76 山中鹿介という男
~光秀視点~
信長様は何もわかっていない。尼子勝久殿や鹿介は今後の織田に必要な人材だ。…我らの出会いは2年前だっただろうか。
2年前
「今回の八木城攻めに参加する者が揃っているか確認する。細川藤孝殿、左馬助―山中幸盛殿。ん?山中殿はどこにいる?」
「十兵衛殿、山中殿はあそこに―」
「おう!遅れて申し訳ない!…山中鹿介幸盛と申します。今回はよろしくお願いします。」
な、なんだ?この者、礼儀がならない男かと思ったら急に大人しくなった。私よりも若いのはわかるが…。
「山中殿、独断行動は控えてもらいたい。」
「鹿介と呼んでくれ!…実は先ほど妙な者がいまして、その者を捕らえたら近くの村を荒らしていた泥棒だったのです。盗まれた物を村に返していたら遅れてしまいました。」
何でこんなに性格が変わるのだ。
「し、鹿介殿。泥棒を捕らえるのは非常にいいことであるが事前に我らに伝えてほしい。今回は藤孝殿がすぐに見つけてくれたから良かったが今後勝手な行動を取るようでは二度と私の与力にしてもらわないようにお願いしてもらうぞ。」
「…すみません。以後気を付けます。」
「伝令!波多野と赤井が奇襲!」
「ど、どうしようか。十兵衛殿。」
「撤退する。殿は―」
「俺にお任せくだされ!」
「鹿介殿…。いいのか?」
「ああ。これもお家再興のため!皆!十兵衛殿を無事に退かせるぞ!」
「「応!」」
「十兵衛殿!無事に帰ってこれました!」
「鹿介殿…。其方は真の男だ。」
「気にしないでください。この間の失態を取り返すために引き受けただけです。」
「あれ?この間はお家再興のためと言っていなかったか?」
「…ばれましたか。私は元尼子家臣です。尼子はこれまで何度も毛利に痛い目に遭ってきました。尼子家滅亡後も石見や出雲の皆はひどい目に遭っていると聞いています。私は彼らを助けたい。ですが我らだけでは失敗してしまう。なので今は織田家にやり方を学んでいる最中―」
「待て、鹿介殿は尼子を再興させようとしているのか?」
「はい。…何かやりづらいので元の口調に戻っていいですか?」
「全然いいが…。」
「では…俺は尼子を再興させるためにここまで来たんだ。皆には危険と感じる殿も俺らにとっては何も怖くない。だから普通にあの場では手を挙げた。」
「…もしや其方、山陰の麒麟児と呼ばれている―」
「ようやく気付いたか。ああ、そうだよ。あんたと同じ麒麟児。だから最初は普通に馴れ馴れしく接しようと思ったんだ。でもあんた鈍感だからな~。」
「ど、鈍感…。でも気に入った。私のことをあんたと言ってくれたのは久しぶりだな。鹿介、私のことも呼び捨てで呼んでいいぞ。」
「でも十兵衛殿とは20ぐらい年が違うぞ。」
「構わぬ。私も最近の友は藤孝殿しかおらんのでな。」
「皆関わりにくいと思うぜ。十兵衛…とは。」
「私も今から20年前に居城を失った苦い記憶があるのだ。其方の気持ちはなんとなくわかる。…出来る限り協力しよう。」
「流石に他人に協力を求めてはねえよ。…でもあんたは何か希望があるように見えるな。」
「希望?私にか?」
「ああ。少なくとも魔王様よりは希望があると思うぜ。」
魔王様?あ、信長様のことか。
「…其方も魔王様と呼ぶのか。」
「十兵衛も?」
「いや、私はそうは思えないのだが…。」
「…いずれ気づくはずだぜ。その考えは間違っているってな。」
「十兵衛!今度から上月城に詰めることになった!」
「上月城か。確か秀吉殿が取ったばかりの城だったな。…尼子勝久殿もか?」
「ああ!勝久様が城代として詰めるんだが俺もその支えとして行くことになった。…これからは秀吉と一緒に行動することになる。少しの付き合いだったけど楽しかったよ。ありがとな。」
「何か死にに行くような感じだな…。」
「…大丈夫。絶対に生きてまた会えるさ。」
鹿介…。無事に生きてくれれば何でもいい。もう一度私の前に顔を見せてくれ…。
~秀吉視点~
上月城が囲まれた。すぐに援軍に行きたいが長治も挙兵したからすぐには行けないな…。
「秀吉様、荒木殿が!」
荒木殿?…まさか。
「まさか有岡城も―」
「はい。信長様から伝言です。すぐに三木城から兵を退き有岡城にむかえとのこと。」
官兵衛?何か怪しいぞ?
「…嘘だろ。鹿介を見捨てろってか?」
「…三木城には秀長様と利長殿が援軍に向かうようです。なので―」
「そうじゃない!おいらがいなくなるということは後詰が来るぐらいわかる。…上月城はどうなる?」
「…見捨てると…。」
う、そ、だ、ろ…。
2か月前
「今日から貴方様の与力になりました、尼子勝久と申します。」
「その家臣の山中鹿介幸盛です。鹿介と呼んで下さい。」
「勝久殿に鹿介な。俺は羽柴秀吉。藤吉郎なり秀吉なり好きに呼んでくれ!」
「お、俺に最初から呼び捨てで呼んでくれるんですか?」
「だってお前、おいらと同じ感じで生きてきただろ?」
「あ、はい。」
「別に言葉遣いも適当で構わないぜ。うちは変わり者しかいないから。」
「「「おい!変わり者とはどういうことだ!」」」
「ひっ!すみません!」
何で俺が謝らなくちゃいけないんだよ。
「…まあこんな感じだ。何か困ったことがあったら何でも言ってくれ!」
「承知しました。」「了解!」
「鹿介!光秀殿からはどんなことを話した?」
「あ、秀吉…。そうだな、十兵衛とは兵法や鉄砲の使い方についての話をいっぱいしたかな。」
「兵法か。うちにもな、竹中半兵衛殿や黒田官兵衛という頭のいいやつが2人もいるんだ。半兵衛殿は今、長浜にいるけど官兵衛はいつでも姫路にいるから何でも好きなことを聞いてやってくれ。あいつも友達が少ないからな。」
「も?」
「…おいらも最初は友達がいなかったんだよ。父親が足軽から始まった奴に構ってくれる奴なんて誰も話しかけてくれなかった。そんな中でも話しかけてくれる人もいた。小六殿や丹羽様とかな。でも段々と実績を重ねるにつれ話しかけてくれる人も増えていった。柴田の親父様や半兵衛殿、光秀殿もそうだったな。最初、岐阜で知り合った時は全く話しかけてくれなかったのに墨俣城を奪っただけで急に態度を変えて話しかけてくれた。悪いと思っていた人も話してみると実はいい人だったりするんだぜ、これが。」
「確かに十兵衛は最初は関わりづらかったな。…秀吉が最初から関わりやすかったのも今まで辛いことをたくさん経験していたから?」
「ああ。何か嫌な感じに過ごしていてもいいことないじゃん?だからおいらはなるべく周りに元気を与えるために明るく振舞っているんだ。…あいつにはばれたけど。」
おっと、ここで別の人の名を出すのは良くないな。
「…おっともうそろそろ行かねえと。」
「また何か困ったことが言えよ!」
あの会話しかまだしていないんだ。もっとあいつと話をしてみたいんだ!
「…行くぞ。上月城に。」
「え、それは―」
「わかってる。お前は荒木殿を助けたいんだろ?でも荒木殿はきっと生き残れる。それより鹿介だ。早く助けに行かないと―」
「ならば…ならば俺を有岡城に使者として送って下さい!この状況で三方に敵を持っていると危険です!」
「…捕まるだけだぞ。」
「秀吉様!孫四郎です!援軍を連れてやってまいりました。…信長様からの伝言です。羽柴隊は三木城を攻めることに専念せよとのことです。」
孫四郎?早いな。もう来てくれたか。…待てよ。
「おい官兵衛。お前、嘘ついたな。荒木殿を助けるために嘘を―」
「申し訳ありません!…ですがどうしても荒木殿を助けたくて。」
「…わかってるよ。お前と荒木家の関係は。わかった。行ってこい。但し捕まっても知らないからな。」
「いや、知らないはひどいですよ。…あなたが黒田官兵衛殿ですね。前田孫四郎利長と申します。何がどうなっているかはちょっと理解しづらいですがとりあえずご武運をとしか言えないですね…。」
多分全員状況を理解していないから大丈夫だと思うぜ、孫四郎。
「黒田官兵衛孝高です。あなたが前田利長殿ですか。…まだ幼いのにご苦労様ですね。」
「私のこと舐めてます?」
「ちょっと孫四郎。官兵衛殿はきっとそんなつもりで言っているわけじゃないと思いますよ。」
半兵衛殿!久しぶりだな。
「そうですよ若様。…ここが戦場なのですね。」
慶松も来たのか。もしかして初陣か?こんな戦で初陣を飾るとは…。
「はい。警戒は…万全だね。孫四郎の教えが役立っているね。」
「それは先生の教えでしょ?…なんて言っている場合じゃない。その様子だと一旦城攻めをやめて別の所に行こうとしているように見えますが…上月城ですか?」
「何で分かった?…ああ。俺は鹿介を助けたい。だから上月城に―」
「今は駄目です。吉川軍の警戒はかなりやばかったです。途中で視察に行ってきましたけどこの軍勢でぶつかったとしても負けるだけです。下手したら手取川以上に死者が出るかも…。」
「孫四郎の言う通りですよ、兄上。もし追い払うとすれば城を取って油断している隙に行くべきです。…兄上と鹿介の関係もわかってますよ。おそらく光秀殿も同じ気持ちでいるはずです。でも光秀殿は大人しく有岡城を攻めに向かいましたよ。ここで助けたいのは皆同じです。…。」
小一郎、涙を流しながら言ったら説得力がないじゃないか。…わかったよ。
「納得いかないが信長様に逆らったらもう終わりだからな。官兵衛も気を付けろよ。証人がおいらたちしかいないから捕まった場合、松寿丸の命はないと思え。」
「…わかりました。」
「というわけでおいらたちは三木城攻めを再開する。…。」
「いいのですね?…兵糧攻めの準備をしましょう。孫四郎、今この場にいるのは―」
「羽柴隊、堀隊と私の部隊が若干です。でも十分足りると思います。…いや、先に野口城を落としましょう。」
「確かにいきなり兵糧攻めをやるのは愚か者がやることだね。―」
鹿介、何とか耐えてくれ…。
同刻
~山中鹿介視点~
もう、逃げられないな。
「城門が破壊されました!」
「…そうか。勝久様、ここはもう駄目です!脱出路から逃げましょう!」
「いや、私はもう逃げない。これが尼子が迎えるべき結末だったのだ。だが鹿介、其方は生き延びよ。今まで世話になったな。」
「何で諦めるのです!まだ舞えます!」
「…別所と荒木も挙兵した。信長様の援軍は来ないぞ。」
「でも―」
「我らの役目はこの上月城を死守すること。それを果たせず逃げるのは嫌なのじゃ。…行け。」
次の瞬間、俺は近くにいた兵に脱出口に強制連行された。
「な、何をする!勝久様!勝久様!」
俺は尼子再興しか考えていなかった。…尼子がいなかったら生きる意味がない。だったら…。
「毛利の雑魚兵ども!この山中鹿介が相手だ!何人でもかかってこい!」
「何だと⁉…あいつをやってしまえ!」
あ…。勝久様、もうすぐ私もあなたのお側に行きますよ。十兵衛、秀吉。達者…でな…。
四月十五日 山中鹿介 討死
山中鹿介という男を私はどうやって描きたかったのか。私的には荒い性格をしていながら実は仲間のことを一番に考えていた人にしたかったのですが上手くいきませんでした…。
鹿介はこの1回しか出てきませんが彼の死は4年後のあの出来事にもつながってきます。そのためあえて光秀と秀吉視点を加えたら丁度いい文量になりました。
ここからの順番は松寿丸事件→御館の乱のダイジェスト→有岡城と三木城を同時進行にする予定です。




