93 思い知れ、僕らの本気を
いつもの2,5倍あります。
万千代さんから手紙が来た。家康様の正室が武田との内通の疑いがかけられて殺されたこと。そして嫡男だった信康様がそんなことがあるわけないと何故か切腹したこと。先生の定期検診のために来たなつに聞いたところ、どうやらこの事件を前世では信康事件と言ったそうだ。家康様、いや徳川の人はきっと辛いだろうな。証拠もなしに殺さざるを得なかったなんて…。
先生の定期健診と言ったが半兵衛先生も段々、状況が悪化している。今すぐに死ぬということはないようだがもう治療だけでは治りきれないところもあるそうだ。なつが見た感じあと1年持つかどうかぐらいとのことだ。それまでにどうにか、この目の前の戦を終わらせたいのだが…中々三木城も粘る。
「うーん。」
「出た、若様のうーんが。」
慶松か。何でクスクス笑ってるの?
「何かおかしいかな。」
「い、いえ。…何か悩んでいるようですが。」
「…先生があの世に行く前にこの戦が終わらないかなって。」
「それは、難しいですね。私も官兵衛様と共に考えてはいるのですが中々良い案は出て来なくて。」
「やっぱり包囲するしかないよね。この城、無理に力攻めしても落とせる気がしないし。」
「若様は頭も腕も使えてすごいですよね。市松は力攻めしか考えられないそうですよ。」
そんなこと僕の前で言われてもどんな反応をすればいいかがわからなくて困る。
「…そういえば若様。丹波では明智様と細川様が丹波と丹後を平定したそうですよ。」
「十兵衛様と藤孝殿か。丹波と丹後の統一は2人にとって長年の夢だったからさぞ喜んでいるだろう。」
「…若様?」
「何かおかしかった?」
「いえ、何も…。」
僕がさぞを使ったことに違和感を感じているっぽいな。段々この時代の言葉に慣れてきたから使ってみたんだけど駄目だったかな。
「伝令!別所勢が城から出てきました!」
またか。
「場所は大村で合ってる?」
「え、あ、そうですが…。」
「ならば大村に行く支度をするよ、慶松。」
「お待ちください!同時に毛利も攻めてきました!」
毛利、だと。…まさか義昭がまた何かやったか?
「若様、どうしますか。」
「まずは秀吉様に相談だね。」
「…何で若様は大村に向かうとわかったのですか?」
「後で説明するからとりあえず秀吉様の所に行くよ。」
「先程の伝令の方に聞いたところ現在、大村に三千ほどの三木勢が、そして平田に毛利勢が同じく三千ぐらいいるとのこと。」
「兵糧の運搬のために出てきた感じか。」
「多分そうですね。平田には確か谷大膳殿がいたはずですが…。」
「恐らくやられただろうな。…さて、どう攻める?」
「私は平田に向かいます。誰が毛利の兵を率いているかはわかりませんがもしかしたら知人の場合がございますので。ですが数が150ではちょっと…。」
久太郎さんは一時的になつを家に帰しているため不在なのだ。いつもならついていくよって言ってくれるけどいない時は自分で決めにくいから困る。
「虎之助をつけよう。それなら―」
「足りませぬ。毛利は侮ってはなりませぬ。尼子殿の件を秀吉様は忘れたのですか?」
「…わかった。だったら追加で小六殿も―」
「秀長様でお願いします。久太郎さんがいない今、私の行動を止められるのは秀吉様か秀長様しかいませんので。」
「随分我が儘だな。…しょうがない。確かにおいらと菊の代わりを任せられるのは小一郎しかいないからな。行ってこい、孫四郎。」
「はい。…大村は任せましたよ、秀吉様。」
「そっちもな。」
「若様は怖いですね。私だったらあそこまで秀吉様に言わないですよ。」
「長年の付き合いだからね。僕や久太郎さんはいつもあんな感じで秀吉様と関わっているから。」
「それで大村の件ですが―」
「僕の予想としては毛利領に近い宇喜多あたりが兵糧を運ぶために平田に来ると思っていたんだ。その時の道を開けるために一旦大村あたりに出てくるかなって読んだんだけど…まさか毛利本隊が来るとは。」
「知人と言っていましたよね?一体―」
「それは旗を見ないとわからないかな。」
これはある意味賭けでもあるのだ。もし、あの人だったら…。
違った。誰だ、あれは。吉川や小早川の旗ではどう見てもなさそうだ。隆景殿、貴方に来てほしかった…。いや、来ても戦うだけだったかもしれないけど。
「既に谷殿は討死したみたいだぞ、孫四郎。」
秀長様からの報告だ。
「そうですか。…毛利は火矢を放って攻撃してきます。あの陣の燃え具合を見れば誰でもわかるはずです。」
「まあそうでしょうな。焼き討ちをするのは織田家ぐらいしかいませんし。」
虎之助殿もわかっているね。
「とすると、遠距離から攻撃しても流れ矢に当たって死ぬ可能性もある。」
「実際、弓は技術だけではなく天候も関係あるし、な。」
「僕たちが使う鉄砲も錆落としはしましたが距離的に言えば多分ここからでも届かないですね。…1つを除けば。」
「若様の使うものだけではあまり意味を成しません。…それは?」
僕が取り出したのは新しく作った弾薬だ。
「これは以前、久秀殿と一益様と一緒に作った物の改良品です。とりあえず1発撃てばどうなるかわかると思うので見ていてください。」
いつも通り弾込めをして近くにあった木に撃つ。弾が木にぶつかるところまではこれまでの鉄砲玉と同じだ。だがここで弾が爆発し、木に大きな穴が開く。
「どうなっているんだ?今までで見たことがない穴が開いているが。」
「あの弾は2回爆発するのですよ。1回目は弾がものに当たったとき。そこで弾が破裂してバラバラになって終わったかと思わせて中の爆薬が爆発します。それが2回目ですね。」
「…多少は距離を稼げなくはないと。」
「そうですね。後は天候次第かな。もしこちらに向かって風が吹いたら逆にやられる可能性がありますので。」
「わかった。…無理はするなよ。」
「秀長様も後ろは任せましたよ。」
「何とかする。」
よし、ここまで近づけば多分当たるだろう。
「若様。」
慶松か。…よし、決めた。
「…指揮、やってみる?」
「え?」
「十兵衛様は長篠の戦いの時、上様の側にいたけど堂々と指揮を取っていたよ。慶松も出来るんじゃないかなって。」
「私が?若様の?」
「うん。タイミング…撃つ瞬間を判断するのは任せたよ。」
「…やってみます。」
「織田勢だ!皆、行くぞ!」
さあ、敵が近づいてきたよ。
「鉄砲隊、構え!」
堂々としているね。…何かを後ろに感じる気がする。
「撃て!」
ナイスタイミング。これは絶対当たる。
「な、何だ?…。」「何故再び―」
これは強い。鉄砲の歴史に新たな1ページを作ったと言っても過言ではない。
「…雨か。」
ここで雨が降ると相手は火矢を撃って来れないはず。…何だと。
「ケケケ。織田の策を我らが知らぬとでも思ったか。」
前世で言う盾みたいなものを毛利勢は装備し始めた。…まさか、紙?違う。カーボンだ。でも何でそれの作り方を知っているんだ?
『…でも気を付けた方がいいですよ。信長は十数年以内に誰かに討たれる。』
まさか、毛利元就も…。
「孫四郎様、紙の盾だぞ。あんなの―」
「あれは紙ではないのです。西洋ではカーボンと呼ばれる素材です。もし、あれに撃ったとしてもカーボンの方が固いですから逆に跳ね返ってきますよ。」
「どうすればいい?」
どうしよう。…これしかないか。
「慶松、もしものことがあったら頼んだ。虎之助殿!護衛を頼みます!」
「わ、若様⁉」
「わかりました。絶対に貴方様を守って見せます。」
そう言って刀を抜き始めた。
「若様、待って―」
「慶松殿、戻りましょう!孫四郎様なら大丈夫です。絶対に。」
松右衛門さん、ありがとう。…勝てるだろうか、あの毛利相手に。いや、僕ならいける。絶対に。
「来たぞ!かま―」
「悪いけど槍は意味がないよ。…かかってきなよ。全員、この前田孫四郎が相手してくれる!」
皆を守る。ここで退いたら食糧が三木城に入ってしまう。絶対にそれだけは阻止しないと。
「舐めやがって、このわかぞ―」
そう言っている間にも僕はどんどん人を切っていく。…ごめんなさい、隆景殿。でも、これしかなかったんだ。
「…強い。孫四郎様つよ―」
「ぼうっとしてると討たれますよ!」
危ない。今、僕が切らなかったら虎之助殿は死んでいたはずだ。
「申し訳ございません!…この恩は絶対に忘れません。」
そう言って虎之助殿も動き始めた。…まだ、いける。
駄目だ。中々背中を向けてくれない。
「隙や―」
相手から攻めてくれないと中々討ち取れない。厄介だ。
「ハアッ、虎之助殿、疲れたら退いても大丈夫ですよ。」
「いや…貴方を残して退くことはできない。」
もうスタミナが限界だ。きっと虎之助殿も同じだと思って聞いたのだが…どうしよう。
「孫四郎!虎之助!」「孫四郎様!」
この声は…。
「秀長様!直政殿!」
「やはり私が行って正解だったな。小六殿に孫四郎を止めることはできないからな。」
「孫四郎様。秀政様がいない時は某を頼ってくだされ。あの方ほどではないですが、某も采配には自信がありますので。」
「ごめんなさい、直政殿。今後は直政殿も頼らせて頂きますね。」
「秀長様!遅れて申し訳ありません!」
あ、懐かしい声だ。
「高虎殿!お久しぶりです。…算盤?」
「あ、これはうっかり。にしても久しぶりですな、孫四郎様。安土以来でしたっけ?」
「多分そうですね。…って敵が来てます!」
「任せてください!」
すごいな高虎殿。すぐに切り替えて敵を瞬殺。それを槍でやってしまうんだからな。
「何ぼさっとしてるんですか?皆さんも手伝ってくださいよ。それとも、孫四郎様たちはもう疲れてしまったんですか?」
「…いえ!俺はまだ疲れていません!ですよね、孫四郎様!」
どうしてその流れになる。体に無理な負荷を与えるとこの体の場合壊れるから嫌なんだけど…。
「…しょうがないな。僕をこれ以上働かせるってことは後でねね様に説教してもらわなきゃだけど…いいよ。今日だけはね。見といてよ、虎之助殿。」
次の瞬間、僕は敵を滅多打ちにするために敵陣に突っ込んでいた。
~秀長視点~
孫四郎、やっぱりお前はすごいよ。兄上や利家殿のような足のさばき、そして剣術も柴田殿を感じるように美しい。その上、半兵衛殿のような頭も使える。皆の特技を受け継いだ完璧な人だ。だが、無茶をさせているよな。やっぱり断れない一面もあるんだな。こんな時に久太郎がいたらと思うと…おっとそろそろ決着がつきそうだな。
~孫四郎視点~
片付いたね。3000人いた敵兵も気づいたら半分まで減った。流石の毛利軍でもこれは焦ったのか大将の命令に従って撤退していった。こちらの死者は200人。まあまあ亡くなってしまったね。…この死んでいった兵は谷殿の兵だったとのこと。もっと早く気づけたら…。僕も忍びを雇いたいな。少しでもリスクを減らすために。
さて、ようやく自陣に帰ってこれた。
「若様!」
慶松?どうして泣いているの?
「よかった、若様。いつもなら怪我をしないで帰って来るのにボロボロになって帰って…。」
本当だ。ガチガチに装備を固めたはずなのに全身傷だらけだ。
「これぐらい数日で治るよ。そんなに出血していないし。一応洗いに行ってくるけど。」
「…水を持ってきたよ。」
「先生!無茶をしないでください。…ようやくこの戦も終わりそうです。」
「秀吉殿の方は比較的楽に撃破したみたいだけどそっちは大変だったみたいだね。」
「文武両道って大事なんだなと改めて感じた戦でした。…痛た。」
「止血は出来ていそうだけど傷の箇所が多いね。いい顔が台無しだよ。」
「…多分この戦が終わる頃には本願寺も降伏するでしょう。そうすれば残す敵は武田・上杉・毛利のみになりますね。」
「北条や四国・九州はどう考えているのかな?」
「北条は本願寺降伏と同時に降伏すると読みます。四国は十兵衛様が上手くやってくれてるからしばらくは問題ないはずです。九州も畿内を制圧すれば臣従するんじゃないかなって。」
「…その言い方だとその先も読めているみたいだね。」
「はい。…生きましょう。僕はまだ先生と一緒に生きたいです。」
「早くこの戦が終わらないかな…。」
それは皆同じ思いですよ。
~別所長治視点~
叔父上が秀吉殿に負けた。…後は降伏の支度をするのみだ。
カーボンは某化学漫画でも出てきたとおり非常に固いです。何故毛利軍は作り方を知っていたのかの回を本編で作るかは未定です。
次回で三木城の戦い完結です。ですがその公開日はまだ未定です。




