見て幸せな気持ちになってくれる人がいるんだったら、こんなありがたい話はないよね」

 

 洸の顔から笑みが消えて、真顔になった。

 それは、初めて喋った日に電車の中で見せた表情だ。

 飼い犬が死んだ悲しみを、封じ込めていた時の。


「高校も、辞めようと思う」

 洸は決心したように言った。

「人を楽しませられる期間は短い。今からダンスとかを習うんじゃ、遅すぎるくらいだ。高校に行ってる場合じゃない」

 その口調は、まるで自分に言い聞かせているみたいに聞こえた。


「高校生活だって、今しかできないよ?」

 結論を急ぐ洸に、私はそう訴えた。

「勉強は、いつでもできるよ」

 洸はそう即答した。


「でも、勉強だけじゃなくて、部活とか、友達付き合いとか、あと、その、恋愛、とか……」

 そう食い下がってみる私の声は、後半に向けて小さくなる。

 それらはすべて自分が否定してきたものばかりで、どの口が言ってるんだと思えて。

 

 だけど、洸が教えてくれたのだ。


「洸くんは、どうしたいの?」

 私は、肝心の質問をした。


 洸の言葉の主語に、洸はいない。

 他人のことばかりだ。


「だって僕は、」

 洸はやっと少し感情らしいものを見せた。


「理乃ちゃん以外の子と、恋愛なんてできない」

 まるで駄々っ子のような表情で。


「だけど僕は、理乃ちゃんを困らせたくない」

 テーブルの上で拳を握りしめて、洸はそう言った。


「洸くんーー」

 その時、タイミング悪く注文のパスタが運ばれてきた。

 私の言葉は、パスタの湯気とともに宙に漂って、洸のもとに届かないまま消えた。


***


「うそ!洸くんじゃん!」

 そんな声が頭上で聞こえてきたのは、私たちがパスタを食べ終えた頃だった。


 顔を上げると、私たちと同じくらいの年頃の女子が3人立っていた。

 ひとりが手に伝票を持っているから、食事を済ませて会計に向かおうとしているところなのだろう。


「え、もしかして彼女!?誰とも付き合う気ないとか言ってたじゃん」

 裏切られたとでもいうように、女が口々に言う。


「あ、この子はいとこだよ」

 洸はさらりと嘘をついた。

「昨日からうちに遊びに来てるんだ」

 あまりにも自然なトーンで言うから、私まで自分は洸のいとこなのかと錯覚するほどだった。


「なんだ、ビビったぁ。洸くん、来週の同窓会は来るよね?」

「うん、行けたら行くよ」

「それ絶対来ない時のやつじゃん。いつなら空いてるの?」

「ごめん、ちょっとバタバタしてて、予定が読めないんだ」

「えー、もしかしてうちら、煙たがられてる?泣くんだけど」

「違うよ。本当に忙しいだけで……」

「いとことレストランに来る時間はあるのに?」

「それは……」


 女子3人に、洸が押されている。

 なんか、ムカつく。


「キスしたら許してあげるっ」

 女子のひとりがそう言ったから、さらに腹が立った。

 どこの誰か知らないけど、こういう人たちのせいで、洸は自分のしたいことを言えなくなったのだと思った。


「キスはちょっと……」

 洸が、さすがに断ろうとする。

「えー、中学ん時はしてくれたじゃん。え、やっぱ彼女できた?」

「そうじゃなくて……」

「じゃあいいじゃん。立って立って」

 洸の手を取って、強引に立たせようとしている。


「や、やめてよ」

 気づけば私は、洸の前に立ちはだかっていた。

「はあ?何?」

 洸の手を掴んでいた女が、白けたように言う。

「あんた、ただのいとこなんでしょ?黙っててよ」


 いとこであることを否定したら、洸が私を守ろうとしてくれたのが台無しになる。

 それなら……。


「いとこだけど、洸くんが困ってるでしょ。おばちゃんに言いつけるから」

 彼女たちに向かって、私はそう言い放った。

 心臓は早鐘を打ちはじめる。

 信じてもらえなかったら死ぬ。


「ええ、なにこいつ」

「ブラコンなの?黙ってろよ」

 女のひとりに、突き飛ばされそうになった。

 でも、それより先に、洸が私の手を引いた。


「帰ってくれる?」

 洸が低い声で言う。

 一瞬、自分が言われたのかと思って心臓が冷えた。


「僕のいとこを侮辱する人の顔は、二度と見たくない」

 洸は、そうきっぱりと女子たちを跳ね除けた。

 そんな洸の姿を、私は初めて見た。


 女子たちがぶつぶつ言いながら退散した後、極度の緊張から解放されて、私は自分の席に崩れ落ちるように座った。


「理乃ちゃん、嫌な思いさせてごめんね」

 洸が、悲痛な声で謝ってくる。

 洸が悪いわけではないから、私は茶化さざるをえない。

「まさか、いとこだったとは知らんかった」

「え、違うよ!?」

「分かってるわ!」

 どうなってんねん、この男。


「中学でもキスしてたんか」

 水を飲みながら、何気なくそう呟いた。

「うん。あ、でももうしないよ。理乃ちゃんと約束したし」

 洸がそう真剣な目で宣言する。


 約束したし、キリッ、ちゃうねん。

 私がどういうつもりでそんなことを言ったのか、気にならないんか。


 いや、違うな。

 私がはっきりしないのが悪い。


「洸くん」

 私は覚悟を決めた。


「こないだの公園に行かない?」

 今度こそちゃんと、好きだって伝えよう。

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