89 歴史は変えられない。例えどんな手を尽くしても
丹生山の焼き討ちは史実では秀長が行ったと言われています。
しかし今作では違う人物によって焼かれることになりました。
同じ頃
~孫四郎視点~
…。
「孫四郎さん?」
「若様?」
「…。」
焼き討ちなんてしたくないよ。でもここでやらないと…。
「孫四郎さん!」
「は、はい⁉」
「しっかりしてよ。ここにいる皆、孫四郎さんが焼き討ちに賛成じゃないってわかってるよ。でもね、時には実行しなくちゃいけないこともあるんだよ。」
「…山だけ焼いて皆を逃がしたりとか―」
「平和的なことは言わないの。」
「…。」
「若様、この8年間一緒に過ごしてきてあなたという御人は優しいお方だということは十分承知しています。ですが4年前の若様は今のような優しさ―」
「そういうことか。…今だけ上様のような状態になれってこと?」
「違うよ。…僕に任せて。」
久太郎さんに任せる?…駄目だ。そんなこと、到底…。
「…ゴホッ、ゴホッ。」
え、何でここにいるの?
「先生、休んで下さいってずっと言っているでしょ?何で―」
「孫四郎、今、君は何を考えているのかな?」
「…そうですね。皆に手を汚してもらいたくない。でも自分で焼き討ちをしたくない。と考えています。」
「…そうだよね。孫四郎にとって秀吉殿も秀政殿も大事な仲間だもんね。でも君はあれ以来自ら焼くのが恐ろしくなった。」
「…はい。一時期は気が狂ってたこともありましたが。」
「あれは信長様のせいってことにしておきなよ。」
それでいいのか?あれは自分の…いや、今は関係ない。
「ではどうすればいいのですか?」
「…そこにいるじゃないか。向いている人が。」
先生が指を指す先には官兵衛殿がいた。
「…俺ですか?」
「じゃあ後は任せたよ。」
「は、半兵衛殿!待ってく…全く。半兵衛殿も君も自由気ままではないか。」
何で僕も巻き込まれるの?…いや、確かに自由気ままだ。まあ僕の場合は昔からの性格だから変われないだろうけど。
「いいかい。君たちはまだ若い。つまりこういう汚れ仕事をやるべきではない。」
「官兵衛殿もまだ33ですけどね。」
「…33で若いか。やはり変わっているな、君は。」
33歳は若いでしょ。
「…汚れ仕事をやるべき人を優先順に並べるとジジイ、年寄り、大将、そして君たち若者と言うわけさ。」
なるほど。ジジイがいるから自分は年寄りと呼ばれても構わない…論点が反れる。
「つまり、今回の焼き討ちは官兵衛殿が責任もってやると。」
「病人の半兵衛殿に任せても危ういし小六殿や秀長様にやってもらうのも鴻門の会の范増みたいで嫌だし、だったら軍師の俺がやった方がいいでしょ?」
なんか、この人すごくいい人に見えてきた。
「慶松、君もいずれ俺のような役割を自ら引き受けるようにするんだぞ。」
「はい。…若様、いつかは私に汚れ仕事を―」
「まだ早い!それとすぐに流されるのはよくないよ。…まだ元服もしていないし。」
「あ。」「それ触れちゃうの?孫四郎さん。」
…触れちゃ駄目だった?
~慶松視点~
若様、私は焦っているのですよ。あなたは9歳で元服したんですよ!確かに年齢はあまり関係ないというのは重々承知です。でも私、今16ですよ!もうそろそろ元服させてもらってもいいんじゃないですか?
「孫四郎さん、慶松はもう16なんだよ。孫四郎さんは何歳で元服したか覚えている?」
「9つですけど…。」
「確かに9歳は早いよ。でもね16は遅いと思うんだ。」
「そ、そうですか?18ぐらいまでは大丈夫かと思ってましたが…。」
「それは孫四郎さんの世界の話!僕らが生きている時代では14,5,6ぐらいで元服するのが当たり前なんだよ。」
「…わかりました。この戦と本願寺との戦が終わったら元服させましょう。」
ほっ。つまり来年ぐらいには元服できるってことか。でも嬉しかったな。若様が私のことを思って元服を延期させてたなんて。やっぱりこの方には一生ついていきたいな。
「ところで慶松、今から官兵衛殿の所に行っておいで。」
「官兵衛様の下へ?」
「…僕の家臣ならば一度は見ておかなくてはいけないと思うんだ。あの地獄は。」
「私も見ましたよ。若様、私はどこであなたに拾ってもらいましたっけ?」
「延暦寺、ね。でも…。あれは両方の立場が分からないと何で僕がそんなに嫌がっているのかがわからないと思うんだ。」
「どういうことですか?」
「…とりあえず行っておいで。」
そう言って若様は久太郎様のいる方へ向かって行った。
「来たな、慶松。…では焼き討ちのやり方を教える。」
官兵衛様はいつも以上に真面目に話す。
「よろしくお願いします。」
「早速だがすぐに丹生山に向かう。馬は持っているか?」
「…持ってはいますがあまり乗りこなせては―」
「持っているなら乗れるだろう?行くぞ。」
この方もやはり強引に事を進めるのか…。
「まずはこの矢に油を塗りまくる。」
「え、若様に聞いたやり方とは違うのですが…。」
「俺は伝統的なやり方は好かない。…次にこの孫四郎が作った燐寸棒を使って火を点ける。」
燐寸棒か。…まさか。
「この火の付いた矢を適当に寺のある方向に放つ。するとだな。」
官兵衛様が放った火矢は奥の木に当たった。次の瞬間、山の方に風が吹き始める…!
ゴオオオオオ…。
「お、恐ろしい。たった1本でこの威力ですか…。」
「今回は風が吹きそうな雲が流れていたから少ない材料で済んだ。これが風一つない晴天だったら孫四郎が上様に教わった方法でやるのが正しいのだ。」
若様、私わかりましたよ。声は届きませんが多くの僧兵があの火の中で燃えながら焼けていくのを見るのは確かに嫌ですよね。しかも自分たちの手によって。だから汚れ仕事は軍師がやらないといけないのか。…焼き討ちは確かに敵の戦意は挫くだろう。だが、それによって罪のない命も消えていく。私はそんなことが起きない世を若様と築き上げていきたい。
ギリギリの更新でごめんなさい。
次回も孫四郎視点です。




