83 親子の想い
~信長視点~
尼崎城が落ちた。まさか信忠と信澄が独断で城を落とすとは思わなかった。だがそのおかげで織田本隊は花隈城攻めに集中できるからよしとしよう。それにしても遺体の数が少なすぎる気がするが…まさか、あ奴ら。
「上様、早く進軍しましょう。信忠様たちが待っております。」
「そうだな。」
孫四郎、お前だな?余をだましているのは。
~信忠視点~
さて、いよいよ最後の城の花隈城を落としに行くか。
「信忠様、勝手な行動を取って大丈夫でしょうか?」
「兄者、もう戻れぬからいいではないか。それに何かあったら私が責任を取るから心配せずとも大丈夫だ。」
とはいうものの私も怖いんだけどな。とは口が裂けても言えない。
「…さて行きますか。」
「うむ。…この戦が終わったら、今度は孫四郎を助けに行かなくてはな。」
「孫四郎か。…あの子は多分助けは求めてないと思いますけどね。」
確かに今の孫四郎は半兵衛や久太郎がいるから別に孤独ではないな。むしろ今の方が居心地がいいのかもしれない。…考えていても時間の無駄だし行くか。早くこの戦を終わらせなければ。
~村重視点~
もう、後がない。だがこれで良いのだ。あの馬鹿にも気づいてほしい。時代は織田だぞ、と。
「村重様、信忠殿が率いる軍勢が尼崎を落としたとのこと。」
「…そうか。では予定通り籠城…いや、城門は空けよ。そして武器は一切持つな。」
「はっ。…はっ⁉」
全く。何でも大人しく聞きおって。元清、やはりお主はあまり戦闘に向いておらぬな。せめて時があれば弓術ぐらい安芸守に習わせてやれたものの…おっと、話が反れてしまったな。
「父上!」
この声は村次か。
「無事で良かったぞ、村次。…落ちたか。」
「はい。信忠殿や津田殿がまさか有岡城の落城前に攻めてくるとは思いもしませんでした。」
こやつも戦闘に向いておらぬ。…わしもだがな。
「まあよい。お前たちに言っておきたいことがある。わしは自害するつもりじゃ。信長様の怒りは激しい。わしが死ぬより―」
「なりませぬ!父上が死んで得なのは義昭様だけ!信長様も毛利様も誰も父上の死を望んでおりませぬ!」
なっ…。
「村次…。」
「父上は先が見えておらぬ!勝手な行動を取って信長様を戒める?そうやって行動した浅井長政や松永久秀の最期を覚えておらぬのか!」
「覚えて―」
「だったらなぜ妻子を見捨てて逃げ出した?某の妻も母上も有岡城に残したまま逃げ出したのはなぜだ⁉」
…何も言い返せぬ。
「…最後まで戦いましょう。私はもう覚悟が出来ています。二度も同じ失敗は許されないでしょうし。」
「…待たれよ。何故2人だけで話を進まれる。…生きましょうよ。奥方様や死んでいった皆のことを考えているのであれば生き残るのが彼らへの義なのではないでしょうか?」
元清…。
「元清殿の仰る通りですね、父上。」
「ああ。…村次、其方は戦には優れていないが家族を思う気持ちは誰にも負けておらぬな。…お前は瀬兵衛の下に行って降伏しろ。瀬兵衛に降りに行けば悪いようにはされまい。」
「…父上は?」
「わしは元清とともに毛利に行く。そうすればどちらかは生き残ることはできるだろう?」
「…嫌でございます!皆で織田家に戻りましょう!もう家族が別れるのは嫌でございます!」
「それは敵わぬ。わしが勝手に取った行動を信長様は決して許さぬ。良くて永牢、悪ければ処刑は免れまい。」
「村次殿、村重様を生かしたいのであれば毛利か義昭殿の下に向かう以外選択肢がないのだ。」
「…いつかは父上の汚名を覆すような活躍をして。…父上が織田家に戻ってこれるように。…私は日々。…ウウッ。」
「その程度で泣くな。わしの息子はこの程度では…泣かないはずだぞ…。」
「…父上も泣いてるじゃありませんか。」
「これは涙ではない。…達者でな。」
「…はい。後はお任せください。」
上様、倅の将来は任せましたよ…。
~信忠視点~
花隈城に着いた。あれは、白旗だ。まさか…。
「織田信忠様ですね。荒木村重が子、村次と申します。貴方様に降伏を申し入れたく―」
「荒木殿はどうした?」
後ろの瀬兵衛殿が突然口を開いた。私も同じことを考えていたから今回は目を瞑ろう。
「…父は毛利に降りました。もう、この地に戻ってくることはないと思います。」
そうか。あの男は最後まで逃げ切ったのか。…卑怯者め。だがそのおかげで多くの命を助けられた。まさかあの男は最初からそれをわかっていて行動していたのか?ふっ、まあよい。
「信忠様?」
「…何でもない。帰ろうか、兄者。もうこの者から何も聞くことはあるまい?瀬兵衛殿、この者は其方が保護せよ。父上が何を言おうとも、絶対にこの子は守ってやってくれ。」
「承知しました。」
「…はい。帰りましょう。きっと、信長様は気づいていても何も言ってきませんし…。」
全く。荒木村重は何をしたかったんだ?
この後、荒木村重は毛利、羽柴と仕える家を転々とすることになる。またこの頃から道薫と名乗り始めたという。そんな彼が晩年愛した花は紫陽花だったと後年、荒木元清は著書に残している。
荒木村重退場です。
紫陽花の花言葉は知っている方も多いかもしれませんが家族団欒です。
もしかしたら、この世界の村重は家族を見殺し(実際は生きていますが)にしたことを後悔し、せめて彼らが生きていた頃を忘れないで生きていこうと思い、紫陽花を愛していたのかもしれませんね。
村次の生年はほぼ資料が少ないですが、私は1561年説を採用しました。後々の構想から考えるとこの年齢がちょうどいいかなって思い、こうさせて頂きました。
次回は戦後処理か三木城の戦いの続きのどちらかの予定です。




